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『リプリー』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #78

2024.08.08

『リプリー』<br>いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #78

パトリシア・ハイスミス原作の『太陽がいっぱい』を映像化した『リプリー』。1960年にはアラン・ドロン主演で、1999年にはマッド・デイモン主演で映画化されているが、ドラマ作品ということでより綿密に人物描写がされ、過去に映像化されたものとはまた違う解釈とも取れる展開や、モノクロでアート作品のような映像美に加え、奇才アンドリュー・スコットによる新たな詐欺師トム・リプリーの誕生に話題騒然だ。

1960年代初頭のニューヨーク。文書偽造などの小さな詐欺を行いながら、うだつの上がらない毎日を送っていたトム・リプリー。ある日、造船所を営む資産家のグリーンリーフ氏から、交通費や滞在費はもちろん、報酬も出すからイタリアに行ったきり戻らない息子のディッキーを連れ戻してほしいと頼まれた。こんな好条件な仕事に食いつかないはずがない、トムは早速ディッキーの住むイタリアのアトラーニへと向かった。

ナポリからバスに乗り継ぎ、ディッキーが借りている家を訪ねてみると、ディッキーは恋人のマージとビーチで優雅なひと時を過ごしていた。トムは偶然を装い、以前ニューヨークで会っているじゃないかと適当なことを言い、ディッキーとの接触に成功。図々しくも家について行き、ディッキーがどんな生活をしているのか探ることにした。

ディッキーは働きもせず、誰かのまね事のような絵を描いて、酒を飲んだり、恋人と過ごしたり、友人たちと旅行したり、親の信託財産を使って悠々自適な生活を送っていた。

なんとかディッキーに気に入られたトムは、やがて彼を連れ戻すことなど忘れ、裕福で自由に生きるディッキーと共に毎日を過ごし、彼自身に興味を持ちはじめる。すべての悲劇はここから始まった……。

少ないセリフ、モノクロで描かれるストーリー、ひとつひとつの行動を丁寧に追ったカメラワークの意図を読み、無表情の奥に潜むトムの思考を、視聴者は探りながら観てゆくことになる。

裕福とは無縁の生活を送ってきたトムにとって、のうのうと親の金で自由に暮らしてきたディッキーは、まさに正反対の存在だ。世間知らずで、大した実力もない、芸術品の価値もわからないようなやつが……。次第にトムは、ディッキーに対して憎悪の念を抱きはじめる。

過去に映画化された作品でも必ず入る印象的なエピソードとして、トムがディッキーの留守中に、彼の服を着て、ディッキーになりきるというシーンがある。果たしてその行動は彼への憧れなのか、はたまた恋愛感情なのか、それともこれから起こるであろうことを想定していたのだろうか、過去に映画化された作品をすでに観ている人はこのシーンを観て、このドラマ版『リプリー』が過去作とはまた違った描き方をしていることに気づいたことだろう。

トムはイタリアを転々とし、素行が悪く殺人まで犯したことで有名な画家カラヴァッジョに夢中だ。光と闇を使い分けるカラヴァッジョの作品は、闇の中から光によって浮かび上がるように人物を描くのが特徴的だが、モノクロによってより明暗がよりはっきりと映し出される。トムのカラヴァッジョ崇拝は、物語の軸となっており、伏線となっているのだからなんとも粋だ。

変身願望というのは誰もが持ち合わせている欲のひとつなのかもしれない。欲望のために、過ちを犯し、その過ちから得られたものを守るため、また過ちを繰り返す。あたかもそれらの過ちが、当然の権利かのようにやってのけてしまうトムに、終始身の毛がよだつ思いだ。

モノクロで描かれる美しいイタリアとともに、無表情なのに感情的な、冷静なようで人間臭い、奇才アンドリュー・スコットによって新たにつくられた「トム・リプリー」をぜひ堪能していただきたい。

<<過去の「いま観るべき、おしゃれな海外ドラマ」はこちら

Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo

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