紳士の雑学

これぞ老舗、これぞブランド―威風堂々、虎屋。
[センスの因数分解]

2018.11.07

写真・図版 田中敏惠

“ブランディング”という言葉が一般化して久しい。消去法ではなく、これでなければと選ばれるにはどうすればよいのか。それはすべてのレーベルが求めるところでしょう。ブランディングとは、この「これでなければ」と思ってもらえるレーベルづくりだと思います。

過日「これぞブランド!」と思う存在と再会を果たしてきました。

とらや 赤坂店。3年の年月を費やし、10月1日にリニューアルオープンしたのです。
個人的にもこの日をとても楽しみにしており、すぐに行ってきました。というのも虎屋こそ、世界レベルの“ジャパンブランド”だと常々思っていたからです。
新しい赤坂店は以前の9階建てから4階建ての低層へと、なんとダウンサイジングして生まれ変わっていました。場所は赤坂御所や豊川稲荷を挟み青山通りに面し、テナントもすぐに埋まりそうな超々一等地です。「いったいなぜダウンサイジング……」そんな疑問を抱きながら、なじみの場所を訪れると、ガラスをふんだんに使った扇を広げたようなファサードに、以前と同じように「とらや」の暖簾(のれん)がかかっています。

写真・図版

この建物を設計したのは、日本を代表する建築家で過去にもこの老舗とタッグを組んでいる内藤 廣。私たちが基本的に利用できるのは地下1階から地上3階までの4層です。建物は吉野の檜がふんだんに用いられ、地下がギャラリー、1階はエントランスと予約の引き渡し場所に駐車場、またユニークな羊羹の自動販売機も置かれています。そして2階が赤坂店の限定品を含めた物販、3階は菓寮となっています。現在ギャラリーではとらやの看板とも言える羊羹をデザインの観点からフィーチャー。大正時代の見本帖をはじめ、美しい絵柄がズラリと並んでいます。2階のフロアには物販のほかに漆の御用箱が特別に展示、美しい箱は来る者の目を喜ばせます。

そして赤坂店のシンボルと言えるのが、一面に黒漆喰が塗られた壁面です。中央にはプラチナ箔を施された虎の文字が置かれ、潔く、かつ威風堂々と老舗の格を伝えていました。職人による匠を技を感じさせる、檜の組木が弧を描く階段を上っていくとテラス席を擁した虎屋菓寮があります。ゆったりとしたシートレイアウトで、地下からとらやの世界観と買い物を楽しんだ人たちがリラックスして小休止できる設計となっています。

写真・図版
とらや 赤坂店2階にある黒漆喰が塗られた壁面。

すがすがしさと重厚さ。老舗の風格とモダンな心地よさ。とらや 赤坂店には、本来なら相反するであろう事柄が見事に共存しています。それは赤坂店のみならず、企業・虎屋に常に抱いているイメージでもあります。御所の近く、500年の歴史を感じさせる京都一条店や、すっかり地元の人にも愛されているパリの店舗(への進出)、あんスタンドでも知られるTORAYAカフェという試み……。多くのブランドが掲げ目指す方向性である「伝統と革新」を虎屋は見事に体現しているのです。

赤坂店のリニューアルにあたって、ホームページには黒川光博社長の言葉が掲載されています。前の東京オリンピックの年に生まれた9階建ての旧赤坂店は、当時際立って高く「行灯(あんどん)ビル」と呼ばれたといいます。半世紀が過ぎ、建て替え当初の計画では高層のビルを予定していたそうですが、高度経済成長期ではないこれからの半世紀を見据えたとき、和菓子屋としての原点に立ち返ろうと低層の店舗に思いに至ったそうです。

2020年の次のオリンピック、そしてインバウンド対応へとほとんどの企業が拡張拡大を急ぐいま、日本を代表する老舗は半世紀先を見据えてとらや 赤坂店を生み出したのです。これぞ、ブランドの選択と言えるのではないでしょうか。伝統と革新を実践し、2年先のチャンスではなく50年先の未来を取る姿勢。これぞ老舗、これぞブランド、そしてこれこそがCOOL JAPANだと思います。

プロフィル
田中敏惠(たなか・としえ)
ブータン現国王からアマンリゾーツ創業者のエイドリアン・ゼッカ、メゾン・エルメスのジャン=ルイ・デュマ5代目当主、ベルルッティのオルガ・ベルルッティ現当主まで、世界中のオリジナリティーあふれるトップと会いながら「これからの豊かさ」を模索する編集者で文筆家。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』『未踏 あら輝 世界一予約の取れない鮨屋』(共著)、編著に『恋する建築』(中村拓志)、『南砺』(広川泰士)がある。
http://ttanakatoshie.com/  ブログ:https://ameblo.jp/ttanakatoshie

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