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美しい時計

グランドセイコーが刻む「時のモノ語り」
第九回

2018.10.13

祝福の時間
作家 矢島裕紀彦

あれから一年が過ぎた。何事もなかったように、今日も平穏な朝がやってきている。歌や映画のタイトルではないが、「陽はまた昇る」のだ。森の梢で、四十雀が愛らしい声で囀っている。

週末、妻とふたりで高原のロッジにやってきている。僕はさっきから窓辺の椅子に腰掛け、古いアルバムを開いている。窓の外は柔らかな秋の陽に包まれ、ときおり涼風が吹いては、黄や紅に染まった落葉たちを舞い散らす。

薪ストーブの前のソファには、愛犬が寝そべっている。室内に教会音楽のグレゴリオ聖歌が流れはじめ、吹き抜けの高い天窓から降り注ぐ光のゆらめきが静粛な雰囲気を醸し出す。僕がいま身を預けている木製の椅子も、かつてはイギリスのどこかの教会で使われていたアンティークものの教会椅子だ。

アルバムをめくっていくと、そこには七五三のお祝いの着物を着たあどけない表情の七歳の娘がおり、中学校の入学式に正門前でちょっと背伸びしたセーラー服の娘がおり、大学の卒業式の日、羽織袴姿で撮影した凛々しい娘の姿がある。父親である自分が言うのもおかしいが、可愛く、美しく成長したものだ。その娘も良縁に恵まれ、親元を離れていった。あの日の教会でふれた娘の手の、最後のぬくもりを切なく思い出す。

僕は自分の左手首に目をやる。そこには、僕がずっと前から心にかけていた腕時計がある。僕は以前、TVディレクターとして、日本のモノづくりの魅力に迫る番組に携わっていた。大小さまざまの商品開発やプロジェクト実現の裏側にある苦労話や秘話を取材し、番組化してきた。そんな貴重な体験の中で、もっとも僕を惹き付けたのがGSのロゴの入ったこの時計だった。何よりつくり手たちの語り口が熱かったし、実際に時計を愛用している人たち--元プロ野球選手や落語家、医師、棋士、パリで活躍するデザイナーや、世界をまたにかける鉄道写真家--そういった人たちから聞き取った談話も印象深かった。つくり手の技術の粋と職人魂の結晶を、使う人の思いが磨き上げている。そんなふうに感じた。

先頃、僕の名刺の肩書には「取締役」の三文字がつくようになった。周囲の人や仕事運に恵まれた面もあるけれど、まあ、僕なりに頑張ってきた証でもあると自負している。憧れの時計は今、僕の左腕で誇らしく輝いている。

僕は、手に入れたばかりの真新しい時計の時間を読み取る。この時計は、二つの国の時刻を同時に表示するGMT機能つき。いま通常の短針と長針、秒針の位置は日本の時刻が八時五十九分四十秒であることを指し示すが、もう一本の24時針は十六時を指そうとしている。これは米国ロサンゼルスの現在時刻なのだ。

もうすぐだ。もうすぐ連絡がくるはずだ。僕の胸の鼓動は次第に高鳴っている。ほら、きた。電話の呼び出し音が鳴る。愛犬が首をもたげる。妻はキッチンで静かに珈琲を淹れている。落ち着け。あせってはいけない。四度まで数えて僕は受話器をとる。「もしもし…」

一瞬の間があって、相手の声がする。

「おはようございます、お父さん」

間違いなく彼の声だ。

「グッド・イーブニング。こっちは朝の九時六分だけど、そっちは夕方の四時六分だろ」
僕は冷静を装い、時計を見ながら現地の正確な時間を告げる。

「今朝早く、こっちの時間で五時三十三分に、無事に生まれました。安産です。ドクターにいわれていた通り、男の子です。母子ともに健康です」
「よかった。おめでとう」

心の中でファンファーレが鳴り響く。と同時に、思わず「俺も、とうとうおじいちゃんか…」と嘆息まじりの言葉がもれた。

「老け込むのは早いわ。グランドファーザーの感慨にひたる前に、まずは名づけ親になってよ。いつまでも若々しく、カッコイイおじいちゃんでいてほしいんだから」

なんと娘の声だ。子どもを産んだばかりの母親の声が聞けるとは思ってもいなかった。予期せぬことに込み上げるものもあって、ちょっとしどろもどろになり、傍らにきた妻が差し出す手に受話器を譲った。

名前はもう決めてある。元旦の「旦」と書いて「あした」。「旦」の字は地平線から太陽が昇る様子を象ったもので、「あした」は漢和辞典にも明記されている正規の読み。いい名前だと思う。これは実は、夏目漱石が自分の次男につけようとしていた名前だという。僕の大学時代の仲間のひとりで、今は文学部の教授になっている友人が教えてくれた。

娘と彼の結婚が決まったとき、僕は一人娘を嫁がせることに一抹の寂しさを覚えながらも、新しく息子ができたと思えた。彼は口惜しいくらいナイスガイなのだ。そして今、遠く離れた異国の地で自分の血を継ぐ孫が生まれた。なんという幸福だろう。僕のこの時計は、自分の残りの人生を刻み込み幾つもの旦を数えたあと、息子へ、そして孫へと、受け継いでもらうつもりだ。

室内に流れていた荘厳な旋律は、いつしかふたつの時を刻む無音の音色と響き合い、森の秋に祝福のシンフォニーが奏でられる。

※GMT(Greenwich mean time)機能とは、時針と24時針がそれぞれ別の時刻を示すことで、時差のある2つのタイムゾーンの時刻を表示できる機能です

※この作品には実在の人物名が登場しますが、この物語はフィクションです。

写真・図版

グランドセイコー ヘリテージコレクション
キャリバー9F 25周年記念限定モデル
SBGN007

クオーツムーブメント キャリバー9F86、日常生活用強化防水(10気圧防水)、耐磁時計(JIS耐磁時計1種)、年差±5秒(特別精度)、ケース・ブレスレットはステンレススチール、直径40.0㎜、¥330,000(税抜き)、数量限定1200本。

www.grand-seiko.com

問/グランドセイコー 0120-302-617

<<第八回はこちらからご覧いただけます

Text:Yukihiko Yajima
Photograph:Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling:Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Illustration:Hiroko Takashino

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