週末の過ごし方
自然派ワイン造る山伏
岡山の限界集落で古代遺跡を発見?
【センスの因数分解】
2024.07.04
“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。
東日本山岳信仰の一大拠点・山形県出羽三山。岡山県の山間部・美咲町へ移住した三浦雄大さんは出羽三山出身の羽黒山伏です。
「美しい棚田の景色をひと目見て、ここだと思ったんです。近年は耕作放棄地が目立っていました。この景色を次世代へつなげられないか。そう思ったとき、ワインのぶどう畑はどうかと思ったんです」
グラフィックデザイナーをしていた三浦さんは、ワイナリーで1年間研修を受けた後たった一人で、荒れた棚田を少しずつぶどう畑へと変えながら、人と土地の美しい共存を探り始めました。しかし経験がほぼゼロからのスタートは試行錯誤の連続でした。
「事例がないので、まずはどんな品種が適しているのか。栽培というよりも、それを探っている段階です。昨年は長雨の影響で(ぶどうが)全滅してしまいました」
移住から6年、好転しない状況にもう限界かと思い始めた矢先、彼は驚くべき発見をします。
「一昨年の夏、二上山の神社のお祭りの後に山頂へお参りに行きました。すると、今まで全く気づかなかった気配を感じたんです」
ヤブをかき分け行ってみると、信じられないような巨岩の姿が。山伏として多くの山を駆けてきた三浦さんは、これは信仰の対象に違いないと感じたと言います。
「住職さんに周辺を整備させてもらう許可をもらいました。すると山頂を取り囲むようにいくつもの磐座(いわくら)が見つかったんです」
あるものは夏至の朝日がその岩に真っすぐ差し込み、あるものは冬至の朝日が巨岩を照らす……。人の手により生まれた遺跡に違いないと、地元の人たちを交えリサーチをスタートさせています。
「いろいろなことがうまくいかずもうだめかと思っていた矢先の発見でした。思えばこの場所に受け入れてもらうまでの準備期間だったのかもしれません」
発見と前後して、自体が好転し始めました。彼の活動に自治体が注目、地域おこし協力隊としてぶどう作りをサポートするメンバーができました。また心強いビジネスパートナーも生まれたのです。東京で会社を経営するその人は、定期的に大垪和(おおはが)を訪れ、遺跡の整備を手伝ってくれています。
「詳しいことはわかっていませんがやっと協力してくれる人ができました。ぶどうのリサーチとともに、忘れられていた遺跡のベールを少しずつ開いていきたいです」
終ついの棲家(すみか) 、骨を埋める……土地と人との関わりを表す言葉はいくつもありますが、真にふさわしい場所で生きる人は輝いて見えるもの。「これができればほかは何もいらない」と言う三浦さんの笑顔は、それを見事に体現しています。
Photo: Yamabico wainery