週末の過ごし方
『ラブ&デス』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #88
2024.12.26
“不倫”という道徳に反する行為に、なぜ世間の人々は関心を寄せてしまうのだろうか。
著名人の不倫スキャンダルは絶えず報道され、SNSでは“サレ妻・サレ夫”などと名乗り、プライベートな夫婦生活を匿名でさらし、世論を引き出している。「愛されている」と実感したいから? 刺激が欲しいから? それとも、相手に不満があるから? 信用も人間関係も、ましてや仕事も失ってしまうリスクがあるにもかかわらず、なぜ人は不倫に走るのか――?
U‐NEXTにて配信中の『ラブ&デス』は、80年代アメリカのテキサス州を舞台に、既婚者同士の不倫から、殺人事件にまで発展してしまったスリリングなサスペンスドラマ。優しい夫と2人の子どもに恵まれ何不自由なく暮らす主婦キャンディが、あっという間にうわさ話が広がってしまいそうな小さな町で、あろうことか友人の旦那と秘密の関係に。
周囲にバレないよう綿密に計画を練って、親密になりすぎたら関係を解消しようと約束をし、ただの火遊び程度の関係を望んでいたはずだった。なのになぜ、あれほど恐ろしいことが起こってしまったのか? そして最も恐ろしいのは、これは実際に起きた事件をもとに作られた物語であるということだ。
主人公キャンディは、熱心に教会に通い、街の行事ごとには欠かさず参加し、負けず嫌いで自信過剰、常に何かに挑戦していないと気が済まないタイプ。夫は優しくいい父親だが、少々子どもっぽくてマイペースな部分があり、キャンディは欲求不満を抱えていた。
キャンディの教会仲間で、不倫してしまうアランの妻ベティは、何事にも神経質で、常に不安に襲われている。自己中心的で思い込みが激しく、私は一生懸命なのに、なぜわかってくれないのだろうかとイライラしてしまうタイプだ。「早く帰りましょう、排卵日なの」と夫の楽しい時間を犠牲にしてまでも子作りに励み、子作りのためのセックスを強要されているアランは、どこか虚しさを感じていた。
「不倫に興味はない?」とキャンディからのお誘いに最初は戸惑っていたが、欲求不満なキャンディと、愛を感じたいアランのタイミングが見事に合致してしまい、二人はやがてなんでも話せる親友のような心地よい関係になってしまった。
『ビック・リトル・ライズ』や『アリー my love』で知られるデビッド・E・ケリーが脚本ということもあり、繊細な人物描写が上品で秀逸。対話からうかがえるキャラクターの価値観であったり、ちょっとした行動や仕草で視聴者に印象付けてゆくデビッド・E・ケリーの手腕には毎回驚かされる。
キャンディとベティが通うメソジスト派教会は、敬虔(けいけん)な信仰生活を重視した一派で、コミュニティとしての絆が強い。「女性は家を守るもの」というこの時代特有の価値観が、小さな町での閉塞感や同調圧力を生み出し、ベティとキャンディは“完璧な家族”でなければと、必死に外面を作り上げてきたのだろう。自身の弱さも悪ももちろん理由としてあるが、そういった要因も間違いなくこの事件を生み出すきっかけになっている。
デビッド・E・ケリーは元弁護士ということもあり、多くのリーガル作品を手がけていることで有名だ。ドラマ後半は裁判シーンも多く登場し、陪審員の心をつかむことで裁判が左右されるアメリカならではの法廷対決を楽しむことができる。前述したとおり、この作品は実際に起きた事件だ。衝撃の裁判結果を知り、どう思うかは意見が分かれることだろう……。
一部残虐なシーンがあり、苦手な人には閲覧注意な作品ではあるが、アベンジャーズシリーズのワンダ役で知られるエリザベス・オルセンが、完璧な主婦の中に潜む闇や空虚感を見事に怪演し、脚本デビッド・E・ケリー、監督は『HOMELAND』『ツイン・ピークス』のレスリー・リンカ・グラッター、プロデューサーとして女優のニコール・キッドマンが参加しているなど豪華すぎる製作陣がそろっているだけに、全7話でありながらも、どっしりと見応えのあるドラマに仕上がっている。
少しの覚悟を決めて、ぜひ年末年始の一気見リストに加えていただきたい作品だ。
Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo