週末の過ごし方
トップ オブ トップを発掘せよ!
ヒルトンの胸アツ社内コンペ
「F&Bマスターズ」に密着してみた
2026.03.11
国内で毎年開催される、ヒルトンの「F&B(Food and Beverage)マスターズ」が今年10周年を迎えた。各ホテルの現場で活躍するチームメンバーが料理、バリスタなどの全6部門で腕を競う社内コンテスト。ヒルトン広島で3日間にわたって繰り広げられた熱い闘いを取材した。結果発表では思わずこちらの目頭もアツくなる、体育祭のような感動がそこにあった。
ヒルトンの人材育成
言わずと知れたグローバル企業・ヒルトンは、全世界で26ブランド9100軒以上のホテルを展開、日本でも9ブランド33のホテルが全国津々浦々で安定のサービスを提供している。ラグジュアリーからシンプルで気軽なホテルまで、レジャーや出張でホテルを選ぶ際、その滞在スタイルに応じてどのブランドのホテルを利用するかお好みのままに、というバラエティが魅力だ。
そんなヒルトン独特のイベントが、この「F&Bマスターズ」である。もともとオーストラレーシアや東南アジア地域のヒルトンで人材育成を目的に開催されていたこのイベントを、日本・韓国・ミクロネシア(JKM)地区でも技術の底上げを、と2015年に当時の同地区代表によって第1回が開催された。コロナ禍に中止されたこともあったが、今年で10回目を迎える毎年恒例行事となっている。協賛企業によるサポートが基盤で、ずらりと並んだリストを見ると業界で非常に注目されていることがわかる。
当初は社内のみで審査まで行っていたというが、競技としての専門性を高めること、そして潜在的なバイアスを排除する目的もあり、現在はミシュランスターシェフなど外部から専門家を招聘(しょうへい)し審査を行っている。プロによるプロのためのかなり本格的なコンテストなのだ。優勝作品は期間限定メニューとして実際にゲストに供されるため、各ホテルの現場で活躍するチームメンバーにとってはここで優勝することは大きな飛躍。互いに切磋琢磨することで全体的な技術の底上げにもつながる、とてもユニークな取り組みなのだ。
今年のテーマは「LET TASTE & TALENT SHINE」。飲食にまつわるサービスに特化した社内コンテストだ
協賛企業の数々。会場ではこれらの企業による出展もあり、ホテル関係者が実際の商品を試したり担当者から話を聞いたりする場にもなっていた
志す者に門戸を開く
マスターズは料理、ソムリエ、バー、菓子、バリスタの5部門に、2019年からフォト部門も加わって全部で6部門。自身が所属する部門以外であれば、社員ならだれでも参加が可能で、JKM地区の各ホテルから、それぞれのホテル内でコンペを行い、各部門のトップを決める。さすがに料理は料理部からの若手社員のみと定められているが、ほかは所属する部署以外であれば、年次に関係なく参加が可能だ。つまり、レセプションの担当者がバー部門に挑戦するのもOK。志ある者を拒むことはなく、部署を超えての挑戦というところでまずヒルトンの自由な社風を感じる。
過去には実際に別部署からの優勝者が出たこともあるといい、業務外に密かにコツコツと学んできた者が実を結ぶと思えば参加者のモチベーションもぐっと上がることだろう。とはいえ、立候補する参加者の多くがそれぞれの持ち場からの挑戦、つまりその道のプロである。その壁を超えることは容易ではない。
決勝戦に潜む難題
各ホテル内で行われる審査に勝ち抜いたあと、決勝へ。今年はJKMエリア32ホテルから135名の挑戦者がヒルトン広島に結集した。彼らは審査員の前で“実技”を披露することになるが、ひとつ難問が課される。料理、バーおよび菓子の部門では「ブラックボックス」と称される秘密の食材が5つ提示され、必ず1種類以上を作品に用いなければならないのだ。決勝戦の少し前に内容が明かされるため、試行錯誤を重ねる時間は短い。その場のひらめきだけでなく、確かな技術がなくては作品が仕上がらないのだ。
また、決勝戦の場では審査員を前に、口頭で作品についてプレゼンテーションもしなくてはならない。バーテンダーやカフェ勤務といった接客担当者はにこやかかつ軽やかに説明をこなしていたが、なかには緊張で口ごもってしまう人もおり、審査員に思いを伝えきることができるかどうか、というのもなかなかの難関であろう。
ソムリエ部門は1日目に筆記試験、2日目にブラインドテイスティング。審査員から、シチュエーションに合わせたワインの選出といったするどい質問が飛ぶ
宴会場や会議室などが決勝の場。審査員がメモを取る、そのペンが紙を走る音だけが広い会場に響き渡るほど静まり返る。応援に駆け付けた挑戦者の同僚にも緊張が伝播しているようだ
笑顔と涙に包まれたフィナーレ
3日目の夜、いよいよ審査の結果が発表される。セレブなレセプションのごとく飾り立てられたボールルームにて、それぞれのホテルのテーブルには出場者と応援にかけつけた上司や同僚が緊張の面持ちで発表を待つ。部門ごとに3位から順に発表されると、都度、会場のあちらこちらから歓声があがった。
先ほどまでの決勝での張り詰めた空気とはまったく異なり、解き放たれた安心感もあり涙を流す受賞者も。一生懸命に腕を磨いてきた同僚をいつも近くで見ていたであろう仲間たちも一緒に歓喜する様子に、見ているこちらもうれしくなってくる。それぞれのホテルを代表してのプライドの戦いでもあり、それでいて同じグループのホテルであるため互いをたたえ合うさまには、ジーンと熱いものがこみあげてきた。
各部門の優勝者には海外ワイナリーツアー、日本全国バーホッピングツアー、ミシュラン三つ星レストランでの食事といった賞が贈呈される。実地で一流を体験することでさらに腕に磨きをかけることだろう。
喜びを爆発させるバリスタ部門の優勝者 コンラッド東京のティハ・チョウ氏。普段はキリリとしているホテルマンたちの素直な感情に触れる機会でもある
料理部門優勝者 ウォルドーフ・アストリア大阪の金子大輔氏。町場のレストランからの転職という金子氏。次は世界を目指したいとのこと
ちなみに、優勝作品はそれぞれの所属ホテルで期間限定メニューとして提供されることが決まっている。ミシュランスターシェフやバーテンダーの世界大会優勝者といった錚々(そうそう)たる審査員たちをうならせた優勝者の作品。ウェブサイトなどでチェックして、ぜひ味わいに足を運びたい。
優勝作品と所属ホテルは以下のとおり。
◇料理部門 ウォルドーフ・アストリア大阪 金子大輔氏
前菜「“予感” ムール貝とヴィシソワーズ」
メイン「“芽吹き” 桜鯛とそのスープ」
審査員から「飛び抜けていた」と評された逸品。昨年、日本に初進出したばかりのウォルドーフ・アストリア大阪という最高峰ブランドを背負い、金子氏自ら「勝って当たり前」というプレッシャーを課して臨んだという自信作でもある。5月から「ジョリーブラッセリ―」で販売予定。
◇菓子部門 ダブルツリーbyヒルトン・ソウル・パンギョ ソジュン・リュウ氏
「メロンパフェ」
「八丁味噌ヘーゼルタルト」
わずか1点という僅差で優勝を手にした韓国チーム。「ブラックボックス」に隠された食材・八丁味噌をもちいたデザートが興味深い。韓国からは3つのホテルから3人の挑戦者があり、わざわざ来日しての出場。韓国旅行の際、タイミングがよければメニューにあるかも⁉
◇ソムリエ部門 コンラッド東京 浦崎隆宏氏
こちらは唯一“作品”がない部門。筆記試験からのブラインドテイスティングで、審査員はモエ&シャンドンのブランドアンバサダー ティモシー・ベック氏とセールスディレクターのロベルト・バルビエリ氏。コンラッド東京でのディナーの際には浦崎氏にぜひワインを選んでもらおう。
バー部門 キャノピーbyヒルトン大阪梅田 鈴木幹人氏
「金柑のジントニック」
「スカーレットセオリー」
バー部門の「ブラックボックス」はみりん、沖縄黒糖、金柑、大葉、生クリーム。バーテンダー歴6年目にして初出場の鈴木氏は旬でもある金柑をジンと合わせたカクテルを。梅田の夜は柑橘の利いたジンで酔いしれたい。
◇バリスタ部門 コンラッド東京 ティハ・チョウ氏
ヒルトン入社2年目で優勝という快挙。審査員にはワールドバリスタチャンピオンシップで上位入賞常連、ジャパン・バリスタ・チャンピオンシップで3度優勝という石谷貴之氏、同ジャパンチャンピオンシップでファイナリスト常連の西脇章太郎氏。
Text:Shie Iwasa