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ためらわない美のホテル
パーク ハイアット 東京が選んだ
全く新しいリニューアルの姿【後編】 

2025.12.26

ためらわない美のホテル<br>パーク ハイアット 東京が選んだ<br>全く新しいリニューアルの姿【後編】 
ジュアン マンクにより全面改装となったピーク ラウンジは、直線で構成されていた以前のデザインに比べ、曲線が印象的。丹下健三による新宿パークタワーのグラフィカルなファサードとの対比がユニークだ。© Yongjoon Choi

12月9日、約1年半の全館改装を経てパーク ハイアット 東京がリニューアルオープンした。開業当初、いまだかつてないラグジュアリーホテルとして多くの人々の心に強烈な印象を与えたホテルが選んだリニューアルもまた、ほかのどのホテルも行ったことのない選択だった。1994年の開業以来、パーク ハイアット 東京が歩んできた革新的な道程と新たに生まれ変わったホテルの姿。その根底に見え隠れする独自の美学を前後編にわたって紹介する。

<<前編はこちら

思いもかけないことが、あとになって数奇な縁につながっていたりすることがある。今回パーク ハイアット 東京(以下PHT)のリデザインを担当した建築デザイン事務所「ジュアン マンク」のパトリック・ジュアンとホテルの出合いも、そのひとつと言えるのかもしれない。

「あれは確か、2004年のことだったと思います。クライアントのすすめで、パーク ハイアット 東京に宿泊しました。ピーク ラウンジに到着し、その広大な空間に身をおいたときの鮮烈は今でもよく覚えています」。当時「東京をまだ知らなかった」彼に強烈なインパクトを与えた空間は、約20年の時を経て自らがデザインすることになった。

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フレンチブラッセリーへと変化を遂げたジランドール by アラン デュカス。アイコニックな写真で構成された壁面にボルドー色のベンチが映える。© Yongjoon Choi

2019年に検討されはじめ、2020年にプロジェクトがスタートしたPHTのリニューアル。そのなかで最重要項目のひとつが、誰がデザインを担うのかということだった。非公開のコンペティションの結果選ばれたのが、デザインユニットのジュアン マンクだ。ホテル側で検討されてきたリニューアルのプランにより、41階のピーク ラウンジ&バーとジランドール(現在はジランドール by アラン デュカス)、ほぼ全ての客室を手がけることとなる。

「(リデザインを担うことは)私たちが神話に触れることである、と認識していました。またPHTのような歴史的価値のある場所を扱う経験を過去に何度かしてきています。ホテルの今までの神話を踏まえながら、未来へとつなげていくために何が必要か。その見極めが問われていると思いました」

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ピーク ラウンジ(左)とニューヨーク バーのスケルトン状態。開業当時からの象徴的なアート作品であるヴァレリオ・アダミのアート『ラジオシティ』は養生をしながら工事中もそのまま設置されていた。

フランスのヴェルサイユ宮殿やルーブル美術館といった「神話的場所」に関わったことがあるジュアン マンクは、東京において、いや世界のホテルにおいてPHTのリニューアルというのがどういう意味を持つのか、そしてどうそれを成し遂げていかなければいけないか。経験に裏打ちされた理解があったのだ。そのうえで重要視したのはPHTが持っているDNAだった。

DNAを受け継ぐために私たちが注力したのは、静寂との対峙です。ホテルに身をおく瞬間瞬間を完璧なものにすること。それによって内面に平和が生まれます。その平和によって、己と静かに向き合うことができる。PHTはまさにそれを実現する場所であり、それがこのホテルのDNAだと考えています」

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チェックインのためフロントレセプションへ向かうアプローチにあるライブラリーは、ジョン・モーフォードがセレクトした本の並び方まで変わらない(左がリニューアル後)。

自分の目に映るものすべてに美が宿るノイズがない状態になると、意識は外ではなく内面に向かい、平穏から静寂が生まれる。ホテルというラグジュアリーな施設のイメージは、華やかなハレのシーンを想起することが多いし、そういう高揚は多くのホテルでも得られるかもしれない。しかしPHTのDNAとはまるで古刹(こさつ)や名刹(めいさつ)、茶室のように、研ぎ澄まされたすがすがしさの中に身をおく際に生まれる静かな感覚であると、彼らは捉えたのである。そしてそれは、このホテルの開業当時からの美点であることを、ファンなら少なからず理解するのではないだろうか。

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30年前に比べ、需要の増えたスイートルームを増設。時代の流れに合わせながら、客室もトーキョー スイートを除きすべて改装された。© Yongjoon Choi
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ニューヨーク バーのこの写真を見て、錯覚を起こす人もいるのではないだろうか。椅子やテーブルはすべて新しく替わりながら、デザインは全く同じにリニューアルされた。

ホテルのDNAである静寂を発端に、リニューアルの物語は紡がれることとなった。だからこそ、PHTはほかのどのホテルも成し得ないリニューアルへたどり着いたのだろう。スケルトンにしたにもかかわらず、全く同じデザインでリフレッシュした共有施設と、刷新されたピーク ラウンジ&バーやジランドールは、往年のファンの心配を杞憂とさせるように調和している。これは、ジュアン マンクが神話に手をかける覚悟をもってPHTというホテルの本質の海に深く潜った後に、新たな時代を生み出そうとした結果と言えるのではないか。

今の東京は、一日として同じ景色はないというほどスクラップ&ビルドが進んでいる。しかし、新しいものや新鮮さだけが、改良や成功、ニュースに値するわけではない。アップデートはしつつも、変わらない美や変わらない価値は確かに存在する。それをホテルのリニューアルによって、PHTは見せてくれたのだ。

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ジュアン マンクのパトリック・ジュアン(左)と、サンジット・マンク。PHTが歩んできた道程の先に道をつくるようなデザインに成功している。© Adrien Dirand

約30年後には必ずまた訪れるであろう転機に、ほかに惑わされず導いたホテルの矜持とも言える回答の影響は大きいはずだ。初めての全館改装でいまだかつてない道を選び取ったことが、次への指針となる。そしてほかのホテル……いや、すぐに更新していく現代の東京にも少なからず影響を与えるかもしれない。確かな価値観を持って全く変えない選択と、本質を受け継ぎ調和する新施設。無口なホテルは、ゲストに提供する最高のものはなにかという答えを、その姿勢で語るのだ。

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パーク ハイアット 東京
Park Hyatt Tokyo
東京都新宿区西新宿3-7-1-2
tokyo.park.hyatt.com

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