SHOWCASE
ふつうじゃない、ふつうの靴。

2024.04.10

各界のプロの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。

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グッドイヤーウェルト製法によるマシンメイドながら、ビスポークと見まがうほど有機的なフォルムの「ハン シューメーカー」。現在は甲府市のアトリエか、国内外で開催されるトランクショーにて注文が可能。右から¥147,000、¥160,000、¥160,000(すべてHAN SHOEMAKER 055-206-1213  atelierrikka.shoe@gmail.com

能書きばかり並べ立てる今どきのラーメンよりも、名もなき町中華で食べるふつうのラーメンのほうがおいしかった……みたいな現象に、近頃やたらよく出くわす。どんなに優れた素材や技術も、その使いどころを間違えたら、本来の持ち味は発揮できない。だとしたら、その決め手となる要素ってなんだろう?

そんなときにInstagramで目にしたのが、韓国人靴職人のハンさんが甲府市で主宰する小さな工房「ハン シューメーカー」の紳士靴だった。いわゆるパターンオーダーで、全くけれん味のないふつうのデザインだけに、どんな靴かと聞かれると困ってしまう。でもこの靴には、ふつうじゃないオーラを感じるのだ。その秘密は革? 縫製? それとも木型?

「ハンさん、どうしてあなたがつくる靴はきれいなんですか?」

そんな素人丸出しの質問をハンさんにぶつけたら、彼は笑いながら「ぼくが目指すのはふつうの靴なんですよ」と教えてくれた。もう少し具体的に伺うと、「徹底的に角を落とし、すべての曲線をつなげるよう心がけている」とのことだ。言うは易しだが、これをやり切れているシューメーカーは世界的に見ても数少ない。だってどれほど手間をかけても、気付く人はそう多くないから。もしかして、あのとき町中華で食べたラーメンにも、そんな哲学やこだわりが隠されていたのかな?

目先のキャッチーさばかりもてはやされる昨今にあって、そうした地道なものづくりを貫くのは茨の道かもしれないが、だからこそぼくは彼らを応援したい。だって〝本物のふつう〟は、ぼくたちの生活を豊かにしてくれるから。

文・山下英介
Eisuke Yamashita
ライター・編集者。『MENʼS Precious』などのメンズ誌の編集を経て、独立。現在は『文藝春秋』のファッションページ制作のほか、webマガジン『ぼくのおじさん』を運営。

「アエラスタイルマガジンVOL.56 SPRING/SUMMER 2024」より転載

Photograph: Yuki Saito
Styling: Hidetoshi Nakato (TABLE ROCK.STUDIO)
Text: Eisuke Yamashita

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