週末の過ごし方
『テルマエ・ロマエ』から油彩画、子ども時代の絵まで
「ヤマザキマリの世界」展が開催中。
2026.10.21
『テルマエ・ロマエ』で知られる漫画家・文筆家のヤマザキマリさん。その幅広い創作活動を紹介する展覧会「ヤマザキマリの世界 今この瞬間を生きる―Carpe Diem―」が、東京・世田谷文学館で開催されている。会期は2027年2月7日まで。会期初日に開催されたプレス内覧会で語られたヤマザキさんの言葉とともに、見どころを紹介する。
展覧会タイトルにある“Carpe Diem(カルペ・ディエム)”は、「一日を摘み取れ」を意味するラテン語の格言だ。ヤマザキさんが自著のタイトルにも用いてきたこの言葉は、一日一日を目いっぱい楽しめと説く。
14歳でヨーロッパを一人旅し、17歳でイタリアへ留学。油絵と美術史を学びながら、約10年をイタリアで過ごした。その後はイタリア人の比較文学研究者との結婚を機に、エジプト、シリア、ポルトガル、アメリカと移り住む。自らを「筋金入りの遊牧民型」と称し、自分の地図は〈地球サイズ〉だと語る。そんなヤマザキさんの生き方そのものに重なる言葉である。
10月2日に始まった本展示。プレス向けの場でヤマザキさんは展示についてこう語った。
「これまで見返すことができなかった自分の軌跡が、ここにあります」
会場には、これまでの歩みをたどるヤマザキさん自身のヒストリーにはじまり、幼少期の絵、自作の服、漫画、挿絵、『テルマエ・ロマエ』、再現された仕事場、油彩画と、創作人生のあらゆる断面が並ぶ。
漫画は『テルマエ・ロマエ』『続テルマエ・ロマエ』をはじめ、とり・みきさんとの共著『プリニウス』、他にも『オリンピア・キュクロス』『リ・アルティジャーニ ルネサンス画家職人伝』『Palmyre au musée 〜美術館のパルミラ〜』などを紹介。古代ローマから現代日本へタイムスリップする『テルマエ・ロマエ』のルシウスや、『オリンピア・キュクロス』のデメトリオス。世界も時空も軽々と飛び越えていく主人公たちの姿には、作家自身が重なって見える。
漫画と並ぶもうひとつの柱が文筆だ。『国境のない生き方』『扉の向う側』などの自伝的エッセイには、各地での出会いや濃密な体験が息づいている。会場では、エッセイに添えたカット、さらには落語家・立川志の輔さんや歌手の山下達郎さんを描いた肖像画も見ることができる。
ヤマザキさんが漫画を描き始めたのは、イタリアで息子を出産し、ひとりで育てていくと決めたことがきっかけだった。初めて描いた漫画は、ブラジルを舞台に、音楽をコマと人物だけで表現しようと試みた作品。1995年に講談社新人漫画賞に入選して日本へ帰国し、その後、フィレンツェのルポルタージュ漫画でデビューした。
帰国後は大学でイタリア語を教えるなど仕事を掛け持ちしながら、子育てと漫画の執筆を両立させてきた。ホラー漫画を手がけていた時期もあるという。古代ローマのイメージが強い作家の、意外な出発点や振れ幅に触れられるのも本展ならではだ。
若き日にフィレンツェで油絵を学んだヤマザキさん。漫画家として走り続けてきたなかで、最近はようやく油絵に取り組めるようになったという。いまでは漫画家、文筆家に加え、画家という肩書も掲げる。漫画と油絵では、同じ「描く」でも体の使い方がまるで違うと笑う。
「漫画は1ページ描くと10分休む。ハードなんです。でも油絵は、15時間飲まず食わずでも描いていられる。使うところが違うみたいですね」
展示の中には、子どもの頃、母の帰りを待ちながら描いた虫の絵もある。
「漫画も油絵も、どちらも、表現することでしか生きられない私の軌跡です」
展示のボリュームは、1時間では見切れないほど。漫画の原画ひとつ、油彩画の筆致ひとつに足を止めていると、時間はあっという間に過ぎていく。
「何度も来ていただければ、そのたびに新たな発見があるかもしれません」
ぜひ時間に余裕をもって訪れたい。
ヤマザキマリ
1967年東京生まれ。漫画家、文筆家、画家。日本女子大学国際文化学部国際文化学科特別招聘教授、東京造形大学客員教授。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010と第14回手塚治虫文化賞短編賞をダブル受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞、2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。2024年『プリニウス』(とり・みき共著)で第28回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『歩きながら考える』など多数。古代ローマ人VTuber「ミネルヴァ・カクーメン・モンティス」としてYouTubeでも配信している。現在は『続テルマエ・ロマエ』を「少年ジャンプ+」(集英社)で連載中。イタリアと日本に拠点を置く。
ヤマザキマリの世界 今この瞬間を生きる―Carpe Diem―
会期:2026年10月3日(土)〜2027年2月7日(日)
会場:世田谷文学館 2階展示室(東京都世田谷区南烏山1-10-10)
アクセス:京王線「芦花公園」駅南口より徒歩5分
開館時間:10:00〜18:00(入場は17:30まで)※11月6日(金)のみ20:00まで
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館し、翌平日休館)、年末年始(2026年12月28日〜2027年1月4日)
観覧料:一般1500円、65歳以上・大学・高校生900円、小・中学生450円※障害者手帳をお持ちの方750円(大学生以下は無料)
※11月28日(土)・29日(日)は催事のため観覧料無料
※当日券・オンラインチケットあり。電話予約不可
公式サイト:https://www.setabun.or.jp/
Text: Tomoko Komiyama