週末の過ごし方
平安時代から受け継がれる京文化と美意識。
嵐峡の地で星のや京都が奏でるソーシャルグッドな催し。
2022.08.01
京文化の継承は、敷地内で通年体験できるアクティビティにも見て取れる。和室パブリックと呼ばれるスペースでは、香木の香りを聞く聞香入門を開催。京都の老舗香木店・山田松香木店より直々に指導を受けた星のや京都のスタッフが先生となり、貴重な香木をたいて、聞香のたしなみ方を教えてくれる。この日、聞香入門を担当してくれた宍戸さんは言う。「香道は古くから伝わる代表的な京文化のひとつですが、体験できる場所が限られてしまっています。五感のひとつ、嗅覚は旅の思い出としても残りやすい。京文化の体験を通じて、ここでの香り、滞在の記憶を脳に焼き付けて楽しんでいただけたら幸いです」
また夏の京都には、明け方に寺院で瞑想したあとに僧侶の法話を聞くという慣習があり、星のや京都はこれになぞらえ、夏季限定で「奥嵐山の暁天講座」というアクティビティを企画している。これは華道、禅、作庭、香道、和菓子など、京都に縁のある文化人を招き、講話を楽しんだのちに朝のすがすがしい空気の中でそうめんを味わうというもの。夏の暑さが厳しい京都だが、早朝の奥の庭は青モミジの葉が太陽を遮り、渓流からの涼しい風が届くため、心地よい時間を過ごせる。また講話の前には瞑想の時間も用意。京都人の風習にのっとって、心が整う感覚を味わってみてはいかがだろうか。
四季や二十四節気を何より大切にする京文化だが、星のや京都の会席料理「嵐峡の滋味」も負けていない。総料理長・高橋利治氏が供する料理は、目で、舌で、暦を感じることができ、まさに星のや京都の世界観と器の上でリンクしている。また伝統の中にも遊び心あるアクセント、という点でも星のやイズムが凝縮。例えば、縞鯵(しまあじ)と剣先烏賊(けんさきいか)の向附は塩麹レモンソースと、強肴(しいざかな)の鱧の焼き霜造りはキャビア醤油で味付けするなど、想像力をかき立てる組み合わせだが、食後は意外なほどに相性の良さを覚え、口に運ぶ楽しさはやむことがない。旬の食材も惜しみなく使い、「冬のフグ・夏のアコウ」と称される西の高級魚アコウ(標準和名はキジハタ)を椀物で提供。もっともうま味を感じる季節ものを、最高のタイミングで味わう。なんてぜいたくな夜なのだと思った。
そんな折、突然窓の外から龍笛の音色が聴こえてきた。これは7、8月の週末限定で無料で開催しているという雅楽の「水辺の夜奏会」。思わず箸を止めてしまうほどの身震い。京文化を伝え継ぐ数々のソーシャルグッドな取り組みは、時に鳥肌が立つくらい風情を感じさせてくれるものだった。平安貴族が愛した雅な嵐山を現代によみがえらせた旅館、星のや京都。そのあまりの再現度に、大堰川をさかのぼってきたあの舟は、やはり本当にタイムマシーンだったのではないだろうかと思いはじめていた。
星のや京都
京都府京都市西京区嵐山元録山町11-2
0570-073-066(星のや総合予約)
https://hoshinoya.com/kyoto/