旅と暮らし

ルーツ音楽に根差しながら軽やかに聴き手の心を解放する
シンガーソングライター、ヴァレリー・ジューンが初来日

2017.10.18

内本順一 内本順一

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Photo by JacobBlickenstaff General

2013年の春のこと。初めてヴァレリー・ジューンというシンガーソングライターの作品を聴いて衝撃を受け、すぐにその歌声のとりこになった。それはその女性のデビュー・アルバム『Pushin’ Against A Stone』(国内盤は未発売)で、もしもカフェとかバーでたまたまかかっているのを耳にしていたら「これ、誰の曲ですか?」と店の人に尋ねていただろう。それくらい、歌声が耳に「ひっかかった」。または「こびりついた」。初めてノラ・ジョーンズの歌声を聴いたときと同じくらい、あるいは初めてエイミー・ワインハウスの歌声を聴いたときと同じくらい「ひっかかった」のだ。自分より上の世代……例えば60代、70代の人であれば、ビリー・ホリデイやニーナ・シモンと同じくらい「ひっかかり」のある歌声だと言うかもしれない。つまり美声というより、鼻にかかったクセのある歌声だということ。自分にはその歌声が呪術的であるようにも聴こえ、そう思って写真を見ると、髪型はまるでメドゥーサのよう。アルバムジャケットの写真はその髪をまとめていたからそう見えたのだが、おろすとかなり長めのドレッドロックヘアーで、さながら女ボブ・マーリーといったところだ。それは20年近くかけて伸ばした髪だそうで、フェイバリット・シンガーのひとりに彼女はボブ・マーリーの名を挙げていた。だからドレッドロックヘアーなのかどうかはわからないが、そのように歌声のみならずルックスも個性的で、カリスマ性のようなものがビンビン伝わってきたのだった。

1982年1月、テネシー州ジャクソン生まれの35歳。幼いころから信心深い両親に連れられ、教会に通って歌っていたそうだ。今年3月に4年ぶりとなる2ndアルバム『ジ・オーダー・オブ・タイム』(これが日本デビュー盤となる)が出たのだが、その1曲目「LONG LONELY ROAD」は“教会の信者席に詰めかける人々”というフレーズで始まり、“ゴスペルが語るのは 魂を救ってくれる物語”と続く。歌が進むと“18歳になると私はすぐに 荷物をまとめて新天地を目指した テネシーを離れニーヨークへ”というフレーズも出てくる。彼女にとっての自伝的な曲なのだろう。それはフォークっぽくてブルーズっぽくもあるスローな曲だが、このアルバムのリードトラックでもあった3曲目「SHAKEDOWN」のハンドクラップや次第に熱を帯びて盛り上がっていく様からは、なるほどゴスペル特有の高揚が感じられる。この曲のミュージックビデオでギターを弾いて歌っている彼女は最高にかっこよく、見ると誰もがライブを体感したくなるはず。ちなみに彼女は通常のギターのほかにバンジョーやラップ・スティール・ギターも弾きこなし、曲によってはフォーク、ブルーズ、ゴスペルに加え、リズム&ブルーズやカントリーの色も混ぜ合わせる。アメリカ南部のいわゆるルーツ・ミュージックに根差していながら、柔軟かつポップとも言える軽やかさで聴き手の心を解放する、ヴァレリー・ジューンとはそんなシンガー・ソングライターなのだ。

ところで2ndアルバム『ジ・オーダー・オブ・タイム』ではノラ・ジョーンズの新作のキー・パーソンでもあるピート・レム(ノラのツアーのバックを務めたアメリカン・ルーツロック・バンド、ザ・キャンドルズのメンバー)がピアノやオルガンを弾き、ノラの初期のソロ作やリトル・ウィリーズに参加していたダン・リーサーがドラムをたたいているのだが、ノラ・ジョーンズ自身もまた3曲のバッキング・ヴォーカルで参加している。年齢も近いヴァレリーとノラは仲よしなのだそうな。

11月にブルーノート東京で行われる初来日公演。それは本当に楽しみだし、観たら今度はフジロックでもヴァレリーのライブを体感したくなるに違いない。

プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。ブログ「怒るくらいなら泣いてやる」(http://ameblo.jp/junjunpa)でライブ日記を更新中。

The EXP Series #14
ヴァレリー・ジューン
公演日/2017年11月16日(木)、17日(金)
会場/ ブルーノート東京
料金/ 7500円(税込)

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