旅と暮らし

スクリーンで試せるたったひとつの想像力を試す体験
映画『THE GUILTY/ギルティ』
[美しき映画ソムリエ]

2019.02.18

東 紗友美 東 紗友美

スクリーンで試せるたったひとつの想像力を試す体験<br>映画『THE GUILTY/ギルティ』<br>[美しき映画ソムリエ]

人間の五感の情報処理能力は、味覚1.0%、触覚 1.5%、臭覚 3.5%、聴覚 11.0%、視覚 83.0%だと言われている。普段、目と耳はフル稼働している印象だったので案外、聴覚から得られる情報が少ないことに驚いた私。

そんな聴覚から得られる情報源わずか11%を徹底的に試してくる映画が生まれた。この映画は、健康診断における聴覚検査よりもある意味精巧で、また想像力までも同時に検査することのできるリトマス試験紙のような役割を果たしていると私は思う。

シンプルな設定ながらも、まったく予測ができない展開で見る者を作品に没頭させ、第34回サンダンス映画祭では、『search/サーチ』(NEXT部門)と並び、観客賞(ワールド・シネマ・ドラマ部門)を受賞した北欧デンマーク発のスリラー映画だ。

映画の作り方としても新しく、昨年の社会現象となった『カメラを止めるな』的なアイデア勝負だぞ……という意気込みを感じられる逸品に仕上がっている。

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緊急司令室にかかってくる1本の電話からつながる誘拐事件。
通報者はいままさに誘拐されているという女性。
車の発進音や女性の声、電話から聞こえるわずかな音声の情報だけを頼りに、オペレーターは音の中にいる犯人を捕まえるため事件に立ち向かう。
一音も聞き逃せない、映像体験ならぬ音声体験始まる。
上映時間88分間と短めにもかかわらず、密室における電話の会話のみでストーリーは進行し、ノンストップで観るものを電話回線の中に閉じ込める。

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それにしても、まっさらな気持ちでモノを見ることはなんと難しいことなのであるのかと痛切に思う。偏見を完全に切り捨て、情報を集め、そしてそれを整理しながら、全体像を俯瞰(ふかん)する。これがいかに難解なことか……。改めてその難しさに気付かされた。

さて、冒頭に想像力を試されると書いたが、私たちは常日頃から、実は「想像すること」自体あまりしていないのかもしれないと気付く。「起こり得そうなこと」や「予想の範囲内」のことをイメージして対策を準備しているだけだったりするかもしれない。

日常的に想像力を磨く術としてこの映画から学んだのは、自分の知らない第三者の話題が出た際、頭の中に地図を広げて聞けているかだけじゃ足りないということ。さまざまなアングルを変えてその人物を想像してみること。そう、視点を変えることの重要性に気付かされる。パッと視点を変えて発言できたり、切り返せる人は多面的にものが見えているので物事の本質をつかめる可能性が高いのではないかとも思った。

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ちなみに今年、私が印象的だったのは嵐の活動休止会見での話題となった櫻井 翔さんの発言。「誰かひとりの思いで嵐の将来を決めるのは難しいと思うと同時に、ほかの何人かの思いで誰かの人生を縛ることもできない」。視点を変え、さまざまな角度からモノを見る。そうすることで実態を捉えることができるだろう。

最後に、想像力の話に戻る。現代物理学の父「相対性理論」で有名なアルベルト・アインシュタインはこう語った。「想像力は、知識よりも重要だ」「知識には限界がある」「想像力は、世界を包み込む」。

想像力を磨くには、ひとつの出来事に対してもたくさんのアングルを持つことが大事なのかもしれない。結末が予測できない系ミステリーには何作品も出合ってきたが、新しいタイプの映画だった。

真っ暗な映画館で、イマジネーションのテストはいかがだろうか? 『サウスポー』『ナイトクローラー』などのなにかと怪演ぶりも話題となるジェイク・ジレンホール主演によるアメリカでのリメイクも既に決定中の本作。日本でも一定数のファンを持つイヤミス好きにも本作を強く推したい(イヤミス=通称イヤなミステリーの略称)。

解決は、する。しかし、どこかスッキリした感じはしない。でもそれが本来の人間の人生とどこかリンクしていて、妙に説得力がある。北欧映画ならではとも言えるこのリアリティーあふれるドンヨリ感、雪解けを迎える季節の前に味わっていただきたい。

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『THE GUILTY/ギルティ』
2/22(金)新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
©2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
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