紳士の雑学

徹底した『利他主義』で世界中をハッピーに
株式会社LIFULL代表取締役社長 井上高志インタビュー[前編]

2019.03.27

徹底した『利他主義』で世界中をハッピーに<br>株式会社LIFULL代表取締役社長 井上高志インタビュー[前編]

国内最大級の物件サイト『LIFULL HOME’S』は「不動産業界を改革したい」井上の信念から生まれた。7期連続最高益と経営面が好調に推移するなか、次のミッションは住まいに限らず、「あらゆるLIFE(ライフ)をFULL(フル)にすること」だ。

半蔵門の皇居のお堀にほど近いオフィスは築50年のビルを再利用したものだ。1階に併設したカフェはお昼どき、社員のみならず地域住民でにぎわっている。「以前のオフィスは新築のビルでした。社員に『会社が発信しているメッセージと違いません?』と言われ、17年に移転したんです」、LIFULL(ライフル)井上高志代表取締役社長はそう語る。不動産・住宅情報サイト『LIFULL HOME’S』でおなじみの同社だが中古住宅の評価サービスや『空き家バンク』プラットフォームなど中古物件の流通活性でも注目されて久しい。

設立は1997年。「誰もが無料で見られる物件データベースを作ろうと思ったんです。多くの不動産情報のなかで、顧客は一部の情報しか得られない。そうした情報の非対称性を解消したかった」と井上は言う。『利他主義』から始まった会社は現在、住まい以外に介護やインテリアなど多業界で活躍を広げている。「働きがいのある会社」ランキングの常連であり、7期連続最高益を更新中と経営面でも絶好調だ。けれど、井上は言う。

「まだまだ。これからですよ」

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ちゃらんぽらんな学生が
人生スイッチをオンに

いわく高校生までは引っ込み思案、大学生のころはちゃらんぽらん。けれど、起業願望はそのころから持っていた。「だからといって何かするわけでもなく。気がついたら就活の時期でした」。最初に志望した少数精鋭のベンチャー企業には落ちた。他の学生に圧倒された。しっかりと考え、さまざまな経験を積んだ者ばかり。負けて当然、井上は痛感した。

同じころ、付き合っていた彼女に振られた。「ニューヨークに行ってニュースキャスターになりたいから」。夢を語る彼女がまぶしく見えた。自分はと言えば、未来の目標がない。過去の経験も乏しい。圧倒的な劣等感と猛省のなかで心に決めた。「就職したら5年以内に独立して起業しよう。一生をかけて多くの人から『すごい!』と言われるようなことをやろう」。何かアイデアがあったわけではない。とにかくデカいことをしたい、そんな思いがグルグルグルグル渦巻いていた。

卒業後、リクルートコスモス( 現コスモスイニシア)に入社。不動産はスケール感がある一方、街づくりや住民との関わりなどぬくもりのある仕事に見えたが、入社ほどなくバブルは崩壊。3カ月後にはグループ会社のリクルートへ出向することに。ショックだったが、井上はこう考えた。「起業したら、思いどおりにいかなくて当たり前」。本社が必要とするような人材になろうと決め、支社長に直談判した。『1年以内に全国営業のトップを取ったら呼び戻してください』と。

宣言どおり、1年経たずにトップを取った。「能力も経験もないですから人の3倍は働きましたね。その後ですか? 本社に戻れると思いきや『求人営業で頑張ってるみたいだな! 引き続き頼むぞ』と言われておしまい。まぁ、そんなものかと(笑)」。ともあれ、がむしゃらだった会社員時代で井上のスイッチはオンになった。95年、当初の予定どおりに会社を辞め、個人事業主となった。現在のLIFULLへと続く道の始まりだった。

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不動産業界を変えるのは
自分しかいない!

さて、立ち上げたのは不動産関連のインターネット事業だ。「不動産業界には3カ月しかいなかったわけですが、課題の多さを痛感したんです。また、このころ、ローンの審査が通らなかった若い夫妻に他社の物件を紹介し、非常に喜ばれたことがありました。上司には怒られましたが『こういう笑顔を増やしたい。そのために自分が業界を変えてみせる』と強く思った気持ちが残っていたんです。ですから、独立してやるならこれしかないと。その気持ちは20年経ったいまでも変わっていませんね」

事業の完成形は最初からイメージできていた。情報不足ゆえに顧客がコントロールされないようにすべての物件をデータベース化する。とはいえ、当時はインターネットの黎明期(れいめいき)。やろうとしていることは周囲にほとんど理解されなかった。

「10人中9・5人には反対されましたね(笑)」

なけなしの自己資金100万円は95万がマッキントッシュと地方税とに消えた。ホームページを作ろうにも自身、PC操作に慣れておらず本を見ながら指一本で制作した。労働時間は日に20時間ほど。このころ、交通事故で重傷を負う災難にも見舞われたが、医者が止めるのも聞かず、包帯姿で商談に向かったという。

ともあれ、井上自身は前向きの塊だった。

「何もない状態からのスタートです。失ってもゼロに戻るだけ。『失敗って何?』って感じでしたからね。この領域で世界一努力しているのは自分だと、そう言い切れるところまでやってやろうと思ったんです」

後編へ続く>>

プロフィル
井上高志(いのうえ・たかし)
1968年、神奈川県横浜市出身。青山学院大学経済学部卒業。リクルートコスモス(現コスモスイニシア)を経て、95年に独立、「不動産業界の仕組みを変えたい」という信念のもと、個人事業主として同社前身となるネクストホームを立ち上げる。97年に株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。同社代表取締役社長。座右の銘は社是と同じ『利他主義』。新経済連盟理事。一般社団法人21世紀学び研究所理事。一般社団法人Next Wisdom Foundation代表理事。「仕事は飽きないけれど、趣味はすぐ飽きてしまう」という井上だが、余暇は徹底するタイプだ。北海道は熊の生息地である南富良野町に山小屋を共同所有。大自然のなか五右衛門風呂につかり、電気もガスも通っていない山小屋で家族と休暇を過ごすことも。

Photograph:Kentaro Kase
Styling:Masahiro Tsukada
Text:Mariko Terashima

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