紳士の雑学

賢者は知っている、触発される身だしなみ
[センスの因数分解]

2019.05.27

田中敏惠 田中敏惠

風薫る五月。この季節の東京は一年で最もいい気候でしょう。梅雨を迎える前のこの時期を、個人的には身だしなみ強化月間としています。雨でまとまりにくくなる髪を、少しでも手入れしやすくするため。連休でぼけた心身をシャッキリさせるため。新年度に取りこぼしていたアレコレをリカバリーして立て直す。など理由はいろいろですが、年齢を重ねるにつれて「身だしなみ」の重要性をひしひし感じるのは、男女とも変わりないように思っています。

メンズファッションシーンをリードする両軸といえるのが、伊勢丹メンズ館と阪急メンズ東京。伊勢丹メンズ館ではずいぶん前からネイリストによる施術を「サロン ド シマジ」内で行っていますし、有楽町の阪急メンズもブルックリン発のビンテージバーバーの新形態店ができました。

リファイン(refine)という単語には、「洗練する」「磨きをかける」「精錬する」という意味がありますが、自身に磨きをかけるはじめの一歩となるのは、身だしなみではないでしょうか。

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渋谷の外苑前に、松浦美穂が代表を務める「Twiggy.」というサロンがあります。いまをときめく女優や著名人が愛用しているサロンなので、雑誌などで目にした方もいるかもしれません。このサロンの多面性には、大人のオトコのrefineはじめの一歩に必要な要素が詰まっていると思います。

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要素1:サロン環境のよさ。
地下鉄の駅から近い、という利便性もさることながら、1階と3階にあるカットスペースは、たっぷりの自然光が入り1階は(半地下ですが)エントランスとドライエリアに多彩な植栽がなされ、季節の移り変わりを敏感に受け取ることができます。

要素2:盗みたいセンスが点在している。
スタッフにはDJもするような筋金入りの音楽好きがいて毎回まったく違う、しかもハヤリに惑わされないミックスがかかっています。その場にいて音楽検索アプリであるShazamのお世話になるかどうかは、個人的にはどんなジャンルにおいてもいい店のリトマス試験紙としているのですが、Twiggy.でチェックした曲がいくつも私のプレイリストにあります。また洋雑誌や洋書を含めた蔵書も豊富。いまはイタリアンヴォーグのファッションページがおもしろいなどといったリサーチもできます。ウォールペイントや布使い、アンティークのあしらいなどインテリアもチェックしたくなるところが多いです。

 カフェ内観

要素3:あれこれヘルスケアできる。
サロンでは、カットやパーマ、ヘアカラーだけでなくヘッドスパやリフレクソロジーの施術を受けることもできます。ブルーライトと電磁波を始終浴びている現代人の頭や肩をアロマの香りに包まれながらがっつりほぐすことができます。また3階にはカフェが併設されていて、オーガニック栽培の季節の果物や野菜を使ったスムージーやスープのオーダーも可能。日々の仕事に忙殺されて蓄積していそうな健康負債の清算が一気にできます。

要素4:社会といかにつながるかを考える機会になる。
ヘアサロンといえば電力の消費量もかなりのものですが、実はこのTwiggy/、昨年よりサロンで使用する電気をすべて自然電力にシフトしています。これはオーナーである松浦美穂さんの考えから。彼女は昨年まで秋田で自然農法によるお米も作っていました。自身の口に入れるものや自分たちが使うエネルギーの由来。そんなことにも意識をもって、個々のクライアントの魅力を引き出しながら技術とセンスを必要とするヘアスタイルを生み出す経営者です。そしてその食べ物やエネルギーの由来に自覚的になることは、自身の社会の接し方と直結しているのは自明の理。「髪」をきっかけに「環境」へ。近視眼から俯瞰(ふかん)へと社会や世界を見わたす視点へと大きく視点を変えるきっかけを生んでくれるのです。

大人のリファインのはじめの一歩としての身だしなみ。そういう意味でTwiggy.というサロンは、実に多角的に人を磨いてくれる気がします。それに気づいているのかサロンではメディアにも登場する話題の男性経営者を見かけることも。男は仕事さえしっかりしていればいい、という時代が過去のものとなってずいぶんと経ちます。またラグジュアリー層のカジュアル化も顕著になっています。そんななかで、身だしなみから大人の洗練や磨き方を考えてみる。それは、ただ見た目のリフレッシュ以外の何かが得られるリファイン進化系といえるのではないでしょうか。

また、これらの要素をコンテンツと見なしてみるとどうでしょう。多角的に触発される。吸収できる。ヒントが散らばっている。そんなベースになる場所をいくつ知っているかは、ビジネスだけでなく、人生を豊かなものにしてくれそうに思いませんか。

日々時間に追われる都市生活者。物事の動きはどんどんスピードを増し、ビジネスやコミュニケーションでその対応力を求められます。そんな日々にリセットは必須です。しっかりリセットをしながら、さらにそれが1粒で何度もおいしい選択をする。身だしなみという個人の事柄から事象や環境まで。一カ所が提供するコンテンツの多様さとそこから享受できる刺激こそ、大人のリファインに必要なものといえるのではないでしょうか。

プロフィル
田中敏惠(たなか・としえ)
ブータン現国王からアマンリゾーツ創業者のエイドリアン・ゼッカ、メゾン・エルメスのジャン=ルイ・デュマ5代目当主、ベルルッティのオルガ・ベルルッティ現当主まで、世界中のオリジナリティーあふれるトップと会いながら「これからの豊かさ」を模索する編集者で文筆家。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』『未踏 あら輝 世界一予約の取れない鮨屋』(共著)、編著に『恋する建築』(中村拓志)、『南砺』(広川泰士)がある。
http://ttanakatoshie.com/ ブログ:https://ameblo.jp/ttanakatoshie

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