腕時計
SIHH2018 ジュネーブサロン・レポート
A.ランゲ&ゾーネ
2018.02.13
新作時計の初春到来を高らかに告げる恒例の「SIHH(ジュネーブサロン)」が1月15日から19日まで開催された。昨年は毎年3月に実施される「バーゼルワールド」からジラール・ペルゴとユリス・ナルダンが移行。今年もエルメスが新しく参加したほか、カレ(Carré des Horlogers)と呼ばれる特設会場に17ブランドが出展。大型パビリオンを構える18ブランドと合わせて、過去最多となる35ブランドが競演した。ラグジュアリーな雰囲気の中で静かな熱気が漂う会場で発表された新作から、魅力的なモデルを紹介していこう。
世界初の超複雑時計と、星々が煌めく2針のシンプルビューティ
時計好きが憧れる伝統的な複雑機械式時計のひとつに「スプリットセコンド・クロノグラフ」がある。2本のクロノグラフ秒針を持つことから「割り剣」、仏語で「ラトラパント」とも呼ばれる。メインの計測に加えて、もう1本のクロノグラフ秒針を任意でストップでき、リセットすればメインの秒針に再び追いついて重なるため、ラップタイムなどを記録できる。
この「スプリット」計測機能を、クロノグラフ秒針と分積算に加えて、12時間積算計にも加えることで、最長12時間にまで拡大した世界初の機械式クロノグラフが、A.ランゲ&ゾーネの新作「トリプルスプリット」だ。クロノグラフ秒針だけでなく、30分積算計と12時間積算計のサブダイヤルにもブルースチールの針が加わっており、ストップウォッチ機能を動かさない時はそれぞれ2本の針が完全に重なっている。2時位置のボタンを押して計測をスタートしても同じだが、10時位置のボタンを押せば、ブルーの針は瞬時にすべて停止するので記録を正確に読み取れる。その一方で、メインの計測は続いており(シルバーの針)、10時位置のボタンを再度押せば、3本のブルーの針がすべてそれに追いつき、計時を続けるという仕組みだ。
A.ランゲ&ゾーネでは、2004年に30分積算計にもう1本の針を備えた「ダブルスプリット」を発表しており、今回の新作では12時間積算計にも針が追加されたことになる。ただし、ムーブメントの部品数は567にも及び、機構の複雑さは比較にならないほか、調整などにも卓越した職人技が要求される。
この「トリプルスプリット」では、マラソンやトライアスロンなど長時間にわたる競技で1位と2位の記録を正確に比較できるのはもちろん、数時間に及ぶ区間のラップタイムを何度も計測可能。フライバック機能も備えているため、計測中に4時位置のリセットボタンを押せば、すべての針が瞬時にゼロ位置に戻ってリスタートする。さらに、クロノグラフ秒針が12時位置を通過した瞬間に、30分積算計の針がカチリと次の分に進む「プレシジョン・ジャンピング・ラトラパント・ミニッツカウンター」を搭載。針が少しずつスイープすることがないので、経過分が抜群に見やすい。
この世界初の超複雑クロノグラフは、シースルーバックから見られる内部も圧巻で、およそ12層にも積み重ねられたムーブメントが息を呑むほどの立体感で見る者に迫ってくる。機械式時計の果てしない可能性と洗練された機能美を再認識させられる、感嘆すべき傑作というほかない。
こうした技術力だけでなく、芸術性でも卓越していることを示す新作が「サクソニア・フラッハ」の新しいダイヤルだ。17世紀のベネチアを起源とするゴールドストーン(紫金石)の薄い層でシルバー無垢のダイヤルベースを覆っており、深いブルーを背景に酸化銅の極小の結晶が青銅色の光を放つ。このモデルはケース厚わずか6.2㎜の超薄型で、時・分の2針とバーインデックスという究極のミニマル。それだけに、夜空に輝く星を想わせる美しいダイヤルを隅々まで心ゆくまで堪能できる。極上の気品とともに、趣味の良さを感じさせるドレスウォッチとして着用したい。
掲載した商品はすべて税抜き価格です。
問/A.ランゲ&ゾーネ 03-4461-8080
プロフィル
笠木恵司(かさき けいじ)
時計ジャーナリスト。1990年代半ばからスイスのジュネーブ、バーゼルで開催される国際時計展示会を取材してきた。時計工房や職人、ブランドCEOなどのインタビュー経験も豊富。共著として『腕時計雑学ノート』(ダイヤモンド社)。