腕時計
SIHH2018 ジュネーブサロン・レポート
リシャール・ミル
2018.03.05
新作時計の初春到来を高らかに告げる恒例の「SIHH(ジュネーブサロン)」が1月15日から19日まで開催された。昨年は毎年3月に実施される「バーゼルワールド」からジラール・ペルゴとユリス・ナルダンが移行。今年もエルメスが新しく参加したほか、カレ(Carré des Horlogers)と呼ばれる特設会場に17ブランドが出展。大型パビリオンを構える18ブランドと合わせて、過去最多となる35ブランドが競演した。ラグジュアリーな雰囲気の中で静かな熱気が漂う会場で発表された新作から、魅力的なモデルを紹介していこう。
ポロ競技の強烈な衝撃にも耐えるトゥールビヨン
F1のレーシングカーと同じく、最先端の素材とテクノロジーを惜しみなく導入した「エクストリームウオッチ」を開発してきたリシャール・ミルが、今年も仰天の超複雑時計を発表した。
馬に乗って、マレットと呼ばれるT形のスティックを振り回しながら、ボールをゴールに入れて得点を競うポロというスポーツがある。日本ではあまりお馴染みではないが、世界最古の競技の1つともいわれる。そのチャンピオンであるパブロ・マクドナウがリシャール・ミルのファミリーの一員であることから、彼がプレイ中にも着けられる時計を開発したという。超複雑機構のトゥールビヨンを搭載したスーパータフな腕時計「RM 53−01 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ」だ。
まず、外装から紹介していくと、一般的な高級時計の風防ガラスはダイヤモンドに次ぐ硬度とされるサファイアクリスタルを使用している。普通に使っていれば滅多に割れることはないが、ポロ競技ではプレイヤーは馬に乗っているためスピードが速く、ボールを叩いてゴールに飛ばすマレットによる衝撃もすさまじい。そこで、サファイアクリスタルのスペシャリストとして知られるステットラー社の協力を得て、薄いポリビニールフィルムを2枚のサファイアクリスタルで挟み込む仕組みを採用。仮に強い衝撃でサファイアクリスタルが破損しても、ヒビが入るだけで砕け散ることはないという。自動車に使用されているラミネート加工の応用だが、時計業界では初の試み。無反射のUVコーティングで紫外線から内部を保護する構造も、リシャール・ミルの特許だ。
ケースは優れた剛性を特長とする、このブランドではお馴染みのカーボンTPT®。このケースに窪みを入れることで、さらに歪みやヒビ、断裂などの耐性を強化している。
このケースに搭載されたのは、超複雑機構とされるトゥールビヨン。時計の心臓部である調速脱進機全体が1分間に1回転して重力が及ぼす影響を平均化する仕組みだが、それだけにデリケートであり、衝撃はそもそも大敵なのである。今回の新作では、ワイヤーケーブルを使ってムーブメントを吊すサスペンション構造を導入。中央のムーブメント部分を載せた地板を、スチールを編み込んだ2本のケーブルが蜘蛛の巣のように支えている。このケーブルの直径は僅か0.27㎜。10個のプーリー(滑車)を介して4個の張力装置で均等に調整することで、強い衝撃を吸収できるという。
参考までに、価格は1億円以上。世界限定30本で、日本国内では3本が発売される予定だが、すでに予約が入っているという。
レディスでは、ブラックセラミックスのベゼルにダイヤモンドという前例のない組み合わせの「RM 07−01 ブラックセラミックス ジェムセット」が登場した。ベルヴェットのような漆黒の艶の中で、ブリリアントカットのダイヤモンドが華やかに輝く。
掲載した商品はすべて税抜き価格です。
問/リシャール ミル ジャパン 03-5807-8162
プロフィル
笠木恵司(かさき けいじ)
時計ジャーナリスト。1990年代半ばからスイスのジュネーブ、バーゼルで開催される国際時計展示会を取材してきた。時計工房や職人、ブランドCEOなどのインタビュー経験も豊富。共著として『腕時計雑学ノート』(ダイヤモンド社)。