旅と暮らし

ファンクとジャズの大広場で好奇心旺盛に吹きつづけるサックス奏者が
自身のアイドル、レイ・チャールズに捧げる豪華特別編成の夜

2018.05.18

内本 順一 内本 順一

ファンクとジャズの大広場で好奇心旺盛に吹きつづけるサックス奏者が<br>自身のアイドル、レイ・チャールズに捧げる豪華特別編成の夜

今年の2月にかなり久々となるスタジオ録音盤『It’s All About Love』を出したばかりのアルトサックス奏者メイシオ・パーカーが、ブルーノート東京で公演する。来日公演自体は2016年7月から約2年ぶりだが、ブルーノート東京での公演となると8年ぶりなのだそうだ。しかも今回はテーマのはっきりしたもの。タイトルは「THIS IS RAY CHARLES」で、つまりレイ・チャールズのトリビュート公演となる。

レイ・チャールズがメイシオにとっての最大のアイドルだったことは、どれくらい知られているのだろう。そういえばときどきメイシオはライブ中にレイの真似をして“歌ったり”していたし、2007年発表の2枚組ライブアルバム『ルーツ&グルーヴ』の1枚目はレイ・チャールズ・トリビュートとしてビッグバンドでレイの曲を演奏したものだった(メイシオの渋い歌もたっぷりめに聴けた)。16歳のときにメイシオはレイ・チャールズの大ヒット曲「ホワッド・アイ・セイ」(1959年)を聴き、それでミュージシャンとして生きていくことを決意したという話もある。

21歳のときにジェームス・ブラウンのバンドに加入し、その時期に発表されたJB最初期のファンク曲「アウト・オブ・サイト」からメイシオはファンクの誕生と隆盛に関わる重要ミュージシャンとして生きることとなったわけだが、それ以前のまさしく自身のルーツとして、レイの音楽があったということだ。

キャリアと年齢を重ねると、改めて自身のルーツを確認したくなったり、それへの愛情をきちんと表現しておきたくなるのは、どんな分野の人にもあること。先の『ルーツ&グルーヴ』など単発的な作品や公演を経てメイシオが本格的にレイ・チャールズ・トリビュートのプロジェクトを始めたのは2014年だが、自分が元気なうちにやらないではいられないことだったのだろう、きっと。そんなこのプロジェクト、2016年8月にはハリウッド・ボウルで1万人の観客を集めて華々しく行われ、その後もいくつかのジャズフェスで公演されて評判を呼んでいた。今回、それをブルーノート東京で観ることができるわけだ。

ではどんなバンドで公演するのかだが、その話の前にメイシオのこれまでについてをごくごく簡単に書いておこう。20代のメイシオはJBのバンドになくてはならない存在となり、「パパのニュー・バッグ」「アイ・フィール・グッド」「コールド・スウェット」などのJBの代表曲で聴けばメイシオだとすぐわかる印象的なサックスを吹いていたわけだが、ギャラに関するゴタゴタで辞めさせられ、自身のバンドであるメイシオ&オール・キングス・メンで活動開始。だが短い期間で解散し、1973年にはJBと和解。バンド自体が独立して活動もするJB’sで動くようになり、やがてそこからトロンボーン奏者のフレッド・ウェズリーと共にジョージ・クリントンを総帥としたパーラメント/ファンカデリックに合流することとなる。70年代半ばのことだ。そしてPファンクの要としてあちこちで吹きまくったあと、84年にはもう一度JBのバンドにも復帰してまた吹いた。

90年代はソロ活動を本格化して、ソウルジャズのブームに乗りながらいくつものソロ作を発表。それは2000年代に入ってからもペースを落とすことなく続いたが、一方で客演仕事もあれこれと。とりわけ90年代後半からのプリンスとの親密なコラボは忘れ難く、『レイヴ・アン2・ザ・ジョイ・ファンタスティック』(99年)に客演して以降、ライブでもバンドに入ってファンキーなノリを増幅させた。曲中、リズムに合わせて「メイシオ! メイシオ!」と歌うように声に出していたプリンスのそれも忘れられないものだ。

そんなメイシオのソロ最新作が、冒頭にも触れた『It’s All About Love』。ジャケットを見たときはさすがに75歳だけあって老いた印象を受けたが、聴けばブロウに老いはなし。渋いアートワークからは想像できないファンキーな鳴り音が飛び込んできて、たちまち気分が上がる。取り上げてるのはジョニー・テイラーにアイズレー・ブラザーズにスティーブン・スティルズに……。ウィルソン・ピケットの「アイム・イン・ラヴ」(ボビー・ウーマック作)や、スティーヴィー・ワンダーの「イズント・シー・ラヴリー」など、実にもって名調子だ。

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ここで再び今回のブルーノート東京公演に話を戻すと、タイトル「THIS IS RAY CHARLES」のあとに「starring MACEO PARKER & HIS BIG BAND featuring THE RAELETTES & STEVE SIGMUND conducting」と付く。これが相当豪華な面々で、まずHIS BIG BANDというのは本田雅人(サックス)、山本拓夫(サックス)、エリック・ミヤシロ(トランペット)、佐々木史郎(トランペット)、村田陽一(トロンボーン)はじめ、日本で活躍するすご腕ミュージシャン総勢23名からなるもの(*公演ごとに多少の入れ替わりあり)。それからフィーチャーされているTHE RAELETTES(ザ・レイレッツ)は、レイ・チャールズのコーラスを務めた女性3人組で、映画『Ray/レイ』にも登場。前身は1950年代~60年代に活躍したガール・グループのクッキーズだ。そしてSTEVE SIGMUND(スティーブ・シグモンド)だが、この人は1986年から17年間にわたってずっとレイ・チャールズ・オーケストラに参加してきたトロンボーン奏者。今回はビックバンドの指揮を執る。つまりはレイ・チャールズのバンドの要とコーラス隊に日本のすご腕たちが合わさった超豪華な集合体。その真ん中でメイシオがレイ・チャールズの曲を吹き、ときにレイのようなサングラスをかけてレイのように歌いもするという、そういうたまらないショーなのだ。

ファンク好きもジャズ好きもリズム&ブルーズ好きも観ておくべき公演。この先こんなの、何度も観られるものじゃない!

プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。ブログ「怒るくらいなら泣いてやる」でライブ日記を更新中。

公演情報

Blue Note Tokyo 30th Anniversary presents
"THIS IS RAY CHARLES"
starring MACEO PARKER & HIS BIG BAND
featuring THE RAELETTES & STEVE SIGMUND conducting

Blue Note Tokyo 30th Anniversary presents
メイシオ・パーカー & ヒズ・ビッグ・バンド
“ディス・イズ・レイ・チャールズ”
featuring ザ・レイレッツ & スティーヴ・シグムンド

公演日/2018年6月7日(木)、8日(金)、9日(土)、10(日)
会場/ ブルーノート東京
料金/ 8800円(税込)※ご飲食代は別途 

その他詳細についてはこちら
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/maceo-parker/

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