週末の過ごし方

衝撃の西郷真央「+35」
“ゴルフの怖さ”を知る選手たちは、オフも練習の日々。

2022.12.09

衝撃の西郷真央「+35」<br>“ゴルフの怖さ”を知る選手たちは、オフも練習の日々。
写真:日刊スポーツ/アフロ

国内女子ゴルフツアーの2022年シーズンが、11月のJLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップをもって終了した。2001年度生まれの山下美夢有が、史上最年少の21歳103日で年間女王に輝き、この試合でも優勝を飾った。一方で、今季の序盤に出場10試合5勝と独走していた同学年の西郷真央は、通算35オーバーで最下位の40位。翌週に開催された来季に向けたツアー最終予選会(QT)では、ツアー優勝経験者たちが厳しい現実を突きつけられた。トップ選手でも、いつどうなるかわからないのがゴルフ。その難しさ、怖さを受け止めながら、選手たちは「オフ」という名の練習期間に入る。

11月27日の宮崎CC。そこには、目を疑う表示があった。「西郷真央+35」。ツアー最終戦JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップに出場した40人のうち、39位の尾関彩美悠に24打差で最下位。予選落ちのない大会で、西郷の苦しみがスコアに示された。

原因は「第1打の恐怖」。約2カ月前の日本女子オープンで、ドライバーショットが思うような球筋で飛ばせなくなり、試行錯誤していた。復調した時期もあったが、最終戦ではドライバーの代わりに持った3番ウッドでもショットが荒れ、得意のアイアンショットにも影響が出たという。

今季の西郷は、開幕戦のダイキンオーキッドレディスでツアー初優勝を飾り、5月のブリヂストンレディスまで出場10試合で5度優勝。メルセデス・ランキングのポイント、獲得賞金額ともに独走していた。真っすぐで飛距離のあるドライバーショット、自在に操れるアイアンショット、巧みなアプローチとパット。コースマネジメント力の高さも他を圧倒していた。文字どおり無敵だったが、数カ月で「スコアにならない状態」になってしまった。

スイングやパットの感覚は、唐突に失われることがある。賞金王争いもしたことがある男子選手は、「試合でショートホールのティーショットを打とうとしたら、ダウンスイングの途中で急に固まったんです。どうやってクラブを降ろしていいのかわからなくなってしまって」と話した。こうしたことを機に、イップス(スポーツの動作に支障をきたし、自分の思いどおりのプレーができなくなる運動障害)の状態になり、長期間のスランプを強いられることにもなる。最も多い要因はスイング改造の失敗。「もっと飛ばしたい」「一切、曲がらないボールを」と理想のスイングを追い求めていくなかで混乱をきたし、打球が意思に反して左右にブレていく。宮里 藍も米女子ツアー本格参戦2年目でドライバーイップスにかかっているが、本人は「『もっと飛ばしたい』と思って、スイングを変えたことが失敗だった」と公言している。

ゴルファーが思うようなプレーができなくなると、賞金が稼げなくなり、試合出場の権利を失うことになる。国内女子ツアーのシード権(年間優先出場権)は、メルセデス・ランキング上位50人が手にし、51~55位までは「準シード」と呼ばれるツアー前半の出場権が得られる。その競争は年々激しくなり、1度や2度試合でトップ10に入っただけでは、ランク56位以下に。押し出された選手たちは、QTに回る。今年11月29日~12月2日に行われた最終QTには、シード権を失った選手たちも出場。上位40人前後が来季の前半戦出場が見込まれる条件で、ツアー4勝の若林舞衣子が1位、2勝の柏原明日架が19位に入ったものの、5勝の比嘉真美子は82位、23勝の李 知姫は63位。未勝利のシード選手だった山路 晶、大西 葵、ユン・チェヨン、臼井麗香も下位に終わった。

優勝経験者もシード権喪失、QT失敗で「時間をかけて…」

彼女たちは来季、下部のステップ・アップ・ツアーを主戦場にするか、年間8試合に制限されるツアーの主催者推薦出場枠を前半戦に詰め込み、獲得したポイント数で入れ替わる7月のリランキングで後半戦出場につなげるかを選択することになる。ベテランの思いは複雑で、20年間シードを守ってきた43歳の李は「出られる試合は出たいです。ステップ・アップ・ツアーはあまり考えていませんが、まずは体をゆっくり休めてオフに考えていきたい」。比嘉も「ゆっくり時間をかけて今の状況を受け止めたい」と話している。

比嘉は2015年にスランプを経験するも、翌16年には復活。19年には全米女子オープンで優勝争いを演じた。だが、今季は33試合に出場して予選通過は2試合にとどまり、メルセデス・ランキングは142位に低迷した。

「いいプレーができなかったので、そういう形(シード落ち)になってしまいました。逃げたいときもあったのですが、QT4日間を悪いながらも、自分と向き合ってプレーできました。その辺は(自分を)評価してあげてもいいのかなと思います」

華やかに見える世界で、選手たちは「いつ、どうなるかわからない」という思いを抱えている。試合期間中も思いついたことがあると夜間に車を走らせ、ゴルフ練習場でクラブを振る選手もいる。オフ期間は約3カ月だが、ほぼ休みなしで練習をする選手も数多くいる。シーズン中に感じた課題に取り組み、1月中旬ごろからはトレーニング、打ち込み、ラウンドの合宿に入る。それでも、「今季もやっていけるのだろうか」と不安を抱えて開幕戦に臨む。ウイニングパットを決めた瞬間、あふれる涙の理由はそこにある。

>>12年目で開花の岸部桃子は“稼げないプロ”の希望、東日本大震災で自宅全壊「ゴルフができることに感謝」。

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