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腕時計
グランドセイコーが刻む「時のモノ語り」
第二回
2018.03.23
受け継がれる時間
作家 矢島裕紀彦
細くしなやかな彼女の腕には、いささか武張った印象の時計であった。夫の形見なの、五十歳の誕生日のその日に急に逝ってしまって。几帳面にもほどがあるわよね。彼女は言った。氷雨の降る夜だった。ショックなんてものじゃなかったわ。でも、こんな小さなクリニックだけど、頼りにしてくれる患者さんは待ってるし、いつまでも休んでるわけにはいかない。三日後には診察をはじめてたな。それが彼の遺志を継ぐことでもあったから。
地元では昔も今も、評判のいいクリニックなのである。院長である彼女は、歯に衣着せずものを言う。患者は時に厳しく叱られるが、言葉の裏には愛情が覗いている。求めても薬は最低限の量しか出してくれないけれど、それも患者のことを思えばこそなのだった。
そう。その時からずっと、この時計を腕に巻いてきたの。夜は枕もとに。不思議よね。彼がいなくなっても、口惜しいくらい正確に時は刻まれていく。揺らぎのない一秒一秒が過ぎていく。でも、それがいつからか心の支えになった。そういえば彼が自慢していたわ。この時計は機械式なのにほとんど誤差がないって。眠れぬ夜の白みかける頃、日付の切り替わったカレンダーを見て、昨日の悲しみは昨日に、今日は今日のためにと、一日一日、新しい時間を積み重ねてきた。そんな気がする。
六十五歳を過ぎたのを機に、彼女は引退を決意した。十八年の星霜がめぐり、あのころ大学生だった息子も立派に成長し四十歳。彼女の傍らですでに十分な経験を積んでいた。
辞めたらアメリカに行こうと思ってるの。娘が結婚して向こうで暮らしてるのよ。娘の旦那とね、アメリカ人だけど、妙に気が合うんだ。はっきりものを言うのが却っていいみたい。向こうでね、またちょっと勉強したいことがあるのよ。
言葉通り、彼女はひと月後にはアメリカに旅立っていった。ふと気づくと、三代目の院長となった息子の左腕で、あの時計が今日も確かな時を刻んでいる。若い院長は言った。
「ええ、オフクロから譲り受けました。オフクロには僕が新しい時計をプレゼントしましたよ。今度は小振りな女性用のやつをね」
いま彼女は、自分の人生の新たな時間を紡ぎはじめているだろう。
グランドセイコー
キャリバー9S 20周年記念限定モデル
メカニカルハイビート36000 SBGH267
グランドセイコーマスターショップ限定モデル
メカニカルムーブメント キャリバー9S85搭載、自動巻、日常生活用強化防水(10気圧防水)、耐磁時計(JIS耐磁時計1種)、平均日差+5秒~-3秒、ケース・バンドはステンレススチール、直径39.5㎜、¥650,000(税抜き)、世界限定1,500本。
グランドセイコー
キャリバー9S 20周年記念限定モデル(グランドセイコー スペシャル規格検定合格品)
メカニカルハイビート36000 SBGH266
グランドセイコーマスターショップ限定モデル
メカニカルムーブメント キャリバー9S85搭載(特別調整)、自動巻、日常生活用強化防水(10気圧防水)、耐磁時計(JIS耐磁時計1種)、平均日差+4秒~-2秒、ケース・中留は18Kイエローゴールド(中留:三つ折れ方式)、バンドはクロコダイル、直径39.5㎜、¥2,800,000(税抜き)、世界限定150本。
グランドセイコー
キャリバー9S 20周年記念限定モデル(グランドセイコー V.F.A.規格検定合格品)
メカニカルハイビート36000 SBGH265
セイコーフラッグシップサロン、セイコープレミアムブティック限定モデル
メカニカルムーブメント キャリバー9S85搭載(特別調整)、自動巻、日常生活用強化防水(10気圧防水)、耐磁時計(JIS耐磁時計1種)、平均日差+3秒~-1秒、ケース・中留はプラチナ950(中留:ワンプッシュ三つ折れ方式)、バンドはクロコダイル、直径39.5㎜、¥5,500,000(税抜き)、世界限定20本。
問/グランドセイコー 0120-302-617
Text:Yukihiko Yajima
Photograph:Tetsuya Niikura(SIGNO)
Illustration:Hiroko Takashino