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インタビュー 西島秀俊、真摯(しんし)な男の横顔。
2018.10.22
「僕は、辛い現場が好き」──。このひと言に、西島秀俊という役者のすべてが表れている。
西島の最新出演作、『散り椿』(木村大作監督 東宝系9月28日公開)もまた、そんな「辛い現場」を期待して臨んだ作品だった。
「木村大作さんの現場は大変、撮影じゃなくて修行だなんていうことも聞いてました。一本、一本にかける、これが最後だという意気込みもすごい、とも。だから、大作さんの作品によく出演されている方に、大作さんにお会いしたら、『西島が出たい、辛いことを体験したいと言っていたと伝えてほしい』とお願いしてたんです。それが通じたのかどうかわからないけれど、今回、念願が叶(かな)った」
実際に撮影現場に入ってみると、そこは、まさに映画人西島が望んでいた理想の現場だった。オールロケ、1回だけの本番、主演岡田准一との息詰まる殺陣(たて)と、撮影は刺激に満ちていたのだ。何よりも黒澤組出身の78歳の監督の持つエネルギーに引き込まれた。
「本格的な時代劇に参加させていただき、自分にとっては宝物のような体験だった。僕がこの世界に入ったときの夢だった撮影所の空気みたいなものを目の前で体現している人がいて、その人と一緒にできたことはすごく大きかった」
西島がこの世界に入ってきたのは、まさに今回のような撮影現場に身を置きたかったからだ。横浜国立大学工学部生産工学科の学生だった西島は、もともと父親と同じエンジニアを目指していた。しかし、次第に映画に傾倒。ついに大学を辞める決意をする。
「撮影所には、スタッフがたくさんいて、活気があって、もしかしたらあまりお金がもらえなくても、すごく楽しい日々が送れるんじゃないか。映画の現場は、いまの自分の状況を捨てても後悔しない場所だ、と確信を持ったんです。決めるまではじっくり考えるけど、決めたらとにかく突き進むタイプなので、それからは恐怖心で曲げるのはやめよう、とにかく前進しようとやってきた」
西島は、その後も仕事に貪欲でありつづける。ベテランの領域に足を踏み入れつつあるいまでも、新しい仕事、未知のジャンルを求めつづけている。吸収すべきものを探している。
「映画もどんどん変わってきている。本当にすごいスピードで。進化はいろいろなものを捨てていくけど、それを前向きに、素晴らしいことだととらえたい。いちばん新しい映画が生まれる場所に、立ち会っていきたい、と思ってます。いろんな役をいただいてきて、この年になっても、まだまだ初めての経験ということがたくさんありますし、それもまた楽しい」
今回の木村監督に限らず、新しい監督との出会いにも胸は躍るという。
「監督の撮り方が多様化してて、誰ひとり同じじゃない。僕は、20代のころに、いろいろな監督から『映画は自由なんだ』ということを教えられてきたし、いまは、よりそうなっているという気がします。アイフォンで撮る監督もいますし、それは素晴らしいことだと思います。僕はそういう映画にも積極的に出てみたい」
この日、西島がまとっていたのは、ジョルジオ アルマーニのダークトーンのスーツ。「メイド トゥ メジャーでアルマーニのスーツをつくって以来、どんどん身体にフィットしてきているのがわかる」と西島は言う。いまいちばん、好んで着る服だ。
西島は、アルマーニをこう評する。
「時代の最先端と自分の貫いてきた美学みたいな相反するものを両方やっている。それはすごく難しいことのはずなんだけど、ブランドがずっと続いていくのは、そういう力があればこそなんだ、と思います」
それは、まさに、西島が役者として歩み、実践してきたこととも重なる。かつての撮影所、フィルム時代の映画を愛(め)でながら、一方で、新しいものも貪欲に求め、採り入れる努力を惜しまない真摯な姿勢。伝統と革新の追究──。
いまや役者・西島秀俊というブランドも不動のものに思えるが、本人は最後に意外なことを明かす。
「とにかく器用じゃないので、すぐに何かが手に入る、と思ったことはありません。10代から役者をやっているシャープで頭の回転が速い人たちといっぱい仕事をしてきて、自分はなかなかそういうふうにはできないということもわかっていたし。だからこそ、自分なりに、ひとつひとつにじっくり向き合うというスタイルです。役に対しても、何かひとつのスキルを手に入れるにしても。僕は本当に不器用で遅い人間なんですね」
西島秀俊(にしじま・ひでとし)
1971年3月29日、東京都出身。『MOZU』『とと姉ちゃん』『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』など出演作は多数。昨年に続き2018年もジョルジオ アルマーニの最高峰ライン「メイド トゥ メジャー」の広告キャラクターを務める。この秋冬も『散り椿』のほかに、映画『オズランド』(10/26〜)、『人魚の眠る家』(11/16〜)など多数の話題作に出演予定。
Photograph: Masaya Takagi
Styling: Takafumi Kawasaki(MILD)
Hair & Make-up: Masa Kameda(The VOICE)
Text: Haruo Isshi