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『レモニー・スニケットの世にも不幸なできごと』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #53

2023.08.03

『レモニー・スニケットの世にも不幸なできごと』<br>いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #53

「見てはいけない……やめときな……見たら一日気が滅入るだけ、どれも不幸な話ばかり……」

『レモニー・スニケットの世にも不幸なできごと』は、レモニー・スニケットとして知られるダニエル・ハントラー作の児童小説が原作。この小説は、世界累計7000万部以上も売り上げた人気シリーズで、2004年にはジム・キャリー主演で映画化もされている。

Netflixのドラマシリーズでは、『アダムス・ファミリー』や『メン・イン・ブラック』で監督、コーエン兄弟作品では撮影監督を務め、独自の空間を作り出し評価されたバリー・ソネンフェルドがメガフォンをとる。

まずは、ストーリーテラーであるレモニー・スニケットから「ハッピーエンドを望むなら、見ないほうがいい」「別の番組を見たほうがいい」と説得される。タイトルの“最悪のはじまり”とはまさにこのこと。ボードレール家のヴァイオレット、クラウス、サニーの三姉弟妹の不幸の物語が始まる。

ヴァイオレットは14歳とは思えないほど賢く、大人顔負けの発明家だ。髪を結べばとたんに発明スイッチが入り、解決するまで決して諦めず、努力家。クラウスもまた、姉と同様賢く、少し怖がりな一面もあるが、本をこよなく愛し、著名人の名言にも詳しい。末っ子のサニーは、まだ赤ん坊だ。しかしながら4本の鋭い歯で石でも鉄でもなんでもかみ砕いてしまう。話すことはできないが、ヴァイオレットとクラウスとは通じている。

三姉弟妹は「子どもたちだけで外出してきなさい」と両親に言われ、ビーチに実験をしに行っている間に、不幸にも火事により家はすべて焼け落ち、両親を亡くしてしまった。

両親は膨大な遺産を残したが、ヴァイオレットが成人になるまで受け取れないため、三姉弟妹は後見人のもとで暮らすことになった。その後見人であるオラフ伯爵の存在が、“最悪のはじまり”だった……。

三姉弟妹に降りかかる災難は、どうしても遺産を手に入れたいオラフ伯爵をはじめ、さまざまなわからずやな大人たちによって生み出される。ゆく先々にオラフは現れ、よくもまぁこんなにすらすらと嘘をつけるものだと感心してしまうほど、人や町までも巻き込んで悪事を働いてゆく。

次々と親戚にたらいまわしにされる三姉弟妹だが、ゆく先々の後見人たちのクセがまあ強いこと! 両親が遺した秘密、三姉弟妹を見守る謎の二人組、さらわれた友人……。三姉弟妹の災難に立ち向かい、成長してゆく姿を応援しながら(サニーはやがて歩けるように!)、謎解きも楽しめる。

本作の魅力は、なんといっても哲学的で、それでいて言葉遊びも楽しめるセリフの数々。テンポよく進むなかに名作からの引用がちりばめられていて、作品に深みを増している。

そしてなんといっても最高にポップでおしゃれな小道具、インテリア、衣装の数々。コントラストが一貫して低いなかに、カラフルな色使いが個性的で、唯一無二感を出している。これは……!と誰が見ても元ネタがわかるような仕込みも多数あり、大人たちはまた違った楽しみ方ができてしまうのだ。

物語に欠かせない最低な悪役オラフを演じたのは、映画『ゴーン・ガール』やNetflixオリジナル『シングル・アゲイン』で知られるニール・パトリック・ハリス。さまざまな変装をして、違う人間になりきり人を騙してゆく姿が、悪役ながらも魅力的で、作品のコミカルさの一役を担っている。

はたして三姉弟妹は幸せな家庭にたどり着くことはできるのだろうか――。見るなと言われても見てほしい、名作です!

『レモニー・スニケットの世にも不幸なできごと』は、Netflixにてシーズン1~3まで配信中(完結済み)。

<<過去の「いま観るべき、おしゃれな海外ドラマ」はこちら

Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo

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