特別インタビュー
株式会社SCOグループ
代表取締役会長 玉井雄介 インタビュー[後編]
[ニッポンの社長、イマを斬る。]
2026.03.09
歯科医院向けの決済サービスで飛ぶ鳥を落とす勢いのSCOグループ。口腔ケアへの意識を高め「日本人の健康寿命に貢献したい」と構えは大きい。社員2人で始めた事業を8年で急成長させ、25年6月に会長に就任した玉井雄介氏に伺った。
『ペイライト』で決済手数料の常識を変える
2020年、玉井は歯科医院専用の決済サービス『ペイライト』をスタートした。最大の強みは決済手数料を1.5%(現在は1.05%~)まで引き下げたこと。
「従来の決済サービスの半額です。当時は加盟店手数料が平均3%で安くても2・5%ほど。歯科医院の経営的な課題を考えるとこれは重い。3%はカード会社がもうけすぎだと思いました。医療機関のキャッシュレス化を進めるのであれば企業努力で付加価値を付ける、身を削って導入しやすい障壁を押し下げていくべきだと思ったんですね」
リリース当時、同業他社はざわめいた。だが、玉井は動じることなく「1万件の契約」目標を掲げた。折しもコロナ禍、飛沫感染の脅威もあり歯科医院の患者が減少していた時期でもある。一方で、キャッシュレス化には追い風の環境だ。「業界的にも『とりあえずスーツ着て、ちゃんと顔見せて』が慣習でした。それがリモート商談OKになったのは非常に助かりましたね」。3年で目標の1万件に到達した。2025年現在、『ペイライト』を利用する歯科医院は全国に1万7000医院に上るという。
「結果として自費診療だけでなく保険診療でも使えるようになりました。最初のローンチで自分たちの利益を優先していたら課題の解像度はそこまで上がっていなかったでしょうし、利用数も5000件くらいにとどまっていたかもしれない。名誉あるディスカウントをできたかなと思っています」
『ペイライト』のヒットで会社の知名度は急速に上がっていった。走りながらも玉井は考えていた。アメリカの6倍もの業務量を効率化できないか。日本人のデンタルIQを上げて健康寿命に貢献できないか。もっと大きな仕組み作りを構想していた。
テクノロジーで健康寿命を支えたい
21年には予約から決済、顧客管理まで可能な『ペイライト・プラス』を、25年6月にはオールインワンの『ペイライト・エックス』をスタートした。後者は診療中のやり取りがAIで記録されるサブカルテや365日24時間応答可能の電話応対なども搭載する。月平均にして7割ほどの業務カットが見込まれ、患者のメンテナンス率のアップも期待でき。「(『ペイライト・エックス』までに)時間がかかりすぎたかなと思う一方、数年でよくここまでと、われながら思う気持ちもあったり(笑)。大変なこともありましたけど『できない』と思ったことは一度もないです。『ペイライト』をゼロから1万件にする過程も、業界のことを深く知る経験も僕は楽しくて仕方なかったんですよね」
SCOグループのミッションは「テクノロジーで『105年活きる』を創造する」だ。100年ではなく105年であるところにも玉井の意思が見え隠れする。「日本人は、年を重ねるごとに生き方がシュリンクしていく傾向がある気がします。でも、長寿社会で大切なことってやっぱり挑戦することだと思うんです。越えたときの『できるんだ』という驚きと積み重ね、それがより良い人生を作る。とはいえ、チャレンジって健康と両輪の関係にあるんですよね。健康だからこそ『維持しよう』と頑張るし、未来を描こうとも思える。だから僕たちは、テクノロジーでその片側を支えていきたいと思っています」
好きなことをやればいい
(右)社内の有志と木曽駒ケ岳にて。(左)自身が挑戦するトライアスロンはバイクだけで40km走るレース。トレーニングに余念はない。
玉井は若い頃に両親を亡くしている。「自分が健康に目を向けさせられていたらもっと長生きできたかな」、と考えることもあるという。自身は毎月の口腔検査と血液検査を欠かさない。運動はトライアスロンに登山、社内の有志とも百名山を制覇中だ。「山には興味がなかったんです。高所恐怖症ですし、登山って不便なことだらけじゃないですか。だけど、山で過ごす時間を持つことで『日常が非日常になるんだよ』と語った知人の言葉が染みまして。下山した後はアスファルトの道路を見るだけで感動しますし、コンビニのおでんを食べてまた感動する。言語が根本から変わる体験でもうやめられませんね」
ビジネスの視座を変えたが、トライアスロンも自分とは無関係だと思っていた。24年のホノルル大会が初参加で、元々は25メートルも泳げなかったのだ。妻や周囲に「来年、大会に出る」と宣言、猛特訓の後、1年でハワイの海1.5キロメートルを完泳した。
「『やればできるじゃないか!』と思いましたね。だけど、このとき『泳ごうとしている自分』に酔ってしまったらダメだったと思う(笑)。結局、主眼を自分以外のものに置かないと達成って難しいのかな。周囲にどんな影響を与えるのかとか、主語をどこに置くかで結果が変わってくることもあると思うんですね。仕事も同じだと思います」
何しろチャレンジの人である。アエラスタイルマガジン読者層へのメッセージを聞いたとき、返ってきたのもこんな答えだった。
「さまざまな生き方が受容される時代になってきたと思うんです。究極やりたいことをやればいいし、行きたい国に行けばいい。僕は大学出でもないですし、それを卑下していたときもあった気がします。だけど、チャレンジに目が向くと出自なんかどうでもよくなるんです。気づいたら教える立場になっていて東大の安田講堂で講演していたりするのも人生です。あなたの好きなことをやってほしいと思いますね」
プロフィル
玉井雄介(たまい・ゆうすけ)
1977年、愛媛県松山市出身。2000年からの株式会社日商システム勤務を経て05年保証会社AGIを設立。以降、カード決済や信販事業など金融事業におけるさまざまな分野を経験。17年に株式会社スマートチェックアウト(現SCOグループ)の代表取締役社長となり、同社をヘルステックの先鋭企業へと導く。25年6月より会長就任。「健康寿命105年」を掲げるグループのトップとして自身の健康管理にも余念がない。趣味はトライアスロン、登山。今冬は社内の登山部の面々と共にキリマンジャロを目指す。
Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima