週末の過ごし方
帝都から共和国への過渡期。
─「イスタンブル建築」が語る世界帝都の魅力─
2024.12.11
海峡の西はヨーロッパ、東はアジアという世界に類を見ない都市・イスタンブル。太古より世界中の人々を魅了してきた帝都の面影を求め、建築を巡る旅に出る……。
ビザンチンとオスマン、2つの帝国時代から、現代の共和国時代をブリッジする過渡期。1900年前後のヨーロッパの影響を感じる美しい建物が、帝都時代の名建築が並ぶ旧市街に対し、新市街に点在する。ジラルデッリ青木さんは、「それらは逆輸入によってもたらされた建築」だと言う。
ヨーロッパを経てもたらされたオリエンタリズム建築
「ヨーロッパの建築様式の流れでは、歴史主義や折衷主義と言われる迷走の時代があります。過去の建築様式をカタログ化し、どんなものが合っているのか模索するのです。それは世界の地図ができあがっていく植民地政策の発展と同時期でした。そういうなかで、中東などの建築様式がとても魅力的であると注目されました。自分たちのものではないエキゾチックなものを取り入れ、オリエンタリズムと呼ばれています。オスマン帝国からヨーロッパへ建築を学びに行った人たちがそういう流行を本国に持ち帰ってくるんです。いわば、オリエンタリズムの逆輸入です。留学生は、自分たちの様式がヨーロッパでもてはやされているのを知りました。オリエンタリズムを取り入れることで、政治的アイデンティティを取り戻そうという動きが起きたんです」
これが“逆輸入した建築”というわけだ。その代表が、世界のセレブリティに愛された『ペラ・パラス・ホテル』である。後にフランス国籍を取得したオスマン人建築家による建物で、アール・ヌーヴォーデザインの窓や鉄格子の中に、モスクなどで散見する中東的な窓の形や壁面の意匠が取り入れられている。
Pera Palase Oteli
Evliya Çelebi, Meşrutiyet Caddesi, Tepebaşı Cd.
No:52, 34430 Beyoğlu/İstanbul
https://perapalace.com/en/
新しい役割をもって蘇(よみがえ)る目抜き通りの元住居
同じ新市街に、イスタンブルの歩みを象徴するリノベーション建築がある。イスティクラル通り沿いに立つ『ボッテル・アパート』と、『ムスル・アパート』だ。
「どちらも目抜き通りにあり、ムスル・アパートはオスマン帝国重臣の個人宅からオーナーが代わり集合住宅となりました。
対するボッテル・アパートは、スルタンの仕立てを請け負っていたオランダ人の店舗兼住居でした。またそれ以上に、当時の著名人が通うサロンとしての機能を持っていたことが、文化史上では重要視されています。しかし帝国の崩壊から当時の特権階級であった居住者がいなくなり、ボッテル・アパートは長らく放置されて廃墟のような状態でした。それを数年かけて修復。現在は複合施設となっています」
一時このエリアは主のいない建物が多く忘れられた存在だったという。しかし建物の文化財としての価値を取り戻そうという働きかけによって生まれ変わり、活気を取り戻した。外国人観光客も多く訪れる通りに、生まれ変わった建築が華やぎを沿えている。
Mısır Apartmanı
Tomtom, 34433 Beyoğlu/ İstanbul
Botter Apartmanı
Şahkulu, İstiklal Cd.
No:235, 34421 Beyoğlu/İstanbul
※トルコ語の発音に即して、この記事内ではイスタンブルと表記しています。
ジラルデッリ青木美由紀(じらるでっり・あおき・みゆき)
美術史家、イスタンブル工科大学建築学部建築学科准教授補。著書に『明治の建築家 伊東忠太 オスマン帝国をゆく』。
<<①古代東ローマ帝国からオスマン帝国へ。記事はこちらから
③世界的建築家と国民的建築家が競演する現代。記事は近日公開>>
Edit & Text: Toshie Tanaka(KIMITERASU)
Photograph: Kosuke Mae