週末の過ごし方
八重洲、日本橋、京橋、銀座エリアで写真フェスティバル
「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2026」が開催中。
国内外で話題の写真作品に出会える!
2026.10.16
この秋、東京駅の目の前に誕生したTOFROM YAESU TOWERや、東京ミッドタウン八重洲をはじめ、八重洲、日本橋、京橋、銀座エリアの各所を舞台にした写真フェスティバル「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2026」が開催中だ。期間は10月26日(月)まで。
8回目となる今回のテーマは「と」。日本語でもっとも小さな接続詞である「と」をテーマに、世界中の写真家とともに、人と人、世界と世界をつなぐ新たな可能性を写真を通して探っている。
「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2026」では企画展を含めて14の展示が行われているが、その会場はビルのロビーやファサードの柱、地下街への入り口、カフェの店内などさまざま。ビルが立ち並ぶ都心の街中に溶け込むかのように写真作品が飾られているのが特徴だ。
となると、どこから見ればいいのか迷うところだが、中でも絶対に押さえておきたい展示が、2つのメイン企画展だ。
ひとつは、2026年ハッセルブラッド国際写真賞受賞者で、現在、世界が注目するアーティストのひとり、ザネレ・ムホリの展示だ。ムホリは南アフリカを拠点に、写真を通して、人種、ジェンダー、セクシャリティ、アイデンティティをめぐる問いを投げかけ続けているアーティストである。
展示のタイトルは「ものが王冠になるとき、」。作家自身がモデルとなり、洗濯ばさみやゴム手袋など家事労働やケアを象徴する身近なものを王冠や装身具に見立てたセルフポートレートを撮影。歴史の中で不可視化されてきた労働や記憶に新たな意味を与え、尊厳と誇りを力強く表現している。
作品はTOFROM YAESU TOWER 1Fの吹き抜けのロビーに展示されている。いずれも人間の背丈を超えるほど巨大で、空間そのものを支配するかのような強い存在感を放っている。
もうひとつは、東京ミッドタウン八重洲のロビーに展示されたルーカス・フォグリアの展示「コンスタント・ブルーム」だ。ルーカスは人間と自然の関係をテーマに制作を続けるアメリカの写真家だ。
今回の展示では、世界最長の渡りを行う蝶として知られるペインテッド・レディ(ヒメアカタテハ)に注目。アフリカから中東、地中海を越え、ヨーロッパへと移動する蝶の軌跡と、同じように国境を越えて移動する人々の姿を重ね合わせるように写真に収めている。
作品を通して、知られざる蝶の生態や人々の営みなども知ることができ、大人から子どもまで幅広い層の人たちが楽しめる展示となっている。
写真の意図やメッセージを読み解くおもしろさ
もちろん、ほかにも見どころは満載だ。例えば、サラ・ファン・ライの展示「L’épaisseur du temps(時の奥行)」。サラは写真やコラージュ、セルフポートレートを通して、詩的なイメージを生み出す写真家だ。有り体に言えば、おしゃれな作品という印象だが、深掘りすると、そこに描き出されているのは、展示タイトルが表すとおり、時の奥行きだ。
風景やオブジェクト、身振り、さらには東京の街並みなどが、幾層もの時間を宿す風景として作品に織り込まれている。異なる場所や記憶、時間が静かに重なり合うことで立ち現れる、時の奥行きを作品から感じ取りたい。
フランスのインディペンデントキュレーターであるマーク・フューステルがキュレーションを手掛けた展示が、時代を超えてつながるふたりの写真家、植田正治と牟禮朱美による「Shoji Ueda's Inner Child / さなぎの中は誰も知らない」だ。
鳥取砂丘を舞台にした独創的な演出写真で知られる植田正治。展覧会「Shoji Ueda's Inner Child」は、生涯にわたり自らをアマチュアと呼び続け、自由な発想で写真表現を追求した植田の創作の原点をたどる写真展である。植田の作品を“子ども”という視点からあらためて見つめ直す絶好の機会にもなっている。
一方、牟禮朱美は、植田と同じ鳥取県境港市を拠点に活動する写真家だ。植田の写真精神を受け継ぎながら、現代の視点で「思春期」を見つめ続けている。地元の学生たちを被写体に「思春期」という言葉に結びつけられた固定的なイメージではなく、言葉では捉えきれない揺らぎや、移ろいゆく感情を写真を通して丁寧に見つめてきた。作品には、制服という「さなぎ」に包まれた十代の少女たちの姿が、被写体である少女たちと作家自身の記憶が静かに重なり合う風景として描かれている。
TODA BUILDING 1Fのカフェ、Gallery & Bakery Tokyo 8分で展示されているのが、鈴木のぞみと上原沙也加による「写真と想像力:鈴木のぞみ & 上原沙也加 with the Higashikawa Award Collection」だ。横浜美術館主任学芸員の大澤紗蓉子がキュレーションを手がける展示で、写真を通じて優れた表現活動を行う作家に贈られる「写真の町」東川賞(新人作家賞)をともに受賞した鈴木と上原の東川賞受賞作と近作が、想像力をキーワードに紹介されている。
会場には鍋やコーヒードリッパーなどが展示されているが、これは鈴木の作品で、街中や日用品に見られる小さな穴を通った光が作る映像を印画紙や日用品に定着させ、我々が普段見ることのない、もうひとつの世界の姿を可視化している。沖縄を撮り続ける上原は、目の前の風景に折り重なる時間や出来事の痕跡をたどっている。被写体や情報を記録するだけでなく、その場所や物に宿る歴史や意味へと眼差しを向ける、鈴木と上原のふたり。会場でぜひその魅力を体感してほしい。
回を重ねる「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」の成長と拡大を感じる展示が、児玉浩宜とSouth Hoによる「T3 NEW TALENT:Trace Layers」。実はキュレーションを務める池田佳穂は、未来の才能を発掘・支援し、国際舞台への扉を開くプログラム「T3 NEW TALENT」によって選出されたインディペンデントキュレーターであり、展示はこのプログラムの成果でもある。
児玉浩宜の作品は、社会的な出来事の渦中で変化する都市空間を見つめ、人々の行為や集まりによって刻々と移り変わる風景を捉えたもの。South Hoは、抗議活動や社会運動のあとに残された痕跡に目を向け、時間とともに日常へ溶け込んでいく記憶を描き出している。ふたりの異なる時間軸を往還することで、都市を単なる物理的な空間ではなく、出来事や記憶が折り重なりながら書き換えられていく場として捉え直す。鑑賞後は街の見え方が変わるかもしれない。
八重洲ダイビル ヤエチカ(八重洲地下街)25階段に展示されているpiczoの「レインカネーション」も見逃せない。piczoはロンドンを拠点に活動したのち、現在は日本を拠点に国内外で活躍する写真家だ。
作品に写し出されているのは、20年間暮らしたイギリスを離れ、日本へ拠点を移す前に訪れたアイスランドでの出来事。同じ被写体、同じルート、同じホテルをたどる旅を通して、過去の記憶と現在の風景が静かに重なり合う。その叙情的な描写に感情をわしづかみにされ、作品の世界にぐいぐいと引き込まれていく。
ネコの写真を集めるスタンプラリーが楽しい
また、「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2026」を盛り上げているのが、隠れたネコの写真を探すデジタルスタンプラリーだ。アートとカルチャーに特化したAIアプリ「Artlas」内のコンテンツとして「無敵すぎるネコ デジタルスタンプラリー」が登場。これは歌川国芳の浮世絵『其のまま地口 猫飼好五十三疋』に着想を得た企画で、都会の片隅にたたずむネコ写真家・沖昌之の作品を見つけたら、QRコードを読み取ることでスタンプが集まる仕組みだ。集めたスタンプに応じてオリジナルグッズがプレゼントされるので、ぜひ挑戦したい。
そして、10月17日(土)から19日(月)には、アジアにおけるアートフォトマーケットの創出を目指す写真アートフェア「T3 PHOTO ASIA 2026」が開催される。アジア各地から24軒のギャラリーが集結。作品の購入も可能だ。加えて、17日(土)、18日(日)には、アーティストや出版者72組が自ら作品を持ち寄るブックフェア「T3 BOOK MARCHÉ 2026」も同時開催される。
さらにトークイベントも充実。特に10月16日(金)から18日(日)までの3日間はプログラムが目白押しだ。ポンピドゥー・センターやシカゴ美術館など世界の主要文化機関のキュレーターたちや出展アーティストなどが集い、写真の現在を、美術館、アーカイブ、都市、アジアなど、さまざまな視点から語り尽くす。
まだまだここでは紹介しきれないほどコンテンツが盛りだくさんの「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2026」。期間中に通勤や出張などで東京駅を利用することがあれば、ぜひ一度、八重洲口から外に出てほしい。その先には作品を自由に鑑賞しながら写真の今を体感できる、コンテンポラリーな美術館のような街が広がっている。
「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2026」
会場:八重洲、日本橋、京橋、銀座の各所
日程:2026 年 10月3日(土)〜26日(月)
入場料:無料
https://t3photo.tokyo/
「T3 PHOTO ASIA 2026」
会場:TOFROM YAESU TOWER 6階 東京建物 ぴあ シアター&カンファレンス
日程:10月16日(金)(プレビュー)~19日(月)
入場料:前売券2,000円、当日券2,500円、学生/障害者1,000円
https://t3photo.asia/
Text:Hiroya Ishikawa