週末の過ごし方

広大な牧場で開催の「ガーデンガストロノミー」で
価値の本質を知る

2022.08.08

広大な牧場で開催の「ガーデンガストロノミー」で<br>価値の本質を知る

ラグジュアリーである、という価値は多様化が進む社会の状況を反映するかのように、ここ数年で大きく変化している。かつては所有こそ富やぜいたくの証しであったが、現代においてそのような考えを持っていると、時代遅れだと思われるのではないだろうか。

シャンパーニュメゾン『ヴーヴ・クリコ』は、この夏、北海道で特別なイベントを開催した。その名は「Garden Gastronomy」(以下ガーデンガストロノミー)。ポロ競技見学やペタング、オーガニックファームでの収穫などの多様なアクティビティーと、ヴーヴ・クリコのプレステージ・レーベルである『ラ・グランダム』のペアリングディナーで構成されている。場所は緑が一面に広がる北海道ホームファーム。日本で初めてとなるポロクラブを擁することでも知られる牧場である。

ガーデンガストロミーの発端はメゾンの歴史的背景に起因している。メゾンの母とも言えるマダム・クリコの夫君、フィリップ・クリコは生前シャトー前の畑を所得した。その後、未亡人となったマダム・クリコはそれを受け継ぎながらさらに拡張させ、野菜などを育てていた。現在もその畑はヴィルジニーにて継承されており、ヴーヴ・クリコというメゾンを語るうえで大切なストーリーのひとつとなっている。

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シャンパーニュのメゾンでありながら、料理の食材となる野菜も長くにわたり栽培、常に料理とのベストマッチングを研究しているメゾン。そんなメゾンの世界観を体験できる機会として、満を持してスタートしたのがこのガーデンガストロミーなのだ。

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本場・ヴィルジニーでの2021年の開催を経て、このたび日本で初めて開催されることになったが、今回のディナーで腕を振るったのは和歌山にある『ヴィラアイーダ』の小林寛司オーナーシェフである。自身もレストランからほど近い場所に畑を所有し、自ら約130種類の野菜を育て全国から訪れるゲストに魅力的な料理を振る舞っている。まさに“ガーデンガストロミー”を体現する料理人である。

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アミューズから前菜、メインとすべて北海道の食材を使ったコースは、「北海道風味」と名付けられ、テロワ(大地)の恵みの結晶とも言えるパワフルな野菜を中心に据えた料理が、シャンパーニュ ラ・グランダムと共にテーブルに現れ、ゲストの目と舌を喜ばせた。

白眉はペアリングのなかでも、最も熟成度の深い1990年ヴィンテージのマグナムに合わせた「アスパラガスと菜園野菜のアッサンブラージュ」のひと皿である。個性の強い馥郁(ふくいく)とした香りのシャンパーニュのために、小林シェフはあえて野菜のみで構成された料理を提供。これは自身も畑で野菜を栽培する料理人である彼が、この北海道のファーム内にある菜園で生まれた野菜たちのポテンシャルこそが、三十余年を経てグラスに注がれる、メゾンの厚みを体現したような豊かなシャンパーニュにふさわしいという答えともとれる。まさに、ガーデンガストロミーを象徴するようなペアリングであっただろう。

メゾンの歴史的背景に端を発し、繰り広げられたこのたびのイベント。ここにはガーデンガストロミーとはなんであるか、という世界観の表現はもちろんのこと、さらには未来に向けたメゾンからのメッセージが込められていたのではないだろうか。

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開放感あふれるアクティビティーと菜園=ガーデン体験の後、珠玉の料理を味わうディナーは、私たちにこの美しいシャンパーニュという飲み物もまた、土地そして生産者、さらには上質なぶどうと切っても切れない存在であることを想起させることとなった。ラグジュアリーな飲み物の象徴として、パーティーをはじめとした数々の華やかなシーンで飲まれるシャンパーニュ。

一方で、メゾンは高い質を保つという使命も引き受けている。昨今ますます深刻になる気候変動により良質なぶどうの確保はどんどん困難となるなかでも、生産量を確保しなくてはいけないというジレンマも併せ持っている。ラ・グランダム(偉大なる女性)と呼ばれたマダム・クリコによって飛翔したシャンパーニュメゾンのヴーヴ・クリコは、この目の前に立ちはだかる難題にメゾンとして対峙しながら、自然の恵みがいかに価値あるものなのかというメッセージを発信したのではないだろうか。この「ガーデンガストロミー」という洗練されたしゃれ心あふれる手段を使って……。

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かつて所有こそが富の証しと思われていた。しかし今、社会においての役割を無視した所有や行動は、どんなに多くのものを獲得したとしても、価値あるものとみなされなくなってきている。地球環境を無視した、エゴによる所有はそれがどれほどの量と質であっても、ラグジュアリーとは言えない。さらには世界が取り組むべき課題ときちんと向き合い、それを発信することには、所有とは違った価値があるとみなされているのも事実である。

ヴーヴ・クリコが発信する『ガーデンガストロミー』。心地よさと美味なる体験を併せ持つメゾンの新しいイベントは、そんな価値のひとつの理想形を表現したものでもあるだろう。

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