週末の過ごし方

お江戸カルチャーを100年先もこの地で。
大手町の日本旅館「星のや東京」が挑むソーシャルグッドな試み。

2022.06.30

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社会によりよい取り組みを行うソーシャルグッドなホテルを、トラベルエディターの伊澤慶一が紹介。vol.1では“塔の日本旅館”をコンセプトとする「星のや東京」より、江戸の伝統と文化を伝え継ぐさまざまな取り組みをリポートする。

「星のや東京」を訪れる際は、あえて車やタクシーでの来館をおすすめしたい。大手町フィナンシャルシティの地下2階駐車場、無機質なコンクリートの一角で、ここだけ別世界を思わせる旅館の車寄せが見えてくる。草木染めの暖簾(のれん)の一番左に描かれているのは、徳川四天王の筆頭、酒井忠次の家紋。かつてこの場所に酒井家の上屋敷があったご縁に由来するという。由緒ある土地に立つ、進化した日本旅館。これから始まる非日常体験に向けて、この暖簾をくぐることで気分がいっそう高まっていくのを感じられることだろう。

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地下2階にある車寄せの暖簾。草木染めのなかでも「柿渋染め」と呼ばれ、独特の風合いを醸し出している。

1階に上がり、青森ヒバの木扉が開いた瞬間、私は早々に感嘆の声をあげてしまった。待ち受けていたのは、高さ5.5mもの玄関。といっても、これまで宿泊してきたどの日本旅館のものよりも繊細で美しい。左手には家具職人集団「ヒノキ工芸」による竹細工の靴箱、上を見上げれば格式を感じさせる格子天井、そして上がり框(かまち)の先には畳敷きの廊下が続いていた。ここから先、ゲストは靴を脱いで過ごすことになるのだが、「畳の感触を感じてほしいから」と、あえてスリッパは用意されていない。足裏からじかに伝わる畳の心地よさ……。これまでのホテルステイとは明らかに違う、心躍る体験が始まったことを実感した。

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    樹齢300年以上という青森ヒバの一枚板を使用した木扉。
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    廊下の奥では、二十四節気を表現した和の室礼がゲストを迎え入れる。

エレベーターが客室階に到着すると、電子音の代わりに「カッ、カッ」と拍子木が鳴った。歌舞伎の演目の始まりを連想させる、小粋な演出だ。現代版日本旅館として再構築された客室は、ソファやベッド、ダイニングテーブルといった快適性の高い家具と、竹素材のクローゼットや江戸小紋の矢羽根柄スタンドライトなどが和のインテリアが見事に調和し、落ち着きを感じさせる。また客室から畳続きで24時間行き来できる「お茶の間ラウンジ」は、使い勝手が極めて秀逸。こだわりのお茶や菓子を楽しめるだけでなく、読書やデスクワーク、双六(すごろく)といった江戸らしい遊びまで堪能でき、居心地のよさを飛躍的に高めてくれている。

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1フロア6室のみ。一番広い客室「菊」は83㎡、最大おとな3名まで宿泊が可能だ。
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    「開花堂」の茶筒や「及源」の鉄瓶など、お茶の間ラウンジには日本中から集められた名品が並ぶ。
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    最上階では地下1500mから湧き出た天然温泉が、内風呂と露天風呂で楽しめる。

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