特別インタビュー
ブルガリの華麗なる遺産と未来
2025.10.23
ハイエンドなジュエリーやウォッチを華麗に打ち出すブルガリ。現在開催中である、国立新美術館での展覧会のため来日したブルガリ ウォッチのクリエイション統括者に、その見どころや新たなコレクションである「ポリクロマ」の持つ魅力を、プロフェッショナルな視点を絡めて語ってもらった。
独創の宝石使いが成す色彩アートを見てほしい
ブルガリと言えば、高級素材と卓越の職人技を注ぎ込んだハイジュエリーやハイエンドウォッチがつとに有名。そんな世界屈指のジュエラーにとって、この2025年はスペシャルイヤーである。とりわけ日本では「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」と銘打つ過去最大級の展覧会を、2025年9月から12月15日まで国立新美術館にて開催し、すでに注目を浴びている。またブルガリは今季、新たなるハイエンドコレクション「ポリクロマ」を打ち出し、そちらも世界的に話題になっているのだ。
どちらもブルガリの神髄を知るに足る意義深い打ち出しだが、そのポイントは一体どこにあるのだろう。そこで同社におけるウォッチデザインの重鎮、ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏にお話を伺ってみた。
編集部 2025年の5月にリリースされた「ポリクロマ」は、世界的ジュエラーの新作らしく、斬新な趣向が盛り込まれています。なかでも名門のブルガリとしてこだわった部分を教えて下さい。
スティリアーニ 本コレクションは、ハイジュエリーとハイエンドウォッチのシーンにおける、壮大な最終章を飾るもの。鮮やかな色彩と動きに溢れる世界観にて統一した、多元性や多態性における可能性を、ブルガリの誇るメティエダールを駆使し具現化したところにポイントがあります。
編集部 鮮やかなプレシャスストーン使いが特に印象的ですが、それは「ポリクロマ」の要点となりますか?
スティリアーニ そうですね。そもそも「ポリクロマ」とは、ギリシア語で多数を意味する“poly”と、色を意味する“chromia”を組み合わせたネーミング。無限の色調を持つ多彩な宝石と、その動きによって生まれる色彩が言語となり、ジュエリーが新たな領域への入り口となるアート作品として完成しています。その多様性は時代と文化の掛け橋でもあり、万華鏡のごとき新たな世界を作るもの。色という普遍の言語と感情を揺さぶり、今までにないストーリーを紡ぐパワーを備えていると考えます。
編集部 さまざまな魅力を持つ「ポリクロマ」ですが、日本のカスタマーには、特にどの部分をアピールしたいと考えますか?
スティリアーニ 「ポリクロマ」は約250点のハイジュエリーとハイエンドウォッチの新作を擁します。その中の60点が、ラグジュアリーなミリオネアピースとなり、点数も過去最多となるでしょう。なかでも新しい試みを詰め込んだ作品と言えるのが「ヌヴォレ プレツィオーゼ(典雅なる雲)」。これはマクセンティウスのバシリカ(公会堂)における天井を模した八角型のペンダントウォッチです。
完成までに1560時間を擁しましたが、中央には6.88カラットの認定済みクッションカット・イエローサファイヤが輝き、時計の脇にはヴィンテージのブルガリブローチに範をとった蝶が揺れ、グリーンのプレシャスストーンを配した雲を浮かべたデザインです。そしてその雲は取り外してイヤリングとしても使用可能。また、取り外したからといって、ペンダント本体に無粋な隙間などはできず、しっかりカバーする工夫も込められています。
多彩な宝石使いに加え、多様な楽しみ方ができる作品であり、日本のカスタマーならば、この巧妙な仕上がりを特に喜んでいただけると信じています。
編集部 ブランドのDNAに基づく華麗な宝飾技を注ぎ込んでいるという意味では、現在国立新美術館にて展示中のジュエリーと同様ですね。今回の「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」展では、350点ものマスターピースが一堂に揃うと聞いていますが、スティリアーニさんはすでに足を運ばれましたか?
スティリアーニ はい、もちろんです。ブルガリのアーカイブはジュエリーの魅力となる、すべての要素を注ぎ込んで作り上げられたもの。なかでも今回の展覧会では「色彩」に注目して見ていただいきたいと思います。新作となる「ポリクロマ」にも通じるエッセンスですが、ブルガリは色彩を操り独自の芸術形式に昇華させた類まれなるハイジュエラー。
本展覧会ではブルガリにおけるそれらの色彩革命を、「色彩の科学」「色彩の象徴性」「光のパワー」の3つのチャプターにて構成しています。それぞれを観覧することで、ジュエリーの持つ奥深さと同時に、ブルガリがいかにそれらをひとつの個性ある宝飾へとまとめ、磨き上げたかがお分かりいただけるでしょう。
編集部 過去には大規模な展示会をブルガリのお膝元であるローマでも開催しています。そして日本でのこの展示会は、さらなるグレードアップが図られていると伺いました。なかでもスティリアーニさんご自身が気に入ったポイントなどはありますか?
スティリアーニ 今回の「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」展は、本当にインパクトに溢れたエキシヴィジョンです。自分としては展示されるジュエリーの質や量が特筆すべきポイントであるのは当然のこと、会場デザインとのコントラストにも留意していただきたいと思っています。
会場デザインは我々と「SANAA」(妹島和世と西沢立衛による建築ユニット)、それにイタリアのデザインユニットである「フォルマファンタズマ」が手掛けています。ローマをルーツとするメゾンのアイデンティティと日本の優雅な美意識が高いレベルで溶け合っており、訪れる人を自然な形で色彩の世界へ誘うしつらいとなりました。
またブルガリのシグネチャーでもあるセルペンティ(蛇を模したネックレスをはじめとするジュエリー)の多彩さは格別のもの。私が初めて見るセルペンティも並んでおり、それには少なからず驚かされました(笑)
ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ
ブルガリ ウォッチ プロダクト クリエイション エグゼクティブ ディレクター
1971年イタリア、ナポリ生まれ。国立デザイン大学ローマ校(ISIA)にてインダストリアルデザインを専攻。2001年に当時CEOであり創業ファミリー3代目のパオロ・ブルガリにその才能が認められ、ウォッチデザインチームに参画。2009年、デザインセンターをウォッチビジネス部門のあるスイス・ヌーシャテルへの移転を実施。さらなる開発・製造の効率化を図り、ブルガリ ウォッチ プロダクト クリエイション エグゼクティブ ディレクターとして、デザインチームを率い現在に至る。
Photograph:Satoru Tada(Rooster)
Text:Tsuyoshi Hasegawa(TRS)