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篠原ともえ、ボウモアを知る

つづけるのは、
“変わらない”という冒険

SCROLL

歌手、俳優など、表現者として時代のアイコンだった篠原ともえ。
現在はデザイナーとして活躍し、さまざまな分野で輝きを放っている。
クリエイターとしてのルーツになったのが、祖母から受け継いだ一枚の着物だった。
変わらないという決意、伝えていく情熱、だからこそ前に進めるという確信。
スコットランドのアイラ島が生んだシングルモルト、ボウモアがその歩みを後押しする。

1990年代、天真爛漫、カラフルなアイテムを身に纏い一大ブームを起こした篠原ともえ。シノラーファッションを生み、ひいてはその名が彼女自身の代名詞となった。

「私のつくったアイテムを『みなさん見てください、楽しんでください』という想いを込めて」

視聴者の目を釘付けにしたのはトレードマークのポップな衣装だったが、当時は自らデザインしていたという。自分のものづくりを多くの人と分かち合いたい——アイデアに溢れたファッションにはそんな篠原の想いがこめられていた。デビューから30年近くたった今も、多くの人に愛され続ける理由のひとつだろう。

篠原は歌手、俳優に加え、デザイナーとしての顔を持つ。もともとファッションが大好きだったことに加え、高校、短大で本格的に服飾デザインを学んだ。自身が出演する舞台の衣装を手がけたことが認められ、20代初めから本格的にデザインをスタート。これまでに多くのアーティストのステージ衣装を手がけてきた。近年その活動が注目を集め、気品を纏った姿とともに、かつてのファンにうれしいサプライズを届けている。

篠原ともえ、スコットランドのシングルモルトウイスキーを初体験

これまでもウイスキーが好きで嗜んできたが、あまり詳しくはないのでもっといろいろ知りたい——そう語る篠原ともえを案内するのはウイスキージャーナリストの西田嘉孝。ぴったりなウイスキーとして薦めるのがボウモア12年だ。まずは篠原が好きな飲み方であるハイボール。顔にグラスを近寄せると、ひと口含む前に、漂う芳醇な香りに感嘆の声を上げた。

「すごい、香りが甘いですね」

モルトウイスキーの原料は大麦麦芽であり、ブレンデッドウイスキーのように他の穀物も原料とするグレーンウイスキーがブレンドされていない。そしてシングルモルトウイスキーはひとつの蒸溜所のモルトウイスキー原酒のみでつくられたものを指す。

「アイラ島はスコットランド・ヘブリディーズ諸島にあり、シングルモルトの聖地と呼ばれます。そこでいちばん古いボウモア蒸溜所でつくられているウイスキーです」

「おいしい、最初はスモーキーで後からフルーティーさを感じます。甘くて柔らかい」

複数の蒸溜所のウイスキーを調合するブレンデッドに比べ、シングルモルトはよりつくられた土地の水や気候の影響が出ると言われる。ボウモアとはゲール語で「大きな岩礁」の意味。その名の通り、蒸溜所は島の小さな港のそばで大西洋から吹く風を浴び続けている。貯蔵庫の位置は海抜0m、ウイスキーを入れた樽は潮の香りをまとう。

「篠原さんはスモーキーと言われましたが、製造過程にピート(泥炭)※を使っているからです。この独特の香味がアイラ島のシングルモルトらしいところですが、なかでもボウモアは穏やかなスモーキーフレーバーやピート香が、スイートなフルーティーさや柑橘やレモン、ハチミツやチョコレートなどのさまざまな風味と調和しているのが特長です」

ボウモアは“アイラモルトの女王”と呼ばれる。エリザベス女王が訪問したことに由来するが、その称号がずっと冠せられているのはエレガントな味わいであることも大きい。篠原もうなずく。

「確かに。すごく味に気品を感じます。飲んだ後も余韻が残る。これがボウモアなんですね」

変わらないものづくりの精神が人々に感動を与える

次はロック。大きめのグラスに氷、続いてボウモアが注がれる。

「いい香りがハイボール以上に広がります。普段、あまりハイボール以外は飲まないんですが、ロックっていいですね。とろみがあって、直接五感に響きます」

ボウモア蒸溜所では今もフロアモルティングと呼ばれる手のかかる製法が用いられている。大麦が均一に発芽するように管理するため、水に浸けた状態で床に広げて、温度が上がりすぎないように、そして根が絡まないように24時間体制で見守り、撹拌して酸素を供給する「梳き(すき)」という作業を4時間おきに繰り返す。

「スコットランドに140ほどある蒸溜所のうち、今もフロアモルティングをやっている蒸溜所は数えられるほどしかしか残っていません。ボウモアはずっと昔からのこの製法を守り続けています」

西田が語るボウモアの変わらない伝統は、篠原の心の琴線にも触れたようだ。

「長く愛されるものって芯があると思います。ボウモアには、確かにものづくりの魂が宿っていますね」

篠原自身、子どもの頃からものづくりは好きだったが、デザイナーの道に進むにあたって決定的な経験があった。伊豆諸島の最南端、青ヶ島でお針子をしていた母方の祖母から着物を譲り受けたことだ。

「着継ぎで着物を受け取り、糸をほどいたのですが、触れた瞬間にすごく丁寧につくられていることが伝わってきました」

針の一刺し一刺しにこめられた情熱を指先で感じ取った。

「長く続けることの大切さが着物から響いているようでしたね。歌手として、またパフォーマーとしてやりたいことはいっぱいあるけれど、その時、私は人生をかけてものづくりを続けていきたいと思いました」

夢が意志に変わった瞬間だった。

もともと持っていたデザインのセンスと技術をブラッシュアップすべく、母校のオープンカレッジを再受講。私生活でもパートナーであるアートディレクターの池澤樹とともにクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立し、ステージ衣装のほか、企業のユニフォームなどのリアルクローズも手掛けている。2022 年にはデザイン・ディレクションを手掛けた革の着物作品がニューヨークADC賞(銀・銅)、東京ADC賞の二冠を受賞するなど、確実にキャリアを積み重ねてきた。

デザイナーといっても、篠原はただデザイン画を描くだけではない。祖母と同じように自ら針を取る。共に篠原にとってクリエイティブな作業だ。手を動かして服をつくることがいちばん愉しいと言い切る。

「10代のころから、私も誰かにものづくりを通じて伝えていこうとする気持ちを持ち続けていました。それはデザイナーになった今も変わりません」

※ピート/森林資源が少ないスコットランドで、古くから熱源として使われてきた泥炭。ウイスキーの原料である大麦を麦芽にする工程では、ピートを焚いた煙を焚き込みながら乾燥させる。

クリエイターとしてのスイッチを入れるボウモアの力

ボウモアは潮の香りがすると言われる。西田によると、アイラ島の水や海藻類を豊富に含んだピート、そして潮風が吹き荒ぶ熟成環境が、そうした香りを生むのだという。

「ボウモアに感じるような潮の香りが、ウイスキーをつくる工程でどのようにして生まれるのか。科学的な分析を行っても、それを完全に解明することは難しいと言われます。でも確かに、ボウモアには海を思わせるアロマが感じられます」

数値だけでは図りきれない感覚だ。穏やかなピートフレーバーや潮の香りなど、ボウモアの魅力を形作るさまざまなアロマ。それらもずっと、変わらずに手づくりを続ける伝統の顕れではないかと語る。

「非効率だからと多くの蒸溜所で廃止されてしまったフロアモルティングを変わらずに続けてきた。それも感動を与えるボウモアの味わいの魅力につながっているように思います」

変わらないことは時代遅れではない。自分たちの情熱を届けたいという積極的な挑戦であり、確実に未来へと進む冒険だ。そんな老舗の矜持に篠原は共感する。

「伝統を大切につくられたものには魂が宿ります。私も祖母のように、長く愛されるもので誰かの心を震わせていきたい。だからこそ、ボウモアのようにブレない存在でありたいと思います」

これまでウイスキーの杯を傾けるのはゆったりくつろぐ時だったが、ボウモアはさらに別の気分も演出してくれそうだ。

「飲むことでスイッチが入りそうですね。ボウモアには力をもらえる気がします」

ずっと残されていくものを生み出していく――そう決意を新たにした篠原ともえ。自分であること、そして自分が好きなことを貫き続ける彼女に、“アイラモルトの女王”という新しいパートナーが加わった。

篠原ともえ/デザイナー、歌手、アーティスト

1979年東京生まれ。'95年歌手デビュー。メディアでの活動とともにデザイナーとして創作活動を始める。2022年、デザイン・ディレクションを手掛けた『革きもの』がニューヨークADC賞において二部門で受賞。また、新たに道を切り拓く女性リーダーや傑出したスペシャリストに贈られる「Women of Excellence Awards2023年」にも選ばれている。現在、報道番組『news zero』(日本テレビ系)で水曜パートナーを担当。

西田嘉孝/ウイスキージャーナリスト

1978年、京都市生まれ。ウイスキー専門誌『Whisky Galore』や『Pen』『SWITCH』などをはじめとするライフスタイル・カルチャー誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年 からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。Pen online Official Columnistとして活躍中。

BOWMORE 12YEARS

ドライなスモーキー感と柔らかなフルーティー感の調和が見事。飲みやすさのなかに、個性的な潮の香が感じられるボウモアを代表する逸品。

Photograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Styling:Tomoe Shinohara
Hair&Make:Yoko Suemitsu
Edit&Text:Mitsuhide Sako(KATANA)
Creative Direction:Yuya Kaneko(The Asahi Shimbun)

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