バッグ
散歩の相棒。
Article: Small Bag
2026.03.04
「レス・イズ・モア」という言葉がある。“少ないほどより豊かである”という意味で、ドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエによって提唱されたデザイン哲学だ。日本では“引き算の美学”を表す際に用いられることも多く、ファッションやその他の芸術表現において、しばしば引用される。とはいえ、90年代に多感な青春時代を過ごし、情報を過剰摂取しながら消費を繰り返して悦に入っていた自分のような“おぢ”にとっては、「少ないほど豊かだ」と諭されても今さらもう引き返せない。だが、コロナ禍を経て、自転車で散歩する習慣がついたことで、いつしか身軽なスタイルを好むようになったのは、意外な心変わりであった。
お気に入りは、国立にある自宅から府中を経由して深大寺に行くルート。毎回、興味深い企画展を開催している府中市美術館で好奇心を刺激し、深大寺で蕎麦を食べて帰るだけだが、この3時間程度の散歩が自分のペースにはちょうどいい。そんな小散歩の相棒候補として、密かに狙っているのがトッズの「T タイムレス レザー ベルト バッグ ミニ」である。取り回しに優れたサイズも魅力だが、フラップポケットのふくよかな“T”のモチーフが愛らしく、主張に押し付けがないのも好み。乗車時は、バッグを身に着けたまま扱うので、大きな開口部とマチ付きの構造は、開けた勢いで中身が落ちないのもうれしいポイントだ。
「レス・イズ・モア」の境地には当分たどり着きそうにないが、最小限の装備でもなんら事足りることに気付いただけでもよしとしよう。
Photograph: Fumito Shibasaki(DONNA)
Styling: Hidetoshi Nakato(TABLE ROCK.STUDIO)
Text: Tetsuya Sato