旅と暮らし

90年代のシーンを賑わせたスウェディッシュ・ポップの歌姫が
デビュー25周年を祝した新作を携え、ビルボードライブで公演

2019.05.16

内本順一 内本順一

90年代のシーンを賑わせたスウェディッシュ・ポップの歌姫が<br>デビュー25周年を祝した新作を携え、ビルボードライブで公演

スウェーデンのポップ・ミュージック……所謂スウェディッシュ・ポップの波が日本に押し寄せたのは1990年代の半ば頃。スウェディッシュ・ポップという言葉を聞いて多くの人がまず思い浮かべるのは、カーディガンズを筆頭とするギターポップ・バンドだろう。カーディガンズのシングル「カーニヴァル」がJ-Waveを始め日本のFM局でかかりまくって特大ヒットになったのが1995年。それに続いてクラウドベリー・ジャムほかいくつものスウェーデンのギターポップ・バンドが日本で紹介されて人気を得た。

だがスウェディッシュ・ポップには、それとまた別の潮流があった。93年のシングル「オール・ザット・シー・ウォンツ」が特大ヒットを記録したエイス・オブ・ベイスを筆頭とするダンスポップものだ。あの頃、ギターポップ・バンドに先駆けていくつかのダンスポップ・ユニットがスウェーデンから世界デビューを飾ったものだが、日本ではエイス・オブ・ベイスのブレイクと比較的近い時期に発売されたのが、レガシー・オブ・サウンドというユニットのアルバム(95年の2作目『ツール・ド・フォルス』がダンスポップ好きの間でそこそこ話題になった)。レガシー・オブ・サウンドは、後にスウェーデンを代表する超人気プロデューサーとなったアンダース・バッジ(ジェニファー・ブラウン、ベリンダ・カーライル、98ディグリーズ、さらにはマドンナの楽曲までも手掛けた)がやっていたユニットだったのだが、そのアンダースがレガシー・オブ・サウンドのフィーチャリング・ヴォーカリストとしていち早く抜擢したのが、そう、メイヤである。

メイヤは、ストックホルムのジャズ・クラブで歌っていたところを、たまたまそこに居合わせたアンダース・バッジに引っ張られる形でレガシー・オブ・サウンドに参加。2枚のアルバムに関与したのち、エイス・オブ・ベイスを世界的グループに育てあげた敏腕マネージャー、ラース・カールソンと出会ってソロ・シンガーのキャリアをスタート。エイス・オブ・ベイスやリアル・マッコイを手掛けたダグラス・カーをプロデューサーに迎えたアルバム『メイヤ』で96年に世界デビューを果たした。

そこからのシングル「クレイジー(How Crazy Are You?)」は、日本でJ-Waveのヘビー・ローテーションとなって特大ヒットに。アルバム『メイヤ』は実に80万枚以上のセールスを記録した。また98年にはテレビ朝日『ミュージックステーション』に出て「オール・バウト・ザ・マネー」を歌ったほか、日本テレビ『THE夜もヒッパレ』にも何度か出演。2ndアルバム『セヴン・シスターズ』もまたデビュー作同様80万枚以上を売り上げることになったのだった。

あの頃、スウェーデンの売れっ子プロデューサーがついてソロ・デビューを果たした女性シンガーは本当にたくさんいたし、日本の各レコード会社もそれを躊躇なくリリースしていた。そんな北欧の女性シンガーたちの歌声を胸ときめかせて聴いていた自分は、R&B系のジェニファー・ブラウン、セイディ、ファティマ・レイニー、ポップ系のジャスミン、ライラ(この女性の作品もアンダース・バッジが手掛けていた)、シンガー・ソングライターのソフィー・セルマーニ、ジャズ系のヴィクトリア・トルストイなどなど数多くのスウェーデン出身女性歌手にインタビューしたものだったが、メイヤのように歌番組にも出演して一般レベルにまで名前が浸透した歌手はほかにいない。ラジオフレンドリーなポップ・メロディと、アコースティックを基調にしたサウンド。爽やかながら弾んだ感覚もある歌声と、溌剌としていて親しみやすいキャラクター。メイヤは90年代半ばから後半にかけての日本で、スウェディッシュ・ポップという枠組を超えて広く愛されたのだ。

自分はデビュー前にL.A.で、1stアルバムが爆発的にヒットしていた頃には東京でインタビューしたが、彼女のこんな言葉が印象に残っている。「私は歌にアドリブをあまり入れ込まないし、マライア・キャリーのように高い声を伸ばして圧倒的に聴かせるのではなく、まっすぐな歌い方をする。それは私のスタイルだし、自分にとって重要なこと」「“クレイジー”などヒットした私の曲はアコースティックな部分とポップな部分のバランスを意識したところが大きかったけど、自分としてはこれからもっともっとアコースティックでスピリチュアルな面を前に出した音楽をやりたいの。それによって今回ほどのヒットに至らなくても、気にしないわ」。

実際、98年の2ndアルバム『セヴン・シスターズ』は1stのポップさを踏襲しながらスピリチュアルな面もほどよく反映されていた。そして3rdアルバム『リアリテイルズ』(2001年)はというと、今度は思いきってアコースティックの逆を行き、打ち込みも取り入れたポップロック方向へ(シングル「ヒッピーズ・イン・ザ・60s」などはレニー・クラヴィッツふうのファンキー・ロックだった!)。その3年後(2004年)のアルバム『メロウ』では一転してアントニオ・カルロス・ジョビン、カエターノ・ヴェローゾ、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェルらの曲をボッサなムードで聴かせ、そのように彼女はその時々の自身の志向に正直になりながら音楽性の幅を広げていったのだった。

その後、メイヤは2009年に自身のレーベルから『Urban Gypsy』を、2015年には『Stroboscope Sky』をリリース(日本での4thアルバム『メロウ』はカヴァーが多く、自身のサイトではオリジナル・アルバムとしてカウントされていないので、『Urban Gypsy』を4thアルバム、『Stroboscope Sky』を5thアルバムと捉えるのが正しいようだ)。この2作は日本で発売されなかったのだが、Spotifyなど配信サイトで聴くことができる。それぞれシンガー・ソングライターとしての個性をそれ以前よりも濃く表し、彼女が進化し続けていることをハッキリ感じさせる良作だった。

15年ぶりに日本で発売される新作は、
デビュー当時のポップさに立ち返ったもの

500_Kozmic-Surferアルバムジャケ写小[1]

さて、そんなメイヤは今年でデビュー25周年。それを祝す意味合いも込めて、6月12日にニューアルバム『コズミック・サーファー』が発売される。2015年作『Stroboscope Sky』以来となるアルバムだが、日本で発売されるオリジナル・アルバムとしては『メロウ』以来、実に15年ぶり。ライナーノーツによれば、これは「日本のファンに贈る特別な作品」で、「日本のためにもう一度ポップ・アルバムを作ろうと思った」ことから始まったそうだ。即ちそれは、日本で特大ヒットとなったデビュー・アルバムや2ndアルバムのポップさに立ち返った、いわば原点回帰的なもの。メイヤの成功を導いたダグラス・カーとの再タッグこそ彼の都合で叶わなかったものの、アルバム全体のプロデュースを自身で手掛け、曲ごとに異なるプロデューサーを迎える形で“日本のファンたちが求めていたポップなメイヤ像”に応えることをしている。

今作に関与したプロデューサー/ソングライターは、ビリー・スタインバーグ(シンディ・ローパー、セリーヌ・ディオンほか)、ステファン・リプソン(アニー・レノックスほか。メイヤの3rdアルバム『リアリテイルズ』も担当)、ジョシュ・アレクサンダー(ウィーザーほか)、エリック・バジリアン(デズリー、パティ・スミスほか)らで、ほかにも彼女の過去作に参加した何人かが関与。メイヤのいいところをよくわかっている人たちだけに、彼女も“あの頃の自分らしさと現在の自分らしさ”をミックスさせて表現することを楽しんだのだろう。

グッドメロディで、華やいだ感覚があって、ラジオフレンドリーで、どこか懐かしさもある、生き生きとした新曲10曲。そんなニューアルバム『コズミック・サーファー』には、あの頃の大ヒット曲「クレイジー」や「オール・バウト・ザ・マネー」など7曲を再レコーディングしたボーナス・トラックもつき、そこからはメイヤの歌唱表現力の進化と変化もわかりやすく伝わってくる。

そして、このアルバムを携えての日本公演も決定。7月にビルボードライブ東京(2日間)とビルボードライブ大阪で行なわれるのがそれで、2010年10月に同会場で行なわれた公演以来、これが9年ぶりの日本公演となる。未だ輝きを失わないあの頃のヒット曲から最新曲までを惜しみなく歌ってくれることは間違いないし、日本のファンに対する愛も存分に表現されるライブになることだろう。再会が待ち遠しい。

プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。Note(ノート) でライブ日記などを更新中。

公演情報
メイヤ
Meja

【東京公演】
公演日/2019年7月21日(日)
    1st Stage Open 15:30 Start 16:30
    2nd Stage Open 18:30 Start 19:30

    2019年7月22日(月)
    1st Stage Open 17:30 Start 18:30
    2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
料金/サービスエリア 8000円 カジュアルエリア 7000円
問/03-3405-1133
所在地/東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガーデンテラス4階

【大阪公演】
公演日/2019年7月24日(水)
    1st Stage Open 17:30 Start 18:30
    2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
料金/サービスエリア 8000円 カジュアルエリア 7000円
問/06-6342-7722
所在地/大阪府大阪市北区梅田2-2-22 ハービスPLAZA ENT 地下2階

その他詳細は下記よりご確認ください
http://billboard-live.com/

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