旅と暮らし

俳優・岸谷五朗、街を呼吸する。
第6回 浅草

2017.12.12

俳優・岸谷五朗、街を呼吸する。<br>第6回 浅草

岸谷五朗、寺脇康文が率いる地球ゴージャスは、毎回出演する俳優が異なるユニットという形態を取る。そして練習初日には、すべての出演者を前に岸谷はこう伝えるという。

「地球ゴージャスにアンサンブルはいません。すべてキャストです」

アンサンブルとはメインの登場人物以外に歌い踊る者を指し、通常は端役というニュアンスがある。なくてはならぬものの、際立った注目を浴びることはない。だが岸谷はすべての出演者に存在感を求める。

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「好きなことをしていいわけじゃない。指先までそろえるところは、ぴったりそろえなければいけない。そのうえでにじみ出てくる個性を大切にしたいんです」

実際、その舞台を観れば、決して「その他大勢」という印象は受けない。すべての役者が自らのバックボーンを生かしながらパフォーマンスを繰り広げ、わずかなセリフでも輝きを放つ。

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街にもアンサンブルはない。そう思わせてくれるのが、今回の浅草だった。
ひと昔前はややさびれた印象が抜けなかったが、最近では平日でもかなりの混雑ぶり。特に仲見世界隈は外国人観光客が多く、複数の外国語が飛び交う。

それでも浅草は浅草。地ならしのような都市開発が入らなかったため、エリア全体が大きく変わることはなかった。少し足を延ばせば、文化文政期から続くうなぎ料理の前川、明治生まれの神谷バー、昭和30年代を思わせる遊園地の花やしきなど、まるで地層のように古(いにし)えの点景を見ることができる。撮影したひさご通りも、昭和の空気感を色濃く漂わせる場所だった。

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「こういう商店街って好きです。同じような大きさで並びながら、店構えも商いもみんな違っている。すごくいいですよね」と、初めてこの道筋を訪れた岸谷も笑顔になる。

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都市の発展には、営利、流行、美観による排除の力学が働く。浅草は飄々(ひょうひょう)とそれを受け流しながら、したたかに小さなにぎわいを残し続ける。

そう、この街では今もひとつひとつの路地が“キャスト”だ。

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<浅草とは?>
裕福な札差(米取り引きの仲介と金貸しを兼ねる)が拠点を構える蔵前に近かったこと、また多くの芝居小屋があったことから、江戸時代より遊興の地として栄える。明治にはいち早く浅草寺界隈を都市公園化したことからさらに発展。その後テレビの普及や演芸の衰退によって一時廃れたが、墨田川花火大会や浅草サンバカーニバルの大規模なイベントの開催、外国からの観光客へのアピールが奏功し、活気を取り戻してきた。浅草寺、仲見世を中心に、多くの人が訪れる。

<訪れた店>
前川
創業200年を超える歴史を有するうなぎ料理の老舗で、山田耕筰(やまだ・こうさく)や池波正太郎も贔屓(ひいき)にしていた。上質な素材を丁寧に蒸し、焼いた滋味を求めて、国内はもちろん、海外からもファンが訪れる。名前の由来となった目の前の墨田川を眺めつつ、ゆったりと江戸情緒を満喫してみたい。全席和室。蒲焼(ご飯、吸い物等セット)\5,700~ 白焼き単品\3,600~ 東京都台東区駒形2-1-29 03-3841-6314 営業時間11時半~21時(20時半L.O.)年中無休
http://www.unagi-maekawa.com/

<岸谷五朗(きしたに・ごろう)>
1964年生まれ。大学時代から劇団スーパー・エキセントリック・シアターに在籍し、舞台、テレビ、映画で活躍する。特に1993年「月はどっちに出ている」では映画初主演にして多くの映画賞を受賞し、高い評価を集めた。94年に独立後、同時に退団した寺脇康文と組み、演劇ユニット地球ゴージャスを主宰。出演以外に演出・脚本も手がけ、毎公演ともソールドアウトとなる人気を集めている。次回のプロデュース公演「ZEROTOPIA」は赤坂ACTシアター(2018年4月9日~5月22日)ほか、全国5都市で公演予定。チケットは発売中。
https://www.chikyu-gorgeous.jp/vol_15/

ジャケット¥229,000、ニット¥61,000、パンツ¥50,000、靴¥210,000/すべてダンヒル(ダンヒル 03-4335-1755)

掲載した商品はすべて税抜き価格です。

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Photograph:Satoru Tada(Rooster)
Styling:Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair:AKINO@Llano Hair(3rd)
Make-up:Riku(Llano Hair)
Text:Mitsuhide Sako (KATANA)

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