2000年に36歳でデビューし、それから約四半世紀で20本の作品を世に送り出してきた映画監督・山崎貴。VFX(特撮)のエキスパート集団である白組の仲間とつくり上げる映像表現は、日本国内はもちろん、世界的な注目を集めるに至った。こうした快進撃の原動力は「多くの観客に、映像の力で観たことのない世界を愉しんでほしい」という10代の頃に抱いた夢にある。
プライベートでもビールをよく飲むと語る山崎監督が、サントリーのビール工場を訪問。醸造家たちが抱く想いを聞きながら、ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリームを初めて飲む。自らの映画づくりにも通じる情熱にあふれたビールは、いくつものレイヤーがある多重奏でドラマチックな、別格※1の味だった——。
※1自社内比較において
映画の創始者であるリュミエール兄弟が手がけた最初期の作品のひとつに「ラ・シオタ駅への列車の到着」がある。1896年1月に上映された際、スクリーンの奥から向かってくる機関車が本物と錯覚され、多くの観客が恐怖のあまりに逃げ出したという。誇張された都市伝説と現在では疑問視する研究者もいるが、真に迫った「動く写真」の迫力が人々の心にエモーショナルな衝撃を与えたことは間違いないだろう。
映画監督であり、脚本、VFXも手掛ける山崎貴。2000年にデビュー以来、コンスタントに映画を撮り続け、2023年の「ゴジラ-1.0」は国内外で高く評価されたほか、興行収入でも大成功をおさめた。そんな輝かしいキャリアの原点は、スティーヴン・スピルバーグの「未知との遭遇」での映像体験。公開された1978年当時、長野県松本市に住む中学2年生だった。
「宇宙船が下りてくるシーンで、これって本当の円盤じゃないの?って思うくらい、衝撃を受けました。それまでの映画では『これは宇宙が舞台なんだ』と頭でなんとか納得しながら見ていましたけど、その必要がないくらいリアルでしたね」
80年代を代表するVFX映画が、まさに山崎にとっての「ラ・シオタ駅への列車の到着」だった。
夢中になった映画少年は自ら8㎜を回し始める。ジャンルはもちろんSF。中学3年生となり、同級生が受験勉強に勤しむ夏休みも、「図書館に行く」といいつつ、模型づくりに没頭した。前夜までアフレコをしていたという自主映画は学園祭でお披露目され、満員の好評を博す。その時の興奮と自信が、後の映画監督、そしてヒットメーカーとしての下絵となった。
専門学校を卒業後、映像制作会社の白組に入社し、数々の作品でVFXを担当する。やがて社内制作の企画募集に応募したことをきっかけに、脚本とVFXも手掛けた「ジュブナイル」で監督としてデビュー。高度なビジュアルを駆使した映像表現・VFXが評価を集めた。
さまざまな技術の集合体である映画、特にビッグバジェットの大作で主要なパートを複数兼ねる例は珍しい。監督が脚本を書くことは少なくないが、演出は俳優が演じるドラマまで。宇宙船やクリーチャーなどのCG画像を作成して合成するVFXは、特撮監督という専門家に任せるのがほとんどだ。すべてを担当するのはハードではないだろうか。
「自分としてはメリットしか感じませんね」と山崎は笑顔で否定する。「脚本を書きながら、出来上がりをイメージできますから」
ハリウッドとは桁違いに低額の予算を効率的に使うメリットもある。だがそれ以上に、自分の心が動くストーリーをそのまま観たこともない「画(絵)」にして、観客を思いっきり愉しませたいという情熱がその根底にある。
そんな山崎監督が、サントリーのビール工場を見学した。「メカ好き」と公言するだけあって、仕込釜や濾過槽のスケール、メタリックな質感に目が輝く。さらに醸造家の山口豊の案内のもと、マスターズドリームの素材や製法についてのこだわりに興味深く耳を傾ける。チェコとその周辺国で収穫、製麦される希少なダイヤモンド麦芽 ※2 を使用、そのダイヤモンド麦芽からうまみをしっかり引き出すために麦汁を煮出すデコクションを3回繰り返すトリプルデコクション、さらに通常のステンレスよりも熱伝導率が高いという理由から、「銅製循環型ケトル※3」という設備を自分たちで開発、導入したこと。裏側にある数々のエピソードに「すごい」と感嘆の声をあげた。
「飲むみなさんの笑顔が見たいですから」
マスターズドリームの開発時のみならず、毎回悩みながら最高の味を生みだすためにチーム全体で繰り返す試行錯誤。そうした苦労を穏やかに語る山口の言葉に共感を覚えたようだ。
「映画づくりと似ています。ビールをつくるときも素材を吟味し、あらゆる可能性を試しながら、これが正解と思えるやり方を導き出すんでしょうね。こだわりのレベルが半端ではないと思います」
山崎監督自ら率いる白組のVFXチームは、それぞれが優れた技術を持ち、本物としか思えないような映像を生み出すクリエイターの集まりだ。彼らの特長を尊重し、組み合わせることで映画にケミストリーを生みだす。
「羊ではなく、“猫の放牧”に近いと言われます(笑)。みんな好き勝手に取り組んでいるんですが、その中でいちばん遠くまで行った猫が面白いことをやっていたりする。うれしい驚きですよね」
個性派ぞろいのスタッフへの信頼は、同時に世界で評価された映像クオリティへの自信の裏付けでもある。
「これまで日本のVFX技術は一線級でないと言われていたかも知れません。でもわれわれのようなやり方なら、世界でも充分に行けるんじゃないかと思います。このチームの良さを生かしながら、これからも続けていきたいですね」
※2ダイヤモンド麦芽:チェコとその周辺国で収穫、製麦される希少な麦芽。上質で深いコク、うまみが特長。
※3銅製循環型ケトル:麦芽のうまみをより一層引き出すため、サントリーが独自開発した設備。
工場の見学後、山崎はマスターズドリームをじっくりと味わいながら飲んだ。これまでのビールとはまったく異なる美味しさに驚き、こう表現する。
「コクがあって、奥行きを感じさせる。味にレイヤーがありますね」
レイヤーがある——山崎にとって、これは優れた映画作品を評価するキラーワードでもある。喜び、悲しみ、恐怖、カタルシス。さまざまな感情を引き起こす表現の多層性こそ、映画の醍醐味だという。それに通じる深さをマスターズドリームから感じ取ったようだ。
「苦味、甘味、うまみのどれかひとつだけが際立つことなく、一体となって入って来る。それでいてそれぞれがレイヤーのように存在しています。まるで交響楽のような華やかさだと思います。こんなビールは初めて」
楽をしてつくった作品はそれだけのもの。「この程度なら」という妥協が、評価だけでなく観客の反応、引いては興行面にも影を落とす。ビールも同じこと。最高の味への追求こそ、醸造家の目標、そして矜持だ。
「マスターズドリームからは、新しい伝統をつくろうとするみなさんの想いが伝わってきます。ここぞというハレの日にふさわしい、まさに“別格”のビールですね」
映画は目を開けたまま見る夢。だが、夕日町から仰ぐ建築中の東京タワーも銀座を破壊する巨大モンスターも、銀幕ではすべてリアルだ。「あるかも知れない世界」へ観客を誘おうと切磋琢磨する山崎監督にとって、マスターズドリームはたゆまぬ努力をねぎらうひと時の夢となる。瑞々しいフィルムメーカーの情熱が続く限り、至福のビールとの共演にエンドマークはない。
山崎 貴(やまざき・たかし)
映画監督・脚本家・VFX制作者。1964年 長野県松本市生まれ。『未知との遭遇』や『スター・ウォーズ』に強く影響され、特撮の道へ進むことを決意。阿佐ヶ谷美術専門学校卒業後、1986年に株式会社白組に入社。伊丹十三監督作品でSFXやデジタル合成などを担当。『ジュブナイル』で監督デビュー、CGによる高度なビジュアルを駆使した映像表現・VFXが評価を集めた。三作目の『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)が第29回日本アカデミー賞最優秀作品賞他13部門を受賞。『永遠の0』、3DCGアニメーション『STAND BY ME ドラえもん』、『アルキメデスの大戦』などのヒット作を手がける。2023年公開の『ゴジラ-1.0』は国内外で高く評価を受け、第96回アカデミー賞®において視覚効果部門を受賞した。アジア初の快挙であり、監督が視覚効果部門を受賞するのはスタンリー・キューブリック(『2001年宇宙の旅』)以来55年ぶり2人目となる。