週末の過ごし方
オスマン帝国時代の軍事施設、
知の拠点へ生まれ変わる
【センスの因数分解】
2026.02.09
“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。
スウェーデンのストックホルム市立図書館、フランスの国民議会図書館など、世界にはその美しさで知られる図書館があり、一度は訪れたい場所としてフィーチャーされるケースもあります。写真を見れば、SNSなどで目にした、という人も少なくないでしょう。
Yeni Rami Mahallesi, Rami Kışla Cd.98/1, 34055 Eyüpsultan/İstanbul
250年以上前の兵舎を修復、改修。共和国時代の60年代まで利用されていた。
トルコには、美的だけでなくソーシャルグッドの観点からも拍手を送りたくなるような図書館があります。欧州最大の規模であるイスタンブールの『ラーミ図書館』は、2023年オープン。18世紀オスマン帝国時代の歴史的建造物、『ラーミ兵舎』が図書館として生まれ変わったのです。
建物の面積は3万6000㎡。細長いロの字のような形状をしており、中央の広場をぐるりと囲んで立っています。「息づいた図書館」をコンセプトにしており、数百万の蔵書は成人、各種専門分野など学生や研究者へ向けたものから、児童書や点字本、さらには古文書の修復と保存機関など多くの機能が内包されています。また24時間無料で利用可能な自習室や閲覧室、バリアフリーコーナーや乳幼児コーナーも完備。門戸は誰にでも広く開いているのです。
ラーミ兵舎は帝国時代だけでなく、共和国となった1960年代まで軍の倉庫などに使用されていました。その後長い期間放置され、廃墟のような状態だったといいます。2010年代に図書館として再生する構想が生まれ、14年に国家プロジェクトとして始動しました。文化観光省を中心とし、建築家、地質学者、考古学者、歴史家などの各分野の有識者たちが学術的なアプローチを行ったそうです。歴史的価値も高い建築は、現地調査によってオリジナルの構造を保存し、損傷部分も天然素材や現地産の資材を用いて修復。オスマン帝国時代のたたずまいを残しながら、垣根のない学びの場へと生まれ変わったのです。建物に囲まれた5万1000㎡の広さのある元演習場は緑化され、1000㎡の人工池と共に市民の憩いの場になっています。
ラーミ図書館は単に本を閲覧するだけの空間ではなく、年齢や性別、バックグラウンドなどの垣根を越えて多くの人に「居場所」を提供しています。23年の開館から2年間で約604万人の来館者を受け入れたそうです。
軍事施設が図書館へと生まれ変わってまだ月日は浅いですが、この施設を発端とし、新たな文化が必ず生まれることでしょう。このリノベーションプロジェクトの根底には、武力ではなく知こそ最大の力という「ペンは剣より強し」の考えがあったといいます。今の時代こそ、世界にラーミ図書館のようなケースと考え方が必要に思えてなりません。
Photos: Kosuke Mae