旅と暮らし

この冬見たい
映画ファンが待っていたあの監督の最新作

2017.12.18

大林宣彦、ソフィア・コッポラ、ウェス・アンダーソン、マーク・ウェブ……。この冬から来年春にかけて、映画ファンたちが待ちわびる監督たちの新作公開が続々と控えている。静かにそのときを待つとして、まずは12月に公開になった二人の監督の作品から紹介します。

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© SPUTNIK OY, 2017

アキ・カウリスマキ監督作品
『希望のかなた』

いま、世界が抱える最重要課題のひとつである「難民問題」。ニュースや新聞でよく目にするものの、正直どこか遠い世界の話だと感じている人も多いと思うが、2015年以降、毎日のように難民が国境へ押し寄せ、その数が100万人を超えているというヨーロッパ諸国における難民問題は、私たちが想像しているものとは違う。前作『ル・アーヴルの靴みがき』に続き、この難民問題を題材に、フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキが新作を撮った。ドキュメンタリーでも、重たく悲惨な物語でもない、あくまでも彼らしいユーモアのある映画を。

内戦が激化するシリアのアレッポから逃れ、その途中で生き別れになった妹を捜すシリア難民のカーリドが、船でフィンランドの首都ヘルシンキにたどり着いたところから物語は始まる。空爆で家や家族をなくしているにもかかわらず難民申請は受理されず、妹を捜すために、カーリドは収容施設を抜け出し不法滞在者としてとどまることを決意。そこでレストランのオーナー、ヴィクストロムと出会い、彼や従業員たちと時間を共にするなかで、家族のような絆が生まれていく。

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© SPUTNIK OY, 2017

始まって数分の間、一切セリフがないまま物語はどんどん進んでいく。海の色、港、収容施設やレストランの内装にも、「ミニマリズム」と評されるカウリスマキらしさは健在だ。さらに今回、ヴィクストロムが経営するレストランを寿司屋に改装するというシーンがあるのだが、法被(はっぴ)や銅鑼(どら)や山盛りのワサビなど、海外映画らしくデフォルメされた日本食レストランの“未完成な完成度”は見事。これには、小津安二郎を敬愛するカウリスマキなりの、日本文化への愛と不思議が詰まっているのだろう。

そんなユーモアや、彼の作品に欠かせない愛犬のおかげで重苦しい雰囲気はやわらぐものの、無機質な収容施設や、カーリドに向けられる差別的な目線、アレッポの悲劇と混乱を聞いてなお、強制送還を決定する当局の無情さに、時折息が苦しくなる。無表情なカーリドが戦禍で見てきたであろう景色と、それでも消せない希望を想像することに、わずかでも意味はあるだろうか。

カウリスマキは言う。「60年前、ヨーロッパの精神では難民は助けるべき存在だったが、いまでは難民は敵。我々の人間性はどうなってしまったのか? 友人に対する思いやりがなければ、誰も存在できない。人間性がなければ、いったい、我々は何者なんだろう」

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© COLONY FILMS LIMITED 2016

ジョン・キャメロン・ミッチェル監督作品
『パーティで女の子に話しかけるには』

最初の恋がうまくいっていたら、何か違っていたかもしれない。恋愛につまずくたび、そうやって過去を振り返る人は少なくないはずだ。本当に違ったかどうかは測りようがないけれど、その相手がどんな人で、どんな時間を過ごし、どんな言葉を交わしたか。その成功(もしくは失敗)体験は、その後の恋愛に大きく影響する。この映画は、主人公が別の惑星に住む女の子に恋をするSF物語だが、思えば初恋なんて、価値観やそれぞれの暮らし方なんてものの枠外で、得体の知れない宇宙人に恋をしているようなものだった。本当のところ、何も知らない。だからこそ、あんなに妄信的になれたのだと思う。

舞台は1977年のロンドン郊外。パンクに夢中だが内気な少年エン(アレックス・シャープ)は、ある日もぐり込んだ不思議なパーティーで、美しい少女ザン(エル・ファニング)と出会う。大好きなラモーンズやセックス・ピストルズ、パンクに興味を示してくれたザンに、エンはすぐに恋に落ちるが、彼女は遠い惑星へ帰らなければならない運命をもった少女だった。残された時間は48時間。二人は運命に立ち向かおうとするのだが……。

2001年に公開(日本公開は2002年)され、世界的なブームを巻き起こした『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェルが新たに描く“ボーイミーツガールムービー”という話題性や、いまや映画界のアイコンとなったエル・ファニングの可愛らしさもさることながら、ブロードウェーデビュー作でいきなりトニー賞主演男優賞を史上最年少で受賞したイギリス人俳優、アレックス・シャープの、ザンを見つめる優しいまなざしと、なんとも言えない“ダメな感じ”がとってもいい。ピュアで、破滅的で、初々しい二人の演技が、間違いなくこの映画の核心となっていた。

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© COLONY FILMS LIMITED 2016

短い時間のなかで互いに近付こうと必死になったり、相手を思うがゆえに距離が縮まらなかったり。エンとザンほど真っすぐではなかったかもしれないけれど、それぞれの大事な瞬間を思い出し、苦さや恥ずかしさも少しだけ肯定してくれる。これは、不器用だけどキラキラしていたみんなの“いつか”の話。

もちろん、大人になったいまも何も変わっていないという人もたくさんいるだろうけど。

作品情報

『希望のかなた』
監督/アキ・カウリスマキ
出演/シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン
上映時間/98分
製作国/フィンランド
HP/http://kibou-film.com
12月2日(土) 渋谷・ユーロスペース、新宿ピカデリー他にて 全国順次公開

『パーティで女の子に話しかけるには』
監督/ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演/エル・ファニング、アレックス・シャープ、ニコール・キッドマン
上映時間/103分
製作国/イギリス、アメリカ
HP/http://gaga.ne.jp/girlsatparties/
12月1日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国順次ロードショー

Text:Asako Saimura

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