週末の過ごし方

20周年を迎えたワールドベストレストラン
1位の栄冠を手にしたレストランとは?

2022.08.10

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ジャーナリスト、フーディーズ、レストラン関係者など、世界で1000人以上の食のプロで構成された評議員の投票によって、世界のベストレストランが決められる、ランキングアワード「The World’s Best 50 Restaurants 」(以下、ワールドベスト50)。去る、7月18日、その華やかなアワードが、ロンドンのヒストリカルなビルディング、オールドビリングスゲートで行われた。2002年に始まったその大会は、今年で節目の20年目を迎える。その間にガストロノミー界の潮流を決めるほどにまで力を持ち、今やミシュランと人気を二分するまでになった。さて、今年は、5大陸24か国から50店舗のレストランが選ばれた。どんな新しい潮流が生まれたであろうか。

1位の栄冠はデンマーク「ゲラニウム」の頭上に輝く。

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「ゲラニウム」のメンバー

まず、誰しもの興味は今年の世界一のレストランはどこであるかということだろう。本アワードには、1位をとると、ベスト オブ ザ ベスト賞として殿堂入りし、ランキングからはずれるというルールがある。昨年は前回2位の「noma」がスライドして1位になったが、はたして今年も2位のゲラニウムが1位になるか。しかし、そこには強敵も多い、3位には、薪火の魔術師と言われ、世界中の料理界に影響を与えたスペインの「アサドール・エチェバリ」がいる。また4位には、この10年ほど5位前後を死守し続け、南米の勢いとクオリティを牽引してきた、ペルー「セントラル」が鎮座し、本命と言ってもおかしくないほどだ。

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シェフのラスムス・コフォード氏

果たして、軍配は「ゲラニウム」に上がり、2位に「セントラル」が肉薄した。実は、シェフのラスムス・コフォード氏は、料理の技能オリンピックと言われる「ボキューズ・ドール」においても、金・銀・銅を受賞した、これまでにない実力者で、自国の三ツ星の上に、今回のNO.1を重ね、真の勝者となったといっても、過言ではない。また、本人はほぼベジタリアンで、昨年より肉料理は出さないという方向性を打ち出すなど、時代のニーズを先取りしているともいえ、そうした店舗の受賞は大きな意義があるといえよう。

日本勢は4店の入賞で世界に実力を示す

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日本チームの面々。中心が「傳」の長谷川氏。左後方が成澤氏

トップバッターは、「傳」の20位だ。インバウンドの激減により、昨年の11位からは順位を落としているが、これまで、タイ、シンガポール、香港に阻まれてきた「The Best Restaurant in Asia」に輝いたことがなんといっても、日本勢としては喜ばしいことだ。シェフの長谷川在佑氏は言う。

「順位のことは気にしていません。それより、アジアNO.1はやはりうれしいですね。また、久しぶりに世界のシェフたちに会えたこと、これが、何より励みになりました。ワールドベスト50は一年に一度のご褒美みたいなものですから」

逆に2019年に初ランクインし、昨年の39位から30位にランクアップした「フロリレージュ」の躍進も見逃せない。インバウンドが減った中でのジャンプアップは、いかに日本の評議員が票を入れたかということでもあり、広く慕われている店であることがよくわかる。そしてもうひとつ、日本人にとっては大阪の「ラシーム」の初ランクインという嬉しいニュースがとびこんできた。しかも堂々の41位である。

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シェフの高田裕介氏は「実際に海外のシェフたちに会い、すごく刺激を受けました。自分自身まだまだ進化していかなければいけないと強く思いました」と決意を新たにした。「NARISAWA」はやはりインバウンドの激減から今回順位を45位に落としているが、2009年に初ランクインしてから、13年に及び、世界の50位を死守しているということは、大変な賞賛に値する。今回の日本の、一か国で4店の入賞は、スペインの6店、イタリアの6店に続く多勢入賞国で、日本の美食大国としての面目を躍如したといえる。

ニューノルディックの定着と進化

そのほかのランキングで、目立ったトピックスをいくつか挙げていこう。まずはデンマークの強さについてだ。ベスト オブ ザ ベストの殿堂入りのシステムができてからは、2年連続で同一国が優勝したことはないが、今回は2年連続のコペンハーゲン。そしてさらに18位に「アルケミスト」、38位に「ジョードナー」と新しい店までもがランクインしてきている。

OAD トップレストランレビューアーランキング1位の浜田岳文氏(アクセス・オール・エリア代表取締役)は言う。「特に、アルケミストは五感を駆使して料理を食べさせる、これまでにない新しい店で、今後のNO.1になれるだけの資質を充分に持っています」と。そして、このデンマークの強さの要因は、やはり、「noma」の存在だが大きいという。北欧でしか食べられない料理の価値を確立し、レベルの高いフーディを集めることに成功し、客とレストランが一緒になってブラッシュアップしていった結果だというのだ。手法も、時代も違うとはいえ、アワードの始まった20年前の「エルブリ」と、スペインの急速なガストロノミー化現象を思いおこさせるではないか。

変わらぬスペインの強さとイタリアの隆盛

今回の最多ランクイン国の二つは、スペインとイタリア。ただ、この二つの国の強さの成り立ちはずいぶんと違うように感じる。

そもそもスペインは、20年前の第一回目の優勝店がモラキュラ(分子)料理で一斉を風靡した「エルブリ」であったことを鑑みると、以来、イノベーティヴなスペイン料理がどれだけ多くのスターシェフを輩出してきたかということを考えても、いまだトップを走りつづけていることは容易に理解できる。実際、今回も10位以内に、3位が、エルブリの遺伝子を受け継ぐバルセロナ「ディスフルタール」、4位に20位から順位を上げた、マドリッドのクリエイティビティに富んだ「ディベルソ」、6位にビルバオ郊外の「アサドール エチェバリ」がずらりと並んでいることを見ただけでも、そのレベルの高さと、ワールド50ベストというアワードとの相性のよさを感じる。

それに比べると、これまで比較的保守的であったイタリアが、これだけランクイン店を多く出したということは、新たな潮流と解釈できよう。しかも、ミラノやローマどの都市ではない、日本人にはあまり名も知れぬ、小さな町からその流れがおこっている。新店としての入店は12位「ウリアッシ」と29位「サント・ウベルトゥス」の2店舗。前述の浜田氏は、ウリアッシに関して「アドリア海沿岸の伝統を革新に変えた料理を出すとてもいい店で、ランクインが遅すぎたくらいです。コロナ禍で海外に行くこともままならず、自国を深堀りすることで、浮上してきた名店のひとつの例だと思います」と言う。もともと地方都市国家の集合体であった国、イタリアだから、地方にいい店が分散しているのだろう。また、今回、新店が入っただけでなく、ルバーノの「カランドレ」が27位⇒10位に、カステル・ディ・サングロの「レアレ」が29位⇒15位に順位を上げるなど、自国または近隣諸国の評議員から、大幅な見直しがあったと推測される。

印象的な南米勢力の強さとアジアの落ち込み

もう一方、がぜん強さを世界にイメージづけているのが、中南米勢だ。2位のセントラルは、それを牽引している店の代表格であるが、日系料理を標榜する「maido」も11位。常に10位前後をキープしていると、その認知度の高さには驚かされる。ペルーではほかに32位に「マイタ」が新ランクイン。ブラジルはサンパウロの「カーサ デ ポルコ」を7位と10位以内に送り込んだほか、リオデジャネイロから「オテーク」が47位の新店に入っている。ほかに、チリ、アルゼンチン、コロンビアと、計8店舗のランクインだ。実は、メキシコは北米エリアに属するため、この中には数えられていない。5位に「プジョル」、9位に「キントル」と、10位以内に2店舗が入っていることにまず驚かされるが、メキシコを数えると、計10店舗、つまり、全体の1/5を中南米勢が占めることになり、これもワールドベスト50の大きな特徴と言えるだろう。

逆にアジアはシンガポールの「オデット」が8位⇒36位、香港のチェアマンが10位⇒24位とランクを落とし、新ランクインは、大阪の「ラシーム」以外では、39位のバンコクの「ソーン」だけである

しかし前述の浜田氏は、これらの結果はすべて、コロナ禍による行動制限が強くかかった国と、あまりかからなかった国との違いが大きく影響してのことであって、ランキングそのものはイレギュラーバージョンだと言う。世界のなかでもアジア、南米は特に、海外へ簡単に行ける状況ではなかったため、通常なら、自国に6票、他国に4票の投票を、全票自国に投票してもよいというルール改正があり、それを適用して、全票を自国に投票するという現象がおこったと推測される。それが、これまでリスト上に上がってこなかった、主に自国民のみが知る名店が引き上げられて、新店として入店したり、海外に流れていた票が、国内に戻って集まったのだという。逆にアジアでは海外票が減ると同時に、国内での票が割れるという現象もおきたのかもしれないとも。経済活動が完全に戻れば、アジアの票は復活するであろうし、逆に南米やイタリアに関しては深堀が続くかもしれない。いずれにしても来年以降のランキングとのすり合わせがまた楽しみであると言う。

獺祭が華々しく国際スポンサーに

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日本にとってのもう一つ大きなニュースといえば、国際スポンサーに旭酒造「獺祭」が参加したことだ。これまで、メインスポンサーのサンペリグリノ、アクアパンナをはじめ、世界的な、飲料・食品メーカーが参加しているアワードであったのに、日本からは食の大国と言われながらも、参加するスポンサーがなく、ブースやロゴを会場で目にできないことがずいぶんと寂しかった。自国の食のレベルの高さを訴えるのであれば、国際スポンサーが絶対必要であろうと、参加するたびに感じていた身としては、真っ白なブースに輝く獺祭の文字、そして、アワードを前に、獺祭のグラスを傾け、語らい、ハグし合うシェフやメディアの人々を見るにつけ、誇らしい気がしたものだ。

こうしたことも含め、20年の節目を迎えたワールドベスト50の中で、日本は大きな進歩を見せたと言えるのではないだろうか。

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