週末の過ごし方
大富豪が描いた「再生する島」
ラナイで出会った、これからのラグジュアリー
2026.10.13
ハワイ諸島のひとつ、ラナイ島。人口は約3千人、島内に信号はなく、娯楽施設は週末のみ営業する映画館と最近できたボウリング場のみ。そんなのどかな島だが、ここでは観光客が訪れることを通じて、自然や地域社会をより良い状態へと導く『再生型観光』が進められている。現状維持ではなく、再生する観光。島に滞在してみると、次世代が目指すラグジュアリーのかたちが見えてくる。
島を豊かにするラグジュアリー
億万長者が島を買って始めたこと
日本人におなじみの旅先・ハワイ。その主要8島のなかでも、ラナイ島は少し特別な存在だ。1922年にドール社がパイナップル栽培を始めて以来、島の主要産業として発展。最盛期には島の約2割にあたる土地が栽培地となっていた、通称「パイナップルアイランド」。現在も人口は約3000人と少なく、観光地らしい喧騒とはほとんど無縁だ。
ドール社が撤退したあとの2012年、オラクル共同創業者のラリー・エリソン氏がこの島の98%を購入した。世界でも指折りの大富豪が島を丸ごと手に入れたとなれば、大規模なリゾート開発を想像する。しかし、エリソン氏が掲げた方向性は、観光客を大量に呼び込むことではなく、自然環境を守り、地域社会と共存しながら、観光客が来る前よりもむしろ良い状態にしていく「リジェネラティブツーリズム(再生型観光)」だ。
島全体の運営や開発を担うのは、エリソン氏が設立したプーラマ・ラナイ。新たな施設や事業を始める際にも島全体の健全なバランスを保つためのお目付け役だ。そして、その考えに呼応しているのが、エリソン氏による所有以前から島にあったフォーシーズンズ リゾートである。
島の一翼としてのリゾート
フロポエ湾を望む「フォーシーズンズ リゾート ラナイ」は、島唯一の本格的なビーチリゾート。低層の建物が緑の中に巧みに配置され、全213室という規模もあって、大型リゾートにありがちな圧迫感がない。2026年もフォーブス・トラベルガイドの5つ星を維持しつづける最高級ホテルだ。だが、ここで感じるのは「豪華さ」だけではない。フォーシーズンズの企業全体の取り組み「Four Seasons for Good」に基づき、環境と人を軸にした活動を実践している。
たとえば、水を浄水してアルミニウム製ボトルに詰め、回収・洗浄して繰り返し使う「Boomerang」システム。また、持ち帰りできるリゾートのロゴ入りボトルを手渡し、ごみ削減の意識を高めてもらう工夫も。ビーチクリーンアップや植樹など、島の環境保全にも積極的だ。興味ぶかいのは。こうした取り組みがホテル単独の活動ではなく、プーラマ・ラナイなど島のコミュニティとの共同事業になっていることだ。つまり、ホテルを「島から切り離された豪華な別世界」にせず、ラナイ島の一部として旅行者自身も一緒に島のことを考えることができる。これがラナイで進められている再生型観光の特徴なのだ。
ラナイの暮らしを歩いてみる
それを実感するには、リゾートから一歩外へ出てみるのがいい。
1時間に1本あるリゾートのシャトルで向かったラナイ・シティは、「シティ」と呼ばれているとはいえドール公園をぐるりと囲むようにスーパーや学校、映画館、タウンホールなどが集まる小さなコミュニティだ。信号はなく、ほとんどが徒歩圏内。シャトルの停留所近くにあるヘリテージセンターに立ち寄ってみると、無料だがラナイ島の歴史がわかる展示がなかなか充実している。興味深いのは、パイナップル産業で栄える前の文化史にも触れられることだ。中にはその神聖さゆえに写真撮影禁止という小さな立像などもあり、小さな展示室でありながらじっくり眺めていると、優に1時間はかかる。
2026年には、島民の要望を受けてボウリング場もオープンした。観光客を喜ばせるためではなく、島で暮らす人たちが楽しむための施設。ほかにも、少し規模を拡大してポケなどの総菜も売るスーパーマーケットや、高騰するガソリンの値段をぐっと抑えたガソリンスタンドなど、プーラマが介入して整えられた環境は住民に寄り添っている。そんなところにも、この島の観光に対する距離感が表れているのだ。
食にも宿る、島とのつながり
シティにもレストランは数軒あるが、夕食はリゾートに戻って「Osteria Mozza Lanai」を利用したい。北米を代表するスターシェフ、ナンシーシルバートンがハワイ州で初めて手掛けるとして話題になった本格イタリアンレストランだ。昨年オープンしたばかりで今も高い注目を集めるが、なによりもここでは島内の契約農園から届く野菜や島内産の卵、近海で獲れるアヒ(まぐろ)といった地元の食材を積極的に取り入れている。また、成長の抑制や伐採が必要な繁殖力の強い外来種キアヴェをピザを焼く薪に使用するといった、環境保全への取り組みも行う。スタッフの多くもローカルで、フレンドリーというか、まるで家族を受け入れるかのような雰囲気。ファインダイニングとなると構えてしまうが、トロピカルリゾートゆえの気楽さとロコの明るさがとても気持ちのいいダイニングだ。
高級リゾートでありながら、ここで味わうのは「外から持ち込まれた豊かさ」ではない。島とリゾートが一体となって島にあるものを活かし、島に還元・循環している。旅行者は島を訪れフォーシーズンズ リゾートに宿泊することで、自らもその循環を支える一員となることができる。
ラナイで感じる豊かさは、なにかを新しく足していくことではない。すでに島にある自然や文化、人のつながりを守り、育て、未来へつないでいくこと。その循環のなかに旅行者も加わることで、旅そのものが島を豊かにする。そして、この「再生」という考え方は、島や環境だけに向けられたものではない。訪れる“人”自身の心と身体を「再生」するための、もうひとつの場所がある。そしてそれこそがエリソン氏が目指す完璧な“豊かさ”なのではないか。
それは、「Sensei Lanai」。島にもうひとつあるラグジュアリーリゾートだ。
Four Seasons Resort Lānaʻi
住所:1 Manele Bay Road, Lānaʻi City, Hawaii 96763, U.S.A.
電話(予約):+1 (800) 321-4666
予約メール:res.lanai@fourseasons.com
URL:https://www.instagram.com/fslanaijp/
<<後編は近日公開!
Text: Shie Iwasa