紳士の雑学

サングラスの新しいカテゴリーを提示するEyevol

2018.05.22

“着るメガネ”という斬新なコンセプトを掲げ、1972年にスタートしたEYEVAN(アイヴァン)。折からのアイビーブームに乗って全国的なヒットを記録し、85年には念願の海外進出も果たした。そして、デビューから40年余の月日が流れた2013年、EYEVAN 7285としてリローンチした。そのEYEVANから派生した新ブランドが、今回紹介するEyevol(アイヴォル)である。

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右:川崎浩司氏/オリバーピープルズやモスコットなどの海外有名ブランドや、EYEVANブランドを有するオプテックジャパン社のマーケティング室課長。販売員としてキャリアをスタートし、現在はEYEVANブランド全般のマーケティングを担当。Eyevolの商品企画から携わり、中心的な役割を果たしている。
左:中室太輔氏/数々のアウトドアブランドやドメスティックブランドのPRとコンサルティングを手がけるムロフィスの代表。EYEVAN 7285の立ち上げ時からブレーンスタッフとして関わり、ブランディングからPR全般までを担当。いまやEYEVANブランドを語るうえで、はずすことのできない存在に。

サングラスの埋もれていたニーズを掘り起こす

昨年4月のデビューから、高感度なセレクトショップを中心に取り扱われ、ファッション誌でも大きく取り上げられるなど、異例のヒットを続けているアイヴォル。アイヴァンのスポーツラインという認識でインタビューに臨んだが、実際のところは、そう単純な位置付けではなく、ましてや廉価版というわけでもない。

川崎「ライフスタイル全般において、もっと気軽にアイヴァンのサングラスを楽しんでもらえることを念頭に開発しました。例えば、海や山へ出かけるときに、5万円以上もするサングラスをかけるのは気後れしますよね。かといって、スポーツブランドのサングラスは、“いかにも”というデザインのせいでいまひとつ……。

自分たちが本当にかけたいサングラスを探しても見つからない。それなら自分たちで作ってしまえば?という雑談がきっかけでした。アイヴォルが目指したのはその中間的なポジション、いままでにないカテゴリーの商品を自分たちの手でできないか?というところが出発点になりました」

中室「ファッションでもスポーツでもない、このカテゴリーをなんて呼べばいいのだろう?という話をよくしていましたね。ランニングやキャンプといったアクティビティーが当たり前になっていることもあり、ほかの多くの人たちも自分たちと同じように思っているだろうという確信がありました。セレクトショップのバイヤーにサンプルを見てもらったとき、ある程度の手応えを感じましたが、正直なところ、ここまで広く受け入れられるとは思っていなかったです」

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“あったらいいな”を手に取りやすい価格帯で

クラシックなデザインでありながら、スポーツやレジャーにも使える機能性を併せ持つサングラスと言えば、米国ブランドのオークリーしか選択肢がなかったのが実情だ。それゆえ他人とかぶることが多く、海外ブランド特有のフィット感の問題もあった。こうした不満を感じていた多くのユーザーにとって、アイヴォルの登場はまさに渡りに船であった。

中室「スポーツに求められる機能性を追求すると、どうしても流線型のデザインになってしまう。でも、アイヴォルはそこを目指していたわけではありません。例えば、ゴルフの行き帰りはもちろん、フィールドでも同じサングラスのままでもいい。そうした汎用性の高さを意識していました。ボストンやウェリントンといった昔からあるカタチに先端のテクノロジーを掛け合わせる、こうしたハイブリッドな発想と手法を積み重ねていった結果として、アイヴォルのコンセプトが固まっていきました」

川崎「気軽に手に取っていただけることが前提でしたので、やはり価格帯は重要視していました。紳士靴とスニーカーの違いと言えばわかりやすいと思いますが、サングラスもシーンやスタイルに応じて使い分けることが一般的になっていますから。ただし、アイヴァンの兄弟ブランドである以上、クオリティーを下げることだけはしたくなかったのです。実際はかなりコストがかかっているので、本当はもっと値段を上げたかったのですが……(笑)」

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クオリティーを維持するためのジャパンメイド

そうしてEYEVANとEVOLUTIONを掛け合わせたEyevolというブランド名が生まれ、約1年半という急ピッチで開発が進められた。アクティブなシーンに求められる機能性と耐久性、アイヴァンの遺伝子を引き継ぐデザインとクオリティー、そして手に取りやすい価格帯。これらすべての要素をクリアするために必要となったのが、インジェクションという製造手法である。

川崎「アイヴォルのフレームには、軽くて丈夫、柔軟性に富んだTR-90という樹脂素材を使っています。プラモデルをイメージしてもらえればわかりやすいのですが、金型に樹脂を流し込むインジェクション製法なら、均一なクオリティーで大量生産することができます。ただし、この製法ができる工場のほとんどが中国でした。アイヴァンは日本製にこだわっていますし、金型が流出してしまう恐れもありました。そこで、インジェクション製法が可能な日本国内の工場を見つけ出すことが急務になりました」

中室「一般的に低価格なサングラスなどに用いられるインジェクション製法は、どうしてもチープに見えてしまいがちです。ですから、フレームの仕上げやヒンジに至るまで、大人が満足できるクオリティーにこだわって、工場と何度もサンプルのやりとりをしました。僕も工場に連れて行ってもらい現場を見たのですが、そこからのスピード感が尋常ではなかった。開発までに3年とか掛かっていたら、他社に出し抜かれていたかもしれません」

さらなる改良を加えて完成度と高級感を高めた新作

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満足のいくサンプルが仕上がるまでは、トライ&エラーの繰り返しだったと語る両氏。デザインそのものは至極オーセンティックだが、そのディテールやパーツは、すべてアイヴォルの独自設計によるもの。今シーズンは新たに3モデルが追加され、さらなるフィット感と機能性を高める改良が加えられた。

川崎「まず大きく進化したのはノーズパッドです。昨年のモデルまではサイズ交換が可能なノーズパッドを使っていましたが、今年のモデルからはワンサイズで可動式のものに変更しました。芯金を用いることで調節が可能となり、ノーズパッドの紛失もほぼありません。次に曲智(きょくち)と呼ばれる部分を、従来のモデルよりも長く取ることで、折りたたんだときにすっきり収まるようにしました。さらにダブルアクションのヒンジを改良することで、グラつきがなく安定した開閉を実現しています」

アスリートとの関係を深めつつ、次なるステップへ

全国でポップアップショップなどを展開しながら、今後アイヴォルではプロゴルファー、サーファー、スケーターといったアスリートとの取り組みを強化していくという。だが、大手スポーツブランドが一般的に行うエンドースメント契約とは異なる取り組みもこのブランドらしい。

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写真左から:ティアドロップとウェリントンを掛け合わせたようなデザインの“CONLON”、ワイドなサイズ感が特徴的なスクエア型の“HEATH”、アイヴォルらしいトラッドなボストン型の“IOOSS”。サングラス各¥17,000/アイヴォル

中室「サーフィンやスケートボードの競技中はサングラスをはずしますので、その前後にかけてもらうだけでいい。極端な話、頭に載せているだけでもいい。そうしたアドバイザリースタッフ契約という形をとって、リクエストや改善点などのフィードバックをいただいています」

川崎「アイヴォルは決してプロフェッショナルスポーツ用のサングラスではありませんし、その分野に参入する意図もありません。上田桃子選手の場合もそうですが、“もっとファッショナブルなサングラスをかけたい”というアスリート側からのリクエストが多かったのですね。これからは東京オリンピックの正式種目になった、セーリングの國米 創(こくまい・はじめ)選手を、JOC(日本オリンピック委員会)のアスナビを通じて社員採用することになりました。これからは、そうした競技でも皆さんの目に留まる機会が増えると思います」

冒頭でも述べたとおり、アイヴォルは決してスポーツ用途に特化したサングラスではない。しかしながら、我々が普段楽しんでいるランニングやドライブに必要十分なスペックを備えている。一見、中途半端な立ち位置のように思えるが、実際に多くの人が求めていたのが、こうした“汎用性の高さ”と“手に取りやすい価格”にあったことをアイヴォルのヒットが証明したのだ。ぼんやりとしていたニーズにはっきりとして形を与え、今までにない市場を切り開くという新しいイノベーションの姿がここにある。

アイヴォル http://www.eyevol.com/

Photographs:Fumihito Ishii
Text:Takuro Kawase

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