旅と暮らし

ソロキャリア初のライブ盤を発表し、今年も横浜で歌う。
「ライブは、生きてる時間」。木村充揮インタビュー。

2019.09.24

内本順一 内本順一

ソロキャリア初のライブ盤を発表し、今年も横浜で歌う。<br>「ライブは、生きてる時間」。木村充揮インタビュー。

木村充揮(きむら あつき)がMotion Blue YOKOHAMAで歌う。題して「木村充揮 LIVE IN YOKOHAMA 〜横浜で吠える!〜」。Motion Blue YOKOHAMAでの公演は今回が4度目。1月に続き、今年2度目の登場だ。

木村充揮は2019年も絶好調。最近はといえば、7月下旬から8月にかけて京都の磔磔(たくたく)で1週間連続公演『木村充揮満載な一週間!!楽しんでや!!!』を行い、そのすぐあとには名古屋のTOKUZOで三宅伸治と共に『木村くんと三宅くんのお盆な一週間!楽しんでや!!!』を。続いて8月末から東京・江古田BUDDYで3日連続公演を行い、9月14・15日には大阪の『なにわブルースフェスティバル』に出演。翌16日には大阪城音楽堂にて自身の名を冠した初フェス『木村充揮ロックンロールフェスティバル』(怒髪天、ザ・クロマニヨンズ、フラワーカンパニーズ、それに大西ユカリ、三宅伸治らが出演)を成功させたばかりだ。

このように年がら年中どこかでライブをしている木村だが、今年はずいぶん久しぶりにアルバムも発表した(2014年の『憂歌兄弟』以来5年ぶり。ソロとしては2011年に2枚続けて出したジャズ・スタンダード集以来、実に8年ぶりだ)。『ザ・ライブ!』と題されたそのアルバムは、2018年4月に5日間行われた『木村充揮 下北沢ライブサーキット』から4公演の“いい曲・いい場面”を抜粋して収めたもので、意外なことにそれはソロキャリア史上初となるライブ盤。ライブがすべてと言っていい木村充揮という歌手の魅力がギュッと凝縮された、近くて生々しい2枚組作品だった。

このアルバムができたあと、木村充揮とじっくり話す時間があった。以下の言葉は、そのときのものだ。

――意外なことに、これがソロとしては初のライブ盤。いままでライブ盤を出そうという話にならなかったのが不思議なくらいですが。

「ライブ盤を出そうとか、そんなん僕は考えたことない。憂歌団のライブ盤もスタッフが勝手に録(と)っとって出したら、それがよかったみたいやけど、とりあえず僕はレコード出す出さないとか関係なしにライブやるだけ。なんも考えんと、ただ好きにやるだけやから」

――こうして形になったものを自分で聴き返したりはしますか?

「そんな聴きません。あんまり聴いたら自分のライブの新鮮さがなくなるから。忘れることも大事やからね」

「たま~に憂歌団の昔の映像がテレビかなんかで流れてくることありますやん。自分から見ようとは思わへんけど、なんかの拍子で見ると、“こいつ、ヘンなやっちゃな”って思いますね。“これ、オレかぁ?”って。テープレコーダーで自分の声聴くと、“こんなんちゃう”って思うでしょ。あんな感じ」

「でも、何年かたって久しぶりに自分のレコード聴いてみたら、なんとも思ってなかった歌がええふうに聴こえるってこともありますね。時間がたったら、また違うように聴こえる。それがオモロイ。あと、ライブのなかで客のリクエストがあって歌ってみたら、“あ、けっこうええ曲やん”って(笑)。そんなことも」

――このアルバムにはゲストで出演された藤沼伸一さん、三宅伸治さん、梅津和時さん、有山じゅんじさんとの曲も収められていますが、きっちり決め込んでリハを重ねてという感じではなく、その場での生きたやりとりを感じられるのがいい。わけても有山さんと木村さんのやりとりは自由度が高いうえに、“あ・うん”の呼吸が伝わってきます。

「声は違うけど、ふたりで歌(うと)うたら自然とハモってるようになる。好きなとこで好きなように歌うのがラクやし、気持ちええ。真面目な人は“ここでこう”って決めたがるけど、そんなん毎回違ってええねん。生モノなんやから。一時な、ゴスペル教室が大阪でもはやって、生徒もいっぱいおって。発表会、聴くやん。そうするとゴスペルのフリーな感じが全然ない。教科書どおり言うか、音楽の授業みたいで。ほんまは自由にやるところから生きたハーモニーが生まれるはずなのにな」

このライブ盤からはとにかくそのとき、その瞬間を自由に楽しもうとしている木村とゲストたちだからこその化学反応が見て取れる。もちろんこのライブ盤に限ったことじゃなく、木村は常に柔軟さに重きを置き、普段のさまざまなライブでもそれに対応できる人、そういう気持ちを持っている人と共演する。それが木村の音楽の楽しみ方、遊び方なのだ。

「梅津さんなんかは、聴いたらなんでもできますやんか。前も新宿ピットインで梅津さんとやるときに、リハもやったけど、僕、本番でその曲やらんと勝手に思いついた曲ばかり歌(うと)うてて(笑)。なんでもそうやけど、そのとおりにやってもオモロないからね。頭からバチーンって合わせることもせんで、好きなとこで入っていくのがええんですよ」

「今日は今日のライブをやるだけ。
好きに楽しんでください。それだけですわ」

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ライブでは必ずお酒の入ったコップをそばに置き、クイクイ飲んではダジャレを言って、まるでそこが自分の部屋であるかのようなリラックスの度合いで進めていく。ダラダラしゃべりが歌っている時間よりも長くなり、観客から「はよ歌えや!」の声が飛ぶのもいつものことだ。が、そんなペースでようやく歌われれば途端にグイっと引き込まれる。飲むほどに声の色気が増して、歌唱の深みも増していく。もうずっとそんな感じでやってきている気がするが、あのスタイルはいつごろできあがったのだろうか。

「憂歌団でもやっとったけどね。ひとりでツアーするようになって酒の量は増えたな。まずはクッと飲んでから始める。まあリラックスできるところもあるし。まずスローでチカラ抜いて英語の曲歌って、で、そっからグッと上げるのが好き。ツアーだと、初日はけっこう飲む。飲むとしんどいでしょ、カラダが。しんどいからええ具合に力が抜けんねん。で、そこからは自分の調子をみながら調整して。調整するの、嫌いなんやけど(笑)」

年間100を軽く超えるライブを毎年行い、現在65歳だがいまだその数が減る様子はない。木村にとって、ライブをすること、歌うことが、暮らしそのものなのだ。と、そう思いながらも訊(き)いてみた。

――木村さんにとって、ライブとは?

「まあ、生きてる時間ちゃうかな。で、なんのために生きてんのか言うたら、やっぱり楽しみたい。遊びたい。しんどい仕事があっても、そのあと遊べるなあ、楽しいことあるなあ思うたら、頑張れますやん。しんどいことばっかりやったらなんも意味ない。そら、しんどいこともありますよ。でも、そこをどう乗り越えるか。なんべんやってもあかんな思うたり、悔しいな、まだまだやな思うたりもするけど、それがあるから続けられんねん」

――「まだまだやなぁ」と思うこともあるんですね。

「ある。でもライブは一回一回やしな。昨日と同じライブはできへんし、今日は今日のライブをやるだけ。いやいややっててもしゃあない。だからゆっくり楽しんだろ思うて」

――そうやってもう(憂歌団のデビューから数えて)44~45年歌いつづけているわけですが。

「うん。でも、音楽やってるだけって気持ちはまったくないし、いろんな友だちおって、いろんな人がおって、“みんな、やっとるなぁ”って。そんな感じやからね。プロだけじゃなくてセミプロでもいい音楽やってるやつはいっぱいおるしな。で、そんな連中に“さすが、木村やのう”言われたら、ちょっとうれしい(笑)。そんでまた、ふっと楽しめるライブができたらええなあ」

――じゃあ、木村さんにとって、いいライブとはどういうものですか?

「みんながリラックスして好きなように楽しむライブちゃうかな。こうやって楽しまなあかんなんて、そんなもんはいらん。いつも言うけど、“ぼちぼちやりますんで、好きに楽しんでください”って。それだけですわ」

こうも訊いてみた。
――木村さんにとって、ブルースとはなんでしょう。

「ブルースって何かって言うたら、僕にとっては自然。大地に生きてることかな。上にあるものじゃなくて、大地。山の頂上じゃなくて、裾野にある。町の人のいろんな生活があって、なんとか生きて、なんとか食べて、楽しもうとする。いろいろ大変やけど、なんとか乗り越えてやろうやって。そんな感じのものかな」

――それがブルース。

「うん。“シカゴ・バウンド”(憂歌団の名ブルースで、今も歌いつづける代表曲のひとつ)の兄ちゃんはしんどいこと言うけど、そこで終わりじゃなくて、そこからまた上がる可能性がある。それがええねん」

――確かにあれはヘヴィな歌だけど、絶望だけの歌ではない。あれを20代のときから歌っていたというのもすごいですね。

「(日本語のブルースを追求した)尾関 真さんが書いた曲で、“仕事をやって 金をためて ピストル買うんだ”って、ドキッとするでしょ? ピストル買(こ)うてラクに死にたいいうことやからね。で、3番で神様に見放されて、好きな友だちも死んで、“ひとりで飲むしかねえ”っていう。20代のあのころは、“オレ、こんな生活できへんのに歌ってええんかな”って思った。ところが近所で大阪西成暴動があって。それで、“ああ、オレ、歌えるな”と思った。で、そこからまた何十年かたったら、自分のなかで解釈の仕方が変わってきた。“神様ってなんや。好きな人が亡くなったりするけど、大事なんは出会いで、いまを楽しむことや”と。“ああ、そういうことかぁ”と。だから、ほんまにしんどいときに、歌はものすごい力になる。そう思ってね」

――本当にそうですね。

「ほんまにしんどいとき、大変な時代に、すごい歌が生まれたりするんやね。ビリー・ホリデイの歌にしてもボブ・マーリーの歌にしてもそうで。悪いことは起きてほしくないけど、そういうもんねんな。でも、歌は押しつけたらあかん。押しつけは嫌や。押し入れは広いほうがええけどな。どぅはははは」

10月3日。お酒を飲みながら、そんなダジャレと心に染みる“ええ歌”を横浜で。

プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。Note(ノート) https://note.mu/junjunpaでライブ日記などを更新中。

公演情報
木村充揮
LIVE IN YOKOHAMA 〜横浜で吠える!〜

公演日/2019年10月3日(木)
Open 18:00 / showtime 19:30
会場/モーション・ブルー・ヨコハマ
料金/自由席5000円 BOX席20000円+シートチャージ5000円(税込)
その他詳細についてはこちら(http://www.motionblue.co.jp/artists/kimura_atsuki/

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