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『浮気なママル』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #57

2023.09.28

『浮気なママル』<br>いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #57

地球上に存在する80億人のなかから、たった1人の運命の相手を見つけたその先は? 誓いを忠実に守り通せるのか? 所詮は人間も哺乳動物(ママル)なのに。<Amazon Prime Videoより引用>

「結婚」とは? 誰もが一度はその意味について考えたことがあるだろう。

イメージとしては、愛し合い、互いに尊重し、一生を共にする相手と婚姻関係を結ぶというもの。もちろん所詮は他人、愛だけではどうにもならないこともある。生活していくうえで我慢や忍耐といったものは必要だ。

しかしそれ以上に共に喜びを感じたり、悲しみを一緒に乗り越えられたり、支え合ったりしていける人がいるという安心感は、なにものにも代えがたいものなはず。もし、一生共にすると愛を誓った相手が、浮気をしていると知ってしまったら……あなたならどうする?

ジェイミーとアマンディーヌは、とても幸せな日々を過ごしていた。

ジェイミーは、自分のレストランを持つという夢をかなえ、もうすぐオープンを控えている。そんなふたりが幸せな休暇を過ごしてたところ、妊娠しているアマンディーヌの体調が急変し、不幸が起こってしまった。

絶望とパニックのなか、お互いの家族に報告しなければ……と、アマンディーヌの代わりに彼女のスマホで家族に連絡をしていたジェイミーは、見てはいけないものを見てしまった。信じていたのに! こんなことって! 悲しみに打ちひしがれたジェイミーは、数々の驚きの行動に出てしまう。

タイトルを見る限りでは、この作品が浮気者の物語だと思う人が大半だろう。もちろんそれは主軸にはあるが、しかし、そんな単純な話ではない。数々の伏線を秘めたハイセンスな構成の脚本、それでいてイギリスらしいブラックユーモアが絶えず楽しめて、コミカルでテンポよく進み、各話30分全6話とミニマムサイズながらも、開いた口が塞がらなくなるようなオチまでつけられた最高におしゃれなドラマなのだ。

作中で何かを示唆するようにハーマン・メルヴィルの『白鯨』が登場するのだが、思わず「なるほど!」と声を上げてしまうほど物語と密接な関係がある。しかし、例え『白鯨』を読んでいたとしても、どう関係していたかを察するのは、物語の終盤。それに気づいたとき、まさにウィットに富んだ作品だ!と拍手を送りたくなるに違いない。

人間は所詮「哺乳類」であり、生涯ひとりを愛しつづけるのは可能なのか?という、実験的な問題提起と、哺乳類であるクジラとかけてメルヴィルの『白鯨』を物語のヒントとして組み込んでくるセンスの良さは、さすが受賞歴もある脚本家ジェズ・バターワース。近年では『インディージョーンズと運命のダイヤル』の脚本にも参加している。

ジェイミーとアマンディーヌのほかに、ジェイミーの姉夫婦にも注目。姉のルーは夫が話していてもうわの空で、ずーっと空想の世界にいる。それはまるで頓珍漢な描写にも見えるが、例え愛する人がいようとも、人は誰でもパートナー以外の人との情事を想像くらいするということを伝えたいのではないだろうか。ルーがココ・シャネルの伝記を読みながら、想像の世界に入り込んでしまうシーンは、美術・衣装に、彼女へのリスペクトが感じられ、素晴らしいので必見だ。

『白鯨』と聞くと構えてしまうかもしれないが、コミカルにテンポよく全話3時間で観られてしまうので、休日にくつろぎながらでも、ちょっとお酒をたしなみながらでも、気軽に観たい作品。

トム・ジョーンズが、トム・ジョーンズ役で、しかもあんな感じで出てくるなんて、センスが良いとしか言いようがないでしょう?

『浮気なママル』はAmazon Prime Videoにて、全6話配信中。

<<過去の「いま観るべき、おしゃれな海外ドラマ」はこちら

Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo

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