カジュアルウェア
ファッションの神様の導きか、悪魔の誘惑か?
30万円越えのプラダの新作シャツに秘められたギミックとは
ファッショントレンドスナップ 229
2026.10.01
シャツが、元々は下着だったことをご存じですか?
実は、シャツが今のようにファッションの表舞台にデビューしたのは、その歴史のなかで見るとかなり後半。中世のヨーロッパでは、麻などでできたかぶり式の素肌の上に着るもので、高価で貴重な上着を汚れや汗から守るために着用されていたようです。現在のようにシャツだけで人前に出る(農作業などを除く)ことはほとんど無かったのです。
この頃のシャツを想像できるのが、安土桃山時代の南蛮屏風や宣教師フランシスコ・ザビエルの肖像画。シャツ本体はほとんど見えず、首元をヒダ状の白い襟がぐるっと取り囲んでいて、袖口にほんの少しだけ白い生地が見て取れます。または、「パイレーツ オブ カリビアン」などの海賊映画で戦うシーンで全体像を見ることも。これは腕の部分が少し膨らんで首元がV字に開いたデザイン(ヒモで開閉できるものも)が特徴です。
※職業や社会的な地位によってシャツのデザインは変わります
ちなみに、日本人で初めてヨーロッパ式のシャツを着たのは、ザビエルに洗礼を受け1553年にポルトガルに渡り、ローマ教皇にも謁見(えっけん)した鹿児島のベルナルドと呼ばれている方ではないかと思います。残っている着用像では、1615年にヨーロッパに渡った志倉常長(六右衛門)のものが有名。なかでもローマのボルゲーゼ宮殿に残された等身大に近い肖像画は、圧巻で美しい羽織はかま(刀を差している)の和装の下に、当時流行のシャツを着ているのが袖口と首回りに見て取れます。
なんと現在のシャツのように前がボタンで全て開くシャツが一般的になるのは、1800年代後半になってから。それまでのシャツはかぶり式で、現在のプルオーバーシャツに近く、胸の途中までボタンで開閉するデザインが主流だったのです。
1871年(明治4年)には、ロンドンのシャツ生地、シャツ・リネン製品などを製造販売していたブラウン・デイビス社が、前開きシャツの特許を取得していることから、当時はそれが最先端で革新的なスタイルだったことが伺われます。
またまた、前置きが長くなりましたね…。今回は、私がシャツの歴史を深掘りしたくなったきっかけになった新作シャツにフォーカス。それは、プラダの2026-2027年秋冬のボーダー柄のコットンシャツ。上のモデルが着用しているものなのですが、一見するとモード感満載ですが、実際商品をじかに取って見ると、クラシックなディテールが至るところにあり、マニアックな歴史まで深掘れるデザインが隠されていたのです。
こちらが、そのシャツの正面。特徴は、前ボタンが無く首元が丸首で襟が無いというところ。かぶり式(プルオーバー)のシャツを着たことがある人なら誰しも、これでは首元が小さすぎてめちゃくちゃ脱ぎ着が超大変では?と疑問を持たずにはいられないデザインです。
このシャツは、後ろ側のセンターに開閉用のボタンが付いていました。説明を聞かないで試着したら、絶対こちらが前だと思いますよね。でも、鏡を見るとカフスのつけ位置が逆なので、これは前後ろ逆ではないかと気が付くのですが……。
ではどのように着るのか? 個人的には上のボタンを2個開けて(他は全て閉め)かぶるのが正解ではないでしょうか。その後、後ろ側に片手を回して、ボタンを留めれば完成。全部止めてもよいのですが、脱ぐときにボタンを開けるのが、慣れるまではかなり難しいと思うので、2個開けたままでもいいと思います。ちなみに、プラダの公式サイトのこのシャツのモデル着用画像でも上2個のボタンは留めていません。
これをプラダの展示会で初めて見たときは、単純に前後を逆にしたプラダならではの遊び心のあるデザインだなと思っていましたが、その後ビンテージのシャツについて検索していると、1920~1960年くらいに、海外のフォーマルシャツで後ろにボタンが付いた後ろ開きのものがあることが判明。日本では、後ろ開きドレスシャツとかバックボタンシャツと呼ばれていて、アメリカのシャツブランドのものがネットにアップされているのを見かけます。
ただビンテージのバックボタンシャツは、後ろに開閉用のボタンが2個しかないものがほとんど。
※台襟の後ろ中心に、着け襟を止める金属フックが付くことがあり、それが画像ではボタンのように見えることがあります
プラダはきっとそうしたクラシックなドレスシャツをリスペクトしつつ、現代的にデザインをアップデートしたのではないでしょうか。
袖は、ダブルカフスやフレンチカフスと呼ばれる(折り返されたフォーマルシャツによく見られる袖口のデザイン)仕様になっていて、オーダーシャツによく見られるイニシャルのようなアルファベットの組み文字(モノグラム)刺繍(ししゅう)が入っています。
もっと興味津々なのが、ビンテージのドレスシャツのようなシミ(汚れ跡)があえて付けられているところ。それも袖口だけではなく、全体にわたってこの加工がしてあるのです。この加工は、シャツ縫製後に職人が手作業で付けたもので、一点ごとに違っています。
最後にコーデのポイントを解説。このクラシックなディテール満載のシャツをどのように着こなせば、トレンド感が出せるのかな?と思う方は少なくないと思います。
モデルと同じものを全て購入するのが、すぐに思いつく解決法ですが、なかなかハードルが高いですよね。そこで、ピンポイントでシャツに何をプラスするとプラダ流のモードに変わるのかを私なりにお答えしたいと思います。
プラダ流モード感を盛るには、ベルトが最大のポイント。モデル画像をよくよく見ると、通常より長いベルトを腰の左側で結び、その両先を垂らしているのがわかりますが、これをやることで一気に全体の雰囲気が変わります。一方で、一般的なベルトの付け方をすると、クラシックなドレススタイルに見えがちですので、ご注意を。
そのほかには、シャツのダブルカフスの片方は、カフスをつけないでラフにまくり上げ、もう片方は新作のカフスリンクでビシッと決めるというテクニックも見逃せません!
Photograph & Text:Yoichi Onishi