週末の過ごし方
米ツアー初優勝の西村優菜「やっと勝てた」
“感動劇”の裏にあった宮里 藍との物語
2026.10.02
女子プロゴルファーの西村優菜が、世界最高峰の米ツアーで初優勝を飾った。9月27日(日本時間同28日)、米アーカンソー州のピナクルCCにて開催されたウォルマートNWアーカンソー選手権最終日で悲願を達成。挑戦4年目、87試合目で手にした栄冠に「苦しかったけど、やっと勝てました」と言った。ゴルフは多くの悩みをもたらすスポーツ。自己と闘い続けた26歳が、直後のインタビューで残した言葉は計り知れない「重み」を感じさせた。
最終18番パー5。1.5メートルのウィニングパットを沈めた瞬間、西村優菜の小さな体から安堵(あんど)と歓喜が入り混じった感情があふれ出した。右手でガッツポーズ。渋野日向子、山下美夢有、吉田優利、馬場咲希からのウォーターシャワーでびしょぬれになった顔には、涙の線があった。
西村は父親の影響で5歳からクラブを握り、高校時代にナショナルチーム入りした。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)最終プロテストには一発合格。ルーキーイヤーの2020年に1勝、翌2021年には、ワールドレディスサロンパス杯で国内メジャー初優勝を含めて3勝。22年も2勝を積み上げた。
そして、同年シーズン後に受けた米ツアー最終予選会(QS)は24位。2023年からの同ツアー出場資格を手にした。150センチから繰り出す巧みなショット、アプローチ、パット。愛らしい容姿も踏まえ、屈指の人気プロに。文字どおり、エリートの歩みだった。
だが、海を渡ってからは悩み続けた。2023年8月、全英女子オープンを21位で終えた後、北アイルランド、カナダ、米国で3試合連続予選落ち。強風の全英、北アイルランドでプレーするうちにスイングを崩したことが原因だった。
それでも、年間ランキングは43位、2024年69位と同ツアーのシード権(80位まで)を手にした。だが、2025年は115位と低迷。準シード(81位~100位)も得られなかった。そして、QSを再受験して24位で今季2026年のツアー出場権を獲得した経緯がある。だが、今季も前週まで出場15試合中9試合が予選落ちで103位だった。
その間、自分より後から米ツアーに本格参戦した山下、西郷真央、竹田麗央、岩井明愛、岩井千怜の双子姉妹が優勝を飾っていた。そんな後輩たちと比較しつつ、「自分は下手になったんじゃないか」と何度も思い、米ツアー撤退も頭をよぎったという。
昨夏には、元世界ランキング1位の宮里 藍に相談もしていた。
「一度、会って話を聞いてもらいました」
8歳の時、兵庫県で開催の2009年サントリーレディスを観戦。会場で宮里にボールをもらったことで、西村は感激してプロを志した。その1カ月後、宮里はエビアンマスターズ(現エビアン選手権)で米ツアー初優勝。西村と同じ参戦4年目だった。
昨秋、国内ツアーにスポット参戦した際には、「たくさんのギャラリーがついてくださって涙が出そうになりました。やっぱり、日本は最高です」とこぼした。その一方で、インスタグラムには「また予選会に挑戦しようと思っています」「今のわたしの目標はLPGAにあるので、またここで戦えるように一生懸命頑張ります」と記していた。
撤退できない理由は、憧れてきた宮里への「恩返し」を果たしていないこともあった。そして、約1年が過ぎて、西村はショット、パットの全てがかみ合い、出場87試合目で2位に5打差をつける完全優勝を決めた。最終日は、ピンチの状況でバンカーからチップインバーディーを奪う「小技の西村」を象徴するシーンもあった。
低迷していた選手が突如、優勝争いをする。逆に好調だった選手がスイングを崩して大たたきする。どちらも、ゴルフでは珍しくない話だ。いくら努力をしても迷走するばかり。そんなケースもある。
それを十分に分かっている西村は、後輩ゴルファーたちへ送るエールを求められると、声を震わせて本音を絞り出した。
「自分も『努力は報われる』と思ってやってきましたが、報われないと思うとつらい。でも、努力しないと勝てないので、やりつづけることが大事かなと思います」
取り組んでいることが「正しい」のか、分からなくなるときもある。長く結果が出ないと、自分を信じられなくなる。でも、諦めたら終わり。宮里も米ツアー参戦2年目でドライバーイップスにかかり、苦しんでいた。それを乗り越え、西村と同じ小さな体(154センチ)で、世界1位まで上り詰めた。くしくも、ウォルマートNWアーカンソー選手権は宮里が最後に米ツアーで勝った大会。その「成功物語」こそが、西村の希望だった。
だからこそ、西村は記者会見で言った。
「早く藍さんに報告したいです」
そんな西村の姿は、高校生以下のジュニアゴルファー、プロテストに何度もはね返されているゴルファーに大きな「勇気と希望」を与えている。涙の数だけ強くなれる……、何度も流した悔し涙を変えた西村の物語は、これから第3章に入る。