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美しい時計

グランドセイコーが刻む「時のモノ語り」
第七回

2018.10.11

旅する時間
作家 矢島裕紀彦

ドイツ留学中の森鴎外がオリエント急行に乗ったのは明治二十年、西暦でいうと一八八七年の九月二十八日のことです。オリエント急行の開通からわずか四年目の出来事。もしかすると鴎外は、オリエント急行に乗った最初の日本人かもしれません。夏目漱石も文部省派遣留学生としてロンドンへ赴く途中、トリノからパリまで国際急行列車に乗っています。そこで漱石は不案内からちょっとした失態をしでかしました。ヨーロッパを移動する際、当時から国境を越える手続きは列車内でできた。それを知らない漱石はイタリア・フランス国境のモダーヌ駅で、荷物を持っていったん下車してしまった。事情を知り慌てて列車内へ戻ると、乗車時やっとの思いで確保した座席には見知らぬ外国人が陣取っている。漱石は「そこは私の席だ」と英語で抗議したが、相手はフランス語で「君は何も置いていかないから空席と思って座っただけだ」と大威張り。結局、漱石は他の車両に空席を探しにいく破目となったのです。

紀行随筆の名手としても知られる鉄道写真家は、のっけからそんな逸話を紹介し、聞き手をたちまち時空を超えた鉄道旅行へ誘うのであった。

僕は時刻表が好きで、小学一年の頃から眺めてました。そのうちには、東海道本線の駅名をそらで言えるようになった。すると、母親が神童じゃないかと勘違いしてね。写真家は茶目っ気たっぷりの笑顔で続ける。ところが、期待に反して勉強の方はからっきし。それからは、「時刻表ばかり見てないで、もっと勉強しなさい」が母親の口癖になりました。
でもね、僕の鉄道好きは血筋でもあると思うんですよ。父方の大伯父はその昔、今は廃線となった北海道の小さな駅で駅長をしていたそうです。高校二年の夏、写真でしか顔を知らないその大伯父の働いていた旧駅舎を訪ねて、カメラを向けました。その写真が旅行雑誌の投稿欄に採用されたのが、僕がこの道に入るそもそものきっかけでした。ある意味、初志貫徹ですよ。

雑誌社のカメラマンとして国内の鉄道から撮影をはじめ、やがて世界各地の鉄道写真を撮る機会にも恵まれた。アメリカ大陸を横断するアムトラックや世界最長のシベリア鉄道、スイスの氷河特急、英仏海峡を貫くユーロスター…。現地の暮らしに密着した鉄道や駅、そこに集散する人々も魅力的な被写体です。世界は広いですよ。小さな常識の枠組みなど通用しない出会いが無数にある。ケニアの撮影では、駅もないサバンナの真ん中で列車が停まり、何事かと思っていると、赤い布を身にまとった精悍な面構えのマサイ族の若者が乗り込んできた、なんて一幕もありました。

普通は日常を離れるのが旅の時間なのでしょうが、こちらは旅が日常。カミさんには「あんたは家にいるより線路のそばにいるほうが長い」なんて愚痴られてますよ。どこまでもまっすぐに延びる鉄路、曲がりくねった鉄路、単線があり複線があり、交差し分岐する。鉄道はどこか人生に似ています。来る道と行く道、いずれにしろ列車の刻む時は乗客たちの明日へとつながっていく。そんな浪漫や抒情に惹(ひ)かれ、一期一会の時間を切り取るようにシャッターを切り続けてきたんだと思います。

旅の必需品はカメラと時刻表と地図、それから24時針のついたこの腕時計です。精度はもちろんのこと、早暁や夕暮れ時の薄暗がりの中でも瞬時に時刻を読み取れる抜群の視認性がいい。機械式を好むのは僕の趣味でしょうね。耳にあてると微かに響いてくる音に、命の温もりが感じられる。ひとりの旅先で、幾度となくこの時計に助けられました。

裏蓋(うらぶた)の獅子の紋章も好きなんです。スコットランドの豪華列車ロイヤル・スコッツマン号のエンブレムを、ちょっと連想させる。バグパイプの演奏で迎えられたあの鉄道旅行は、二十一のアーチからなるグレンフィナン高架橋の風景とともに、もっとも印象深いもののひとつです。

僕にはひとつ夢があってね。人生の旅路の最後に、銀河鉄道に乗って宙(そら)へ昇りたい。これだけ長い間、鉄道を撮り続けてきた僕だったら、鉄道の神様も宮沢賢治も、そのくらいのご褒美をくれるんじゃないか。本気でそんなふうに思っています。時刻表には載っていない、僕だけの特別な旅。出発時刻は、旅の相棒のこの時計が教えてくれるでしょう。

※この作品には実在の人物名が登場しますが、この物語はフィクションです

写真・図版

グランドセイコー エレガンスコレクション
キャリバー9S 20周年記念限定モデル
SBGM235
10月12日発売予定

メカニカルムーブメント キャリバー9S66、日常生活用防水(3気圧防水)、耐磁時計(JIS耐磁時計1種)、平均日差+5秒~-3秒、ケースはステンレススチール、バンドはクロコダイル(付け替え用クロコダイルバンド付属)、直径39.5㎜、¥550,000(税抜き)、数量限定1000本。

写真・図版

付け替え用の白い竹班クロコダイルバンド装着時(SBGM235)

写真・図版

グランドセイコー エレガンスコレクション
SBGM221

メカニカルムーブメント キャリバー9S66、日常生活用防水(3気圧防水)、耐磁時計(JIS耐磁時計1種)、平均日差+5秒~-3秒、ケースはステンレススチール、バンドはクロコダイル、直径39.5㎜、¥500,000(税抜き)。

www.grand-seiko.com

問/グランドセイコー 0120-302-617

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Text:Yukihiko Yajima
Photograph:Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling:Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Illustration:Hiroko Takashino

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