週末の過ごし方
2.5次元ミュージカル、拡張する熱狂。
2023.05.19

日本のマンガやアニメが世界的な人気を誇る文化であることは言わずもがな、昨今はそこに「2.5次元ミュージカル」という新ジャンルが加わり、話題を呼んでいる。国内外に拡張する、その熱狂の正体とは──?
「熱狂」を示す5つのキーワード
■年間総動員数 233万人
統計を開始した2000年には26万人。協会が運営する無料のメルマガ会員組織「2.5フレンズ」の会員数は今や20万人超に。
■市場規模 239億円
協会発足前年の2013年以降、上演作品数とともに拡大を続けている市場規模。コロナ禍前の2019年と比較しても13.5%増。
■年間上演作品数 172作品
協会発足前年の2013年は88タイトルだったが、発足後は103タイトルに。タイトル数を増やすことで、客層も拡大。
■世界へ発信 37カ国
有料配信でのチケット購入実績のある国は37カ国。今後さらにアウトバウンド、インバウンドでの市場拡大が期待される。
■2.5次元ミュージカル専用劇場
2019年7月、2.5次元ミュージカル専用劇場としてオープン。コラボメニューを販売するカフェも併設。

兵庫県神戸市中央区北野町1 コトノハコ神戸2F
https://aiia-theater.com/


「2.5次元ミュージカル」とは、日本で生まれた2次元のマンガ・アニメ・ゲームを原作とする3次元舞台コンテンツの総称。舞台は生モノのコンテンツだ。公演日数も劇場も限られ、映画のように全国一斉公開、ヒットすれば拡大公開というわけにはいかない。にもかかわらず、その熱狂ぶりは右肩上がりの数字を見ても明らかで、2021年の年間総動員数は233万人、市場規模は239億円に達している。2014年3月、2.5次元ミュージカルをひとつのジャンルとして確立するため発足した「日本2.5次元ミュージカル協会」によると、協会発足当時は20代〜30代の女性が主な観客層を占めていたが、連載中の人気マンガや、過去の名作を舞台化することで作品に多様性が生まれ、原作ファンの10代や40代など、男女問わず新しい客層に広がっていったという。
2020年のコロナ禍で一時は遠のいた客足が戻るのも早かった。以前より配信やライブビューイングに積極的に取り組んでいたことに加え、さまざまなコンテンツに触れる機会が増え〝推し活〞の言葉が浸透したように「好きなものにお金を使いたい」という機運とマッチしたことも要因のひとつ。また、海外向けの有料配信チケットが37カ国で購入された。
2次元のマンガ・アニメ・ゲームを3次元の舞台に変換して生まれる〝2.5次元〞という独自の表現は、新しいジャパンカルチャーとして今、世界が注目している。
「熱狂」に触れる、受け継がれるロングラン作品

Ⓒ許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会
2000年代までは上演タイトル数こそ少なかったものの、原作の世界観の高い再現率や演出により、徐々に市場を拡大してきた「2.5次元ミュージカル(歌のない舞台も含む)」。原作ファンのみならず、その高いエンターテインメント性から多くの観客を獲得し、新たな文化を生み出した。近年では『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などのヒット作が次々と舞台化され、作品の幅も広がっている。
「2.5次元ミュージカル」の市場拡大の過程を紐解くなかで欠かせない要素が革新的な演出だ。舞台という限られた空間で、原作の世界観を表現するために、さまざまな試行錯誤が行われている。「2.5次元ミュージカル」の名を世に広めたミュージカル『テニスの王子様』は、2003年の初演以降現在もキャストを替えてバトンを引き継いでいるロングヒットシリーズだ。テニスネットとベンチというシンプルな空間に、照明と音だけでテニスの球を表現する技法に驚かされる。歌やダンスを交え、ショーのように展開する試合は、原作のコマの外側まで描かれ、試合のすみずみまで目で楽しむことができる。

Ⓒ渡辺航(秋田書店)2008/舞台『弱虫ペダル』製作委員会
2012年よりロングランで愛されている舞台『弱虫ペダル』の原作は、自転車競技をテーマにしたスポーツマンガ。にもかかわらず、〝劇中に自転車が登場しない〞ことで話題を呼んだ。ハンドルだけを握りしめたキャストが、肉体を使って自転車に乗る姿を表現する「パズルライドシステム」と呼ばれる独自の手法には、〝体で感情を表現する〞という舞台の原点ともいえる魅力が詰まっている。

Ⓒ古舘春一/集英社・ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」製作委員会

Ⓒ岸本斉史 スコット/集英社
Ⓒライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」製作委員会2022
高校バレーボールを描いたハイパープロジェクション演劇『ハイキュー‼』では、プロジェクションマッピングを存分に生かした演出が採り入れられている。原作の画やセリフが舞台に浮かび上がり、まるでマンガのコマが目の前で動いているかのようなシンクロ率の高さを味わえる。
さらに、さまざまな技術とギミックを融合させた舞台がライブ・スペクタクル「NARUTO ─ナルト─」だ。主人公・うずまきナルトの忍術が映像と肉体で見事に表現されており、バトルシーンも大迫力。国内だけでなく、中国6都市やマカオ、マレーシア、シンガポールなどでも上演され、海外からの人気も根強い。
そして、ファンの熱量の高さを語るには、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズは欠かせない。名だたる刀剣が戦士の姿となった刀剣男士を収集・育成・強化するPCブラウザ・スマホアプリゲーム「刀剣乱舞ONLINE」(DMM GAMES/NITRO PLUS)を原案にした作品で、刀剣男士たちが歴史改変をもくろむ敵に立ち向かう姿を描く。2016年には広島県の嚴島神社世界遺産登録20周年を記念した奉納行事としてミュージカル『刀剣乱舞』の特別公演が行われ、2018年に「第69回NHK紅白歌合戦」へ出場するなど舞台を超えた広がりを見せる。
原作の世界観を目の前で味わうことができ、その世界へ没入できる「2・5次元ミュージカル」。そんな新しい舞台体験で、“原作の向こう側”に触れてみよう。

ⒸNITRO PLUS・EXNOA LLC/ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
Edit: Nanae Konishi
Text: Yo Kobayashi, Nanae Konishi