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分断の時代に“リアル”の価値を。
万博の大屋根リングに込めた藤本壮介の思いとは?

2025.05.20

分断の時代に“リアル”の価値を。<br>万博の大屋根リングに込めた藤本壮介の思いとは?
前回のドバイ万博の約半分の面積というコンパクトな敷地での開催となった大阪・関西万博。各国のパビリオンを囲む大屋根リングは、回遊の通路の役目も果たす。人の流れを考え計画されたが、「都市計画と似ている」と藤本壮介。

「リアルに出合うということがより大切になる。そういう時代がやって来ることを予想しながら計画しました」

現在開催中の大阪・関西万博。その会場デザインプロデューサーである藤本壮介は、2020年の万博プロジェクトの始まりに際し、2025年という未来をそう見据えていたそうだ。

2020年春はご存じのように新型コロナウイルスが蔓延しはじめたころであったこと、そしてトランプ大統領が就任したことなどから、分断が世界で指摘されるようになった時期です。この動きが収束したあとの万博であるならば、どういう時代がやって来るかということを考えたわけです」

あれから5年。自身がデザインし今回の万博のシンボルとも言える大屋根リングは、リアルの重要性を再確認した世界へのメッセージを内包している。

「分断の時代は続いています。そんななか、自国の素晴らしいものを携えながら世界の国々がひとつの場所へ集まって開催されるのが万博です。今回は約8割の国と地域が参加しており、しかも6カ月間という長時間を共にします。時代性を考えると、それ自体がとても尊いことだと思います。また同時に、すごい過激なコンセプトだとも感じるんです。ですからそこを強調したいと思いました」

そうやって、“万国が集うさま”をリングを用いてぐるっと囲みながら強調するデザインが生まれたのだが、そこには同時に力強いメッセージが込められている。

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東ゲートから入ってすぐに、エンパワーゾーン正面にあるフランスパビリオンは「(万博の)一等地」と藤本壮介は言う。メインパートナーであるLVMHとコラボレーションしたのは、日本人建築家の重松象平。

「多様性が(リングをもって)つながっていくというメッセージを込めました。分断、分断と言われるようになってずいぶんな時間がたちましたが、そんな時代でも多様な世界はつながることができるのだと。
“いのち輝く”と、万博では命をテーマに据えています。これは京都大学の山際先生から聞いたのですが、命の定義っていうのはまさに多様性が関係し合い、つながり合うことで生きていくのだと。いろいろな種があり、いろんな命があって生態系がつくられています。そしてこの地球全体の生命体が成り立っている。多様性がつながるというのは(万博においては)国の話でありますが、実はそれは生態系の話でもあるわけです。
私は国と生態系をかけてデザインをしました。なので、これ真上から見ると丸の中にいろんなパビリオンがあって、細胞のようにも見えます。さらに丸の外にも実は企業のパビリオンに立っています。要するにこのリングは切断する円ではなくて、むしろ細胞膜のように外から中へウェルカムするし、行き来ができるというわけです」

建築家である藤本壮介は、この万博のデザインは都市計画と通じると話す。彼が今回実施したのは、今は分断している国や民族がリングという存在を象徴として融合し、さらには自由に行き来できるというデザインだった。第一印象では、大変シンプルなように感じる。しかしこれが、老若男女、古今東西、万国共通に届く。そして今こそ求められるメッセージではないだろうか。

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プロフィール
藤本壮介(ふじもと・そうすけ)
建築家。1971年北海道生まれ、東京大学工学部卒業。東京やパリ、深圳に拠点を構え世界中でプロジェクトを展開している。近年の作品に、シャンパーニュ地方にある、メゾンルイナールのパビリオン「4 Rue des Crayères /クレイエル通り 4番」、太宰府天満宮仮殿などがある。

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