週末の過ごし方
いま、東京の夜に浴びたい音楽とは?
ジェームズ・マコーレイの“止まらない”挑戦。
2025.09.04
その時代、その場所でしか聴くことのできない音楽は間違いなくある。
2025年の「The Ancient Highballs」は、まさにそんなバンドなのだろう。いま、この瞬間に触れ、浴びておきたい、そんな音楽なのだ。
7月30日に行われた東京・青山「月見ル君想フ」のライブでは、ジャズ、ポップス、ロック、現代音楽といったカテゴリーにとらわれず、ジャンルレスの音楽が実にテンポよく、自由に繰り広げられた。10人編成のバンドから吐き出される音は力強く、ときに繊細で美しく、ライブハウスの狭い空間を震わせ、詰めかけた観客を魅了した。
「The Ancient Highballs」は、2023年、オーストラリア人でトロンボーン奏者のジェームズ・マコーレイによって結成された。この日演奏されたのは、すべてオリジナル曲(ジェームズとermhoiの曲)。決してスタンダードを拠り所とはしていない。それは、ジェームズ自身の姿勢であり、生き方でもあるのだろう。
メルボルンで音楽活動をスタートさせたジェームズ・マコーレイは、その後、世界中でライブ活動とレコーディングを行い、1年半前から日本に居を移し、さまざまなプロジェクトを立ち上げてきた。いまやジェームズが抱える音楽プロジェクトは片手では収まらない。
ただし、参加するミュージシャンに対してジェームズが求める基準は恐ろしく高い。
「僕にとってミュージシャンのクォリティーはとっても大事。メルボルンではクインテットを持っていたけど、そのときにバンドのメンバーの組み方について昔の先生からこう言われた。『最初から一番好きな、一番一緒にやりたい人とやったほうがいい』。それから、僕は一番好きな一番一緒にやりたい人とやることにした。それは同時に、己に厳しいミュージシャンであるとも言えるわけだけど」
「The Ancient Highballs」のドラム担当、石若 駿(写真下)もまた、そんなジェームズが「一番一緒にやりたくて、己に厳しいミュージシャン」のひとりだ。
石若がジェームズと出会ったのは10年ほど前、ちょうど東京芸術大学を卒業する頃のことだった。石若とジェームズはすぐに意気投合し、演奏以外の時間も共有し、互いの家を行き来するまでになる。いまやあらゆるジャンルのミュージシャンから声のかかる石若は、ジェームズの音楽をこう表現する。
「僕のもともとのバックグラウンドはジャズなんですけど、新しく生まれる音楽にすごく興味があって、聴いたことのないものがそこで生まれたり、見たことのない音の景色が見られるのが好き。ジェームズの音楽はまさにそれで、僕が出合ったことのない音楽をやっている」
「The Ancient Highballs」には、ジェームズの旧友で中心メンバーでもあるマーティ・ホロベックのほか、その出会いがプロジェクトの始まりとなった歌手のermhoi、ギターの井上 銘、トランペットの佐瀬悠輔ら日本のトップ・ミュージシャンも参加。ときに難解で複雑なジェームズのオリジナル曲を着実にそして豊かに表現している。
ジェームズはなにものにもとらわれない。
「ジャズを学び、教え、いまも好きだけれど、自分の音楽を表現したいのであれば、ただジャズをコピーするだけでは意味がない。僕はいろんな音楽に興味があるし、このバンドのメンバーともいろんな音楽をやっていきたい。音楽は広い。だから、皆が死ぬほどやっているスタンダードのジャズから僕は逃げようとしている」
ジェームズはメルボルンでは高校や大学でいくつものクラスを持って音楽を教えていた。ライブ活動だけでは生活ができなかったからだ。けれども、日本に来てからは、ライブや作曲など音楽だけに身を浸せるようになった。
「カラオケに行って、毎日練習に集中できることがうれしい。一日2回、計3時間は練習して、よくわからないところ、たとえば難しいリズムとかを何度もさらうのがすごく気持ちいい。もっと練習したいし、たくさん練習すべきことがある。練習し、スコアを勉強しているときが一番気持ちいい」
ジェームズは練習の合間を縫って曲づくりにも励む。日本語の歌詞も書く。常に新しい楽曲のことが頭から離れない。
最後に石若はジェームズをこんなふうに表現した。
「ジェームズはずっと音楽のことばかり考えていて、とにかく止まらない人。コロナ禍のときにもミュージシャンに一番声をかけていて、リモートで別々に取った音源を重ねたりしていた。あのコロナ禍でも決して止まったりしなかった。いつでもどこでもずっと曲を書いているし。そんな実行するエネルギーを近くにいていつも感じています」
ジェームズ・マコーレイの音楽は、人々を巻き込みながらなおも広がりつづける。周りの人々もまた、「止まらない人」を楽しげに追いかけつづける。音楽の可能性は無限とばかりに誰もが純然と突き進んでいく――。ジェームズ・プロジェクトの創造の根源は、そこにある。
<The Ancient Highballsの今後の活動予定>
9月5日(金)
The Ancient Highballs ‘Ochanomizu’リリースライブ
@南青山/BAROOM
10月2日(木)
The Ancient Highballs ‘Plastic Drastic’リリースライブ
@代官山/晴れたら空に豆まいて
12月3日(水)
The Ancient Highballs 1stアルバム‘Happy Sad’リリースライブ
@新宿/PIT INN
*ライブの詳細・チケット予約は各会場のwebサイトにて
Photograph: Satoru Tada(Rooster)
Text: Haruo Isshi