紳士の雑学

スーツのポケットに入れていいのは、チーフだけ。[男の服飾モノ語り]

2018.01.12

山本晃弘

問/スーツ¥120,000 ブリッラ ペル イル グスト(ビームス ハウス 丸の内 03-5220-8686)、シャツ¥26,000/エリコ フォルミコラ、タイ¥16,000 ルイジ ボレッリ、チーフ¥2,400 エストネーション(すべてエストネーション 03-5159-7800)

あなたのスーツの胸ポケットには、何が入っていますか? スマホ、ボールペン、社員証。いずれも、シルエットを台無しにしてしまうので、すぐにやめましょう。胸ポケットに限らず、スーツのポケットには何も入れないのが正解です。ある会社の部長が「スーツはポケットがたくさんあるので小物を収納するのに便利」と話すのを聞いて、驚いたことがあります。案の定、ポケットに入れた小物のせいで、胸ポケットや腰元のポケットが大きく膨らんでいる状態。スーツをいつもそのように使っていると、ポケットの部分の生地が伸びて、物を入れていないときにも膨らんでしまったり、物の重さのせいでジャケットが型崩れしてしまったりする場合もあります。

スーツのポケットに入れてもいいものが、ひとつだけあります。それは、胸ポケットに挿すチーフ。理由を説明するために、スーツの歴史をさかのぼって考察してみましょう。いまのスーツの原型となった洋服が世に登場したころ、ジャケットの胸にポケットはありませんでした。社交界のパーティーで、女性が装飾のためにハンカチを手にしているのを見た男性が、「我々もハンカチを持ちたい」と考えたのです。ところが男性は手に持つわけにはいかず、ベストに隠し持ったり、袖口に隠し持っていたりしたといいます。その後、1900年代の初頭に、ハンカチを入れるためにスーツの胸ポケットが作られたというのです。これは諸説あるうちのひとつではありますが、スーツの胸ポケットはハンカチーフを入れるためにあると言うこともできます。

胸ポケットにチーフを挿すのをすすめると、多くのビジネスマンが「キザに見えませんかね」と躊躇(ちゅうちょ)します。そのときに、私は決まってこのエピソードを話して、「チーフを入れないのであれば、スーツの胸ポケットは必要なかったわけです」と説得を試みるのです。そして、自分の胸ポケットからチーフを取り出して、「暑ければこうして汗も拭けますしね」と実演することも。

それでも納得していただけない場合には、もうひとつのエピソードを話すようにしています。チーフがキザだと思い込んでいるビジネスマンの多くは、礼服の胸ポケットに入れる「スリーピークス」と呼ばれる三角形が3つ出る挿し方をイメージしているのでしょう。パーティーに着用する礼服のチーフを想像していたら、キザだと考えても仕方ありません。ところがビジネススーツでは、「TVフォールド」と呼ばれる、上辺を水平にのぞかせる挿し方でチーフを使うのが正解なのです。

ビジネススーツに挿すチーフはリネン(麻)素材の白に限ります。光沢感のあるシルクのチーフと違って、精悍で清潔感があるからです。「TVフォールド」の折り方はいたって簡単。正方形に四つ折りし、更に三つ折りにして胸ポケットの横幅に合わせる。チーフ上辺を1cmから2cm程度スクエアにポケットからのぞかせるだけ。この挿し方が「TVフォールド」と呼ばれるのは、TVのニュースキャスターがスーツのポケットにチーフを挿すスタイルだからです。上半身しか画面に映らない彼らは、「自分は精悍で信頼に足り得る人物である」ことを表現するために、胸ポケットにちらりと見えるチーフを有効に活用していると言えるでしょう。ビジネスマンの皆さんも、白いリネンのチーフを「TVフォールド」で挿して、精悍で信頼に足り得る人物だという評価の獲得を目指してみてください。

ジャケットスタイルで、シルクのチーフを使うときには、「パフド」や「クラッシュ」と呼ばれる挿し方もいいでしょう。そのときには、ネクタイと同系色で柄がプリントされたチーフを選ぶとおしゃれに見えます。しかし、こうした着こなしは、さらに歩を進めて上級者になったときにトライしても遅くありません。「知性のある中級者」を目指すのであれば、まずは白リネンのチーフを「TVフォールド」で挿すのを習慣にするだけで十分です。

ネクタイ業界の方に取材した際に、「クールビズの期間中に、ネクタイ売り場でチーフを購入する人が増えている」と聞きました。理由は、ネクタイをはずして間が抜けた感じになるのを避けるためだというのです。そろそろ、ニッポンのビジネスマンのにポケットチーフが大流行する予感がします。

掲載した商品はすべて税抜き価格です。

プロフィル
山本晃弘(やまもと・てるひろ)AERA STYLE MAGAZINE編集長

「MEN’S CLUB」「GQ JAPAN」などを経て、2008年に朝日新聞出版の設立に参加。同年、編集長として「アエラスタイルマガジン」をスタートさせる。新聞やWEBなどでファッションとライフスタイルに関するコラムを執筆する傍ら、幅広いブランドのカタログや動画コンテンツの制作を行う。トークイベントで、ビジネスマンや就活生にスーツの着こなしを指南するアドバイザーとしても活動中。

Photograph: Sunao Ohmori (TABLE ROCK.INC)
Styling: Takahisa Igarashi
Hair Make:RYO (COME & HAIR)

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