週末の過ごし方
『汚れなき子』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #58
2023.10.12
身体の中心からじわじわと震えるような、得体の知れない恐怖が複雑に押し寄せてくるような、そんな新感覚のスリラードラマがドイツから届いた。
9月7日に配信がスタートし、すぐさま世界各国で視聴ランキングにランクイン。ミステリーの要素が作品にうまく取り入れられており、謎が謎を呼び、視聴者をたびたび混乱させてくれるものだから、真実をただただ知りたいという一心で、一気見してしまったという人が続出。本当の恐怖は、物語のエンディングから始まる――。
最低限の家具だけそろえられ、窓はなく、生活感がまるで感じられない厳重に施錠された部屋で、レナと2人の子どもたちは暮らしていた。ここでの生活には、守らなければならないルールがある。決まった時間に起床し、決まった時間にトイレを済ませ、決まった時間に食事をし、決まった時間に就寝する。“彼”が帰ってきたら一列に並び、手のひらと手の甲を見せ、忠誠心を示さなければならない。もしもルールを破ろうものなら、厳しい罰が待っている。“彼”をパパと呼ぶ子どもたちは、なんの疑いもなく、それが普通かのように生活している。
しかし、レナだけは“彼”に対してどうやらおびえているようだ。そう、彼女はここに望んでいるわけではなく、捕らわれているのだ。いつでも隙あらば逃げ出そうとしていたレナは、ついに脱走に成功。しかし森を抜け道路に出た瞬間、交通事故に遭ってしまった。
そこで、13年前に娘が行方不明になっていた夫婦のもとに一報が入った。レナが見つかったかもしれない!と急いで病院に向かったところ、同じ名前ではあるものの、再会を待ちわびていた娘レナではなかった。しかし、レナと一緒に搬送されてきた女の子ハンナは、娘の小さいころにそっくり……。何がいったいどうなっている? 監禁事件を調べていくうちに、13年前の失踪事件の真実が次第に明らかになってゆく。
物語は、さまざまな登場人物の視点で描かれ、多くを語らない。それゆえに視聴者は疑心暗鬼になり、「もしかしてこの人は悪なのでは?」と興味が尽きることなく物語が進んでゆく。キャラクターの心理を読み取り、犯人探しをする楽しさと、監禁によって心を支配されてしまった女性のその後の恐怖と、淡々と進むなかにさまざまな感情が入り乱れ、混乱が尽きない。
絶対的な悪は、レナと子どもたちを支配してきた犯人のはずなのに、外の世界を知らない少女ハンナにとっては大切な存在。マインドコントロールから早く解き放たれてほしいと願うわれわれの願いははかなく、解放されていてもなお、幼き頃からの習慣を変えることはできない。マニュアル化された思考が子どもらしさを失わせ、表情を変えることなくロジカルに他人と接する姿が……、とにかく怖い。
サスペンス、ミステリー、スリラー、それらの要素をふんだんに取り込み、ホラーのような緊張感までも生み出した『汚れなき子』は、Netflixにて配信中。最後の最後まで繰り返し訪れる謎から逃れることはできないが、リミテッドシリーズ(全6話)で衝撃のラストを迎えることができるので、どうかご安心を……。
Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo