週末の過ごし方
パリの三つ星小林 圭氏×とらやの伝統が生んだ
革新的レストランMaison KEI
2021.02.09
とらやゆかりの地に、新しいレストランが誕生
1月末に、年初来最大の話題となるレストランがオープンした。その名も「Maison KEI」。そう、KEIとは、昨年パリでアジア人にして初めての三つ星を獲得し、今年もまた星を堅持した「Restaurant KEI」のオーナーシェフ小林 圭氏の、栄えあるKEI。
場所は御殿場。御殿場と聞いてぴんと思い当たるならば、相当な和菓子通に違いない。老舗「とらや」のゆかりの地なのだ。長年、富士の伏流水を用いて清らかな餡(あん)を作り続け、2007年には和菓子が作られる様子を見ながら、お菓子とお茶を楽しめる喫茶を備えた「とらや工房」を開設。その工房近くに、「Maison KEI」は造られた。
木材を駆使したゆったりとしたウェイティングスペースを抜けてダイニングに足を踏み入れると、一面ガラス張りの窓の向こうには富士山が裾野までの雄大な姿を見せる。夕刻なら、エレガントなシルエットが、ランチどきであれば端正な全景が目に焼きつく。また、ふり返れば、大きく取ったガラス窓からはキッチンが見渡せ、活気ある厨房の様子がじかに見られることも。これまた絶景である。
ある日のMaison KEIのコースの旋律はモダンにしてクラシック
幸運にもソフトオープン初日に訪れることができたので、そのようすを記そう。アミューズは正統派のグージェール、2皿めは、パリのスペシャリテである「庭園風季節のサラダ」。シーザーサラダにヒントを得たというそれは、さまざまな味わいのソースと近隣で採れた数十種類の野菜を、混ぜて味わう。温かな前菜はニョッキ。トロリとクリーミーで濃醇な味わいが口に広がる。
魚料理は、焼津の「サスエ前田魚店」の金目鯛のうろこをサクサクパリパリに焼いた一品。地元の素材を駆使する様子には、食材に旅をさせず、食材の命を大切にしている姿勢が見てとれる。主菜は、パンタード(ホロホロ鳥)のピティビエというパイ包み焼きだった。こうしたクラシックな皿をしのばせることで、安らぎを感じさせるのも計算しつくされてのことだろう。
デセールは、パリのKEIのスペシャリテであるバシュランが餡(あん)のソースをまとい、とらやとのコラボレーションが最後に姿を見せた。料理はその日手に入る素材で内容を変えていくことはいうまでもない。
パリでも東京でもできないことができるからと選んだ御殿場の地
なぜ、日本にレストランを出そうと思ったのですかと、小林氏に尋ねると「とらや18代当主の黒川光晴社長との出会いは2010年。Restaurant KEIの開業1年前です。その後も交流を深め、5~6年前から、御殿場でのレストランの構想がスタートしました。とらやにとってゆかりの深い地で、地域の活性に貢献できるということに、すごくやりがいを感じたからです」との答えに、本気の覚悟が感じられた。
室町時代後期からの500年にも及ぶ伝統と、気鋭の才能がぶつかり合い、スパークして、そこに何かが起こらないはずはない。Maison KEIがどんな大輪の花を咲かせていくのか、これからが楽しみでならない。
「Maison KEI」
住所/静岡県御殿場市東山527-1
営業時間/ランチ11:30~、ディナー17:30~
ランチコース3500円~(4皿)、6800円~(6皿)
ディナー4800円~(4皿)、7800円~(6皿)
問/0550-81-2231
プロフィル
小松宏子(こまつ・ひろこ)
フードジャーナリスト。料理研究家の家庭に生まれ、幼いころから料理に親しむ。雑誌や料理書の編集・執筆を通して、日本の食文化を伝え残すことがライフワーク。『茶懐石に学ぶ日日の料理』(後藤加寿子著・文化出版局)では仏グルマン料理本大賞「特別文化遺産賞」、第2回辻静雄食文化賞受賞。