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ピッティで知る、紳士靴のこれからとは?
2019.07.24
メンズクロージングでもスニーカーの普及は高まり、いまやピッティウォモの会場でもその多くの足もとを占めていました。とはいえ、それは選択肢の広がりであり、オーセンティックなドレスシューズの人気や関心には依然変わりありません。特に近年注目を集めているのがスリップオンのローファーです。その魅力と新作の傾向について、クロケット&ジョーンズを手がけるプレステージシューズのマーチャンダイザー、村井久哲氏は語ります。
「スニーカーは快適だけどビジネスシーンにはマッチしない。そうしたニーズに応え、軽快な履き心地とリラックスしたスタイルに、シックな風格を併せ持つローファーの人気が高まっています。特に近年パンツのトレンドがゆったりとしたフォルムになり、その足もとにも合いますし、かっちりしたスーツ姿をおしゃれにドレスダウンするにもいいですね。昨年はタッセルがブレークしましたが、今年はシンプルなデザインが注目を集めています」
もちろんそこには現代的な使い勝手に応じた技術やスタイルが欠かせません。クロケット&ジョーンズのローファーが支持される理由もそこにあります。
「伝統的なグッドイヤーウェルト製法に、アンライニングの一枚仕立てやラバーソールといったコンフォート仕様を組み合わせています。ローファーというとフィット感に欠けるイメージがありますが、4
年前から日本人向けのラスト(木型)を開発し、履き心地は格段に向上しています」
こうした対応力の高い商品開発は、歴代多くの名門ビスポーク靴ブランドの既製靴作りで培ってきた多彩な技術や素材、デザインのノウハウがあってこそ。クオリティーとスタイル、コストパフォーマンスという三拍子そろった信頼感が愛好家を魅了します。
さらに今年創立140周年を迎え、その長い歴史で手がけてきたビンテージなデザインも見逃せません。バタフライローファーもそんな注目作です。
「第一世界大戦以降から40年代ごろにかけて作られたビスポーク靴をベースにしています。甲のフィット感が高く、チェスナットのカラーも気品が漂います。90年代に一度復刻しましたが、歴代のアーカイブにはこうしたタイムレスなモデルも多いんですよ」
スニーカー世代が増える一方、履き捨てではないドレスシューズの所有感や、大切に手入れする楽しみが再評価されていると村井氏は語ります。
「そうしたなかで、ドレスシューズをカジュアルに履くスタイルの提案とともに、新しい製法や素材の開発による快適性を追求していきたいですね」
プロフィル
柴田 充(しばた・みつる)
フリーライター。コピーライターを経て、出版社で編集経験を積む。現在は広告のほか、男性誌で時計、クルマ、ファッション、デザインなど趣味モノを中心に執筆中。その鋭くユーモラスな視点には、業界でもファンが多い。
Photograph:Mitsuya T-Max Sada
Text:Mitsuru Shibata