お酒
強力なミネラル感とバランスのよさを堪能したい
ヴィーニンガー ビザムベルク 2013
[今週の家飲みワイン]
2018.10.12
古い時代のワイナリーのモノクロ写真をエチケットにしたボトルが印象的なこちらは、ウィーンならではのワイン造りを端的に表した一本だ。ウィーンといえば、商業レベルのワイン産業がある、世界で唯一の首都。郊外にはワイナリーが点在し、ホイリゲと呼ばれる、ワインの造り酒屋が自家製ワインと簡単な家庭料理を売る、カジュアルな居酒屋がいまも多く残る。
また、その年のぶどうで仕込んだ、ワインになる前の微発泡の、いわばぶどうジュースとワインの中間のような新酒を祝って楽しむ文化が残っており、9月~10月のウィーンを訪れると実に楽しい。ウィーンは、そうした固有のワイン文化をとても大切にしているエリアなのだ。
「このワインは“ゲミシュター・サッツ”と呼ばれる、ウィーンにいまも残る伝統的な“混植混醸”の手法で造られたものです。ひとつの畑の中にいろいろなぶどうを植え、それを同時に収穫し、プレスして同じタンクに入れ、同時に発酵させるのです。この手法はその昔は他の国や地方でも自然に行われていましたが、ワイン作りの近代化に伴い衰退してしまいました。
いちばんの特徴は、強いミネラル感が出るということです。世界一ミネラル感が強い白ワインと言っても過言ではありません。仮説の域を出ませんが、おそらくそれは、ぶどうが共存することで、ぶどう自体の個性が平均化する事により、、逆にぶどう由来の主張が少なくなる代わりに、テロワールの主張がぐっと強くなると考えられます。それで、これだけのミネラル感が出てくるのでしょう。いわば、平均化したなかから個性が出るという具合です」と梁さん。
確かにひと口飲むと、力強いけれど決して重くはなく、若干粘性を感じるようなアルコール度の高さもあいまってキレがいい。酸味もほどよくフルーティーだが、単一のぶどうや果実を思い浮かべることはできない。まさに混然一体という言葉がぴったりだ。「当然のようにウィンナーシュニッツェルに合わせて食べると、たまらないほどの相性のよさです。ということは、トンカツにはまさにぴったりのワインというわけです。焼き鳥や生姜焼きにもいけそう。魚介なら刺身というよりも、鍋や煮魚にいいでしょう。という具合に、これまた日本の家庭料理とはとても相性のいい一本です」と梁さん。
一度途絶えかけたぶどう畑の在り方を復活させ、脈々と受け継がれてきた古きよきワイン文化を大切にするあたりは、まさに芸術の都としていまも生きつづける都市らしいワインと言えよう。こうしたワインが造り継がれていることを知ると、オーストリアのワインにぐっと親近感が湧くに違いない。
Photograph:Makiko Doi